第5話 マレッティとフレイラ
アーリーはカンナが声を出すまで、辛抱強く仁王立ちのまま、待った。やがてカンナが息を取り戻し、ずり落ちたメガネを戻して両手を胸に交差して当て、何度も礼をしてなんとか口をきいた。
「あっ、あの、今日から、おせっ、お世話……お世話にになります、カカッ、カンナです。カンナ……カンナといいます。あのっ、その、あの、その……ですね、かっ、可能性……可能……性は……その……」
自分でも信じられなく、恥ずかしくて、とてもではないが云いだせない。冷や汗が吹き出て、眼鏡がまた鼻へ下がってくる。
「99。99なのだろう? 鑑定所から伝書が届いている。サラティスで、可能性90以上は私とカンナ……君だけだ。また、90以上が二人揃うのは、十三年ぶりだ」
「そう……ですか」
「黒猫は何も云わなかったか?」
「ネコ……ですか?」
「一階にいる事務の女だ。本名は誰も知らない。私ですら」
「……黒……猫……?」
カンナは不思議な気分になった。あの幻影のような事務の女性は、黒猫というのか。その気分に支配され、感覚がしびれた。
そのしびれを振り払ったのは、凛としたアーリーの次の言葉だった。
「仲間を紹介しよう。我々は隊列を組んで竜と戦うときもあるからな。いつも皆が勝手気ままに竜退治をしているわけではない。カンナが入所したことで、再びサラティスのカルマは五人となった」
右手を上げると、窓からの逆光に、二人の影が浮かんだ。それはすぐに人物となってカンナの眼前に現れる。
二人ともカンナよりやや背の大きい、同じような背丈、体格だったが、印象は対照的だった。長い透き通った濃い金髪に大きな蒼い眼と愛らしげな顔だちの白いフリルだらけの服の女性と、濃いくしゃくしゃの焦げ茶の髪を肩でそろえ、日焼けしたこちらも眼の丸い精悍な顔だちに笑顔と白い歯がまぶしい、身体をしめつけるような革の服をまとった女性だ。金髪は金満な良家の子女というふうだが、茶髪の方はいかにも怪力なアーリーとはまた異なる、敏捷性に富んだ筋肉が躍動しているのがよく分かった。
「二人とも、新しい仲間のカンナだ。歳は十四。可能性は……」
「きいてるわよお! 99なんですってえ!? すっごおいじゃなあい!」
金髪の方が転がるような高い声を出してカンナへ近寄り、その手をとった。カンナは迫力に気押されして声も無い。
「二人とも自己紹介しろ」
「あたしはマレッティよお。歳は十九。カンナちゃんよりおねえさんなんだからあ! 可能性は86でえす」
「オレは、フレイラってんだ。歳は二十二だ。可能性は84。マレッティとは同期で……三年前? もう四年前か? それくらいからここで世話になってる」
「ど……どうも……よろしく……でした……」
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