第2話 カルマの塔
「……えっ?」
「もう一度云うよ。……アンタが世界を救う可能性は、99だ。もう云わない。……誰か!」
すぐに係の者がドアを開けた。
「こちらの御方を、カルマへ御案内しな」
髭づらの中年男性は驚きと不審をない交ぜにした顔でカンナを凝視したが、老婆に一喝され、すぐにカンナへ向けこうべを垂れた。
「あの……いや……あの、間違いです。絶対に間違いです」
「あたしの鑑定に、間違いなんか無いね! ……だけど、あんたね、勘違いしちゃいけない。可能性はあくまで可能性だ……。あんたにやる気が無いんじゃ、明日にでも死ぬよ。……ここは、そういう街なんだから」
カンナは呆然と鑑定所の老婆を凝視した。その皺の奥に光る眼が、しっかりとカンナを見据えていた。
「……99なんて、本当はバスクの中のバスク……『バスクス』とでも云うべきところだが……そんな惚けた態度じゃ、とてもそうは呼べそうに無いね。いや……さては、あんた、自分の当てがはずれたかい? 自分の可能性なんて無いも同然だって、ガリアが遣えるからって期待され、ここに来たはいいが、戦いなんてしなくてすむって、思ってたかい?」
「あ……その……」
老婆が皮肉に満ちた笑みを浮かべた。
「ま……そうは問屋が卸さないのが人生だ。さあ、気合入れて存分に竜と戦いな……!!」
いいように云われ、引きずられるようにして、カンナは部屋を出た。
そのまま、丁寧なのだか強引なのだか分からない扱いでカンナは街の中央にある塔へ連れてゆかれる。人々は何事かと思ってカンナを見たが、まさか、このメガネがいまにもずり落ちそうな近眼の娘が、カルマの新メンバーとは思いもしていないのは確かだった。可能性40以下の、バスクになれない補佐階層たるセチュの新人が、バスクの頂点にたつ可能性80以上のカルマの下女にでもされて、恐ろしくて嫌がっている。そう誰もが思った。
カルマの塔はサラティスの象徴だった。この石造りの古い建物は、この城砦都市で最も高く、城壁の向こうに広がる荒野を
衛兵ですら、屈強なガリアの遣い手だった。ただ、可能性が低いというだけで、補佐として雇われ、塔の門番をしているにすぎない。
鑑定所の下男が平服に腕を組んで立っている二人の門番へ事情を告げると、ポカンと口を開けた三十歳ころの女性がカンナを見つめた。もう一人の門番もそれより若干年下の女性であった。話を聞いたとたん、鼻で笑ってカンナを明らかに見下している。鑑定所の老婆ではないが、可能性はあくまで可能性であって、カンナがこの門番より強いというわけでは必ずしも無い。ただ、最初の一回の鑑定で、カンナはサラティス・バスクの最高峰であるカルマの正式な構成員で、彼女たちは門番なのだ。それが、この街の掟だった。
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