第3話 カルマのアーリー
塔の門を潜ると、鑑定所から付き添っていた男は門番へ向けてぺこぺこと頭を下げ、行ってしまった。何をして良いのか分からず、カンナが突っ立っていると、門番の一人が声をかけてきた。
「どうぞ、中へお入りになり、そちらで登録をしてください」
「えっ、あ、はい……! あ……ええと」
「どうぞ?」
「あ、はい……」
おそるおそる扉を開け、塔へ入る。入る前に、そっと振り返ると、門番たちが凝視していた。あわてて入って扉を閉める。
中は窓が無く、やたらと暗い。しかしどこからか風が流れていた。暗がりを燭台の光に導かれて進むと、行き着く先に机があって、女性が一人座っていた。煌々としたランタンでペンを走らせている。カンナと同じくメガネをし、反射してそこだけ暗がりに浮きでていた。吸いよせられるように近づくと、ゆったりとしているが機能的なデザインの喪服のように黒いワンピースを着こみ、茶に近いブロンドを後ろでまとめた女性が、意外に若いのが分かった。
「名前」
落ち着いた声だけが出てきて、カンナは肩を震わせた。机まで近づいても、まだ女性は顔を上げない。言葉が出ないでいると、女性がまた声をだした。
「登録するから。名前」
口が動いていない。人形ではないのか。これは幻覚を見せられているのか。
「あ、あの……」
「アノさん?」
「カンナです」
「カンナ……」
女性がやおら椅子ごと後ろを振り向いて、暗がりで気づかなかったが、重々しく設置してある金属の装置を操作し始めた。そしてきらりと光る掌中に納まるほどの大きさの金属板をプレス機へはさみ、把手を回して刻印する。さらに厚い木のカードへそのプレスされた金属板を当て、木槌を取り出し、素早くビスで打ちつけた。そして、顔を上げ、サッとカンナへそのカルマの紋章とサラティス文字によるカンナの名前、二十三という数字の入ったカードを差し出した。その引き締まった顔に、カンナはどぎまぎした。
「これが貴女の身分証」
「身分証……!?」
見ると、黄金のプレートが頑丈な板にぴったりと打ちつけられていた。
「これで、貴女は正式にサラティス・カルマの構成員となりました。最上部に他のバスクがいるから、挨拶して。仕事はいつでもできますから。最初は、みんなといっしょにやってもいいし、一人でできるのならどうぞ」
「できません」
「じゃ、挨拶して。特に、古参のアーリーはカルマのまとめ役みたいなものだから。面倒みてもらって」
「アーリー……」
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