第204話 会議、そして行動
「・・・そんなわけで、解任された」
まさかの無職だ、と自嘲気味に坂元は笑った。
「これから、どうなるんですか?」
「君らの処遇か?」
莉緒の心配が、自身のこれからのことだと受け取った坂元は「安心して良い」とこれまで見せた事もないような穏やかな声で言った。
「既に引き継ぎ作業は昨日の夜中にやっておいた。君ら二人は今後三蔵家が担当する。おばさんが持っているし、確かスセリも僕と同じ免許を持ってたはずだ。そうだよな?」
「え、う、うん。持ってたと思う。私、姉さんの管理化だし・・・」
「そういう事を言ってんじゃないわよ」
横から彩那が割って入る。
「あなたよ、あなた。これからどうするの? あなたみたいな社会不適合者が再就職なんて出来るの?」
隣で莉緒もうんうん頷いている。
「社会不適合者とは中々辛らつな評価だ。否定は出来ないが。確かに、僕はこれまでこれ一本で生計を立てていたしな。これ以外の働き方はほぼ知らん。稀にカフェで店員ぽいことはしていたが」
だがまあ、心配はいらないよ。と坂元は笑う。
「これまでの貯金もあるし、何より退職金が振り込まれていた。確認したらとんでもない額だ。遊んで暮らしても釣りが来る。流石は鷹ヶ峰家、保障もばっちりだ。と、いうわけで、どうするの、という質問に対してだが、遊ぼうと思う。今日からずっとバケーションだ」
手始めに引っ越すことにしたから、と作業の邪魔を理由に、坂元は彩那たちを追い返した。無理にはしゃいでいるように見えたのは、彼女たちの気のせいだろうか。
「本当にあれで良いのかな」
カフェのテーブル席を占拠した三人は、思い思いの注文をし、アイスティに突き刺したストローを啄ばみながら、まるでポツダム会談中の首脳のような重々しい空気を作り出していた。座席についてからも三人とも無言で、何も考えられないのと考えすぎて思考が真っ白になっているの間を行ったり来たりしていた。そしてしばらく経っての、瀬織の発言である。
虚ろな目で、二人が彼女に視線を向けた。
「「あれって?」」
「辰真さんだよ。辞めるとか、本人の口から聞いてもまだ信じられない。あの人、物凄い優秀なんだよ」
「優秀? あれが?」
信じられないものを見る目で彩那が瀬織を見た。
「いや、ほんとほんと。これまで解決してきた案件はトップクラス。うち三、四回は国家の危機に関する案件で活躍しているし」
ますます信じられないといった風に、彩那の目が細まっていく。
「いや、確かに普段のあの人を見てたら想像出来ないかも知れないけど」
説明して余計に信用されなくなって、自分のせいで彼の名誉が損なわれていくのに焦る瀬織。何とか立て直しを図る。
「まあ、とにかく出来る人だったんだよ。だから、十六夜さんが彼を解任するって考えられなくて」
「十六夜って、あの鷹ヶ峰の?」
莉緒の質問に、瀬織が頷く。
「うん。言ってなかったっけ。うちの姉さんの上司。というか、うちの姉さんとあの二人、同級生だよ」
「そこんとこ詳しく」
勢いよく食いついた。トライアングルな関係から、下世話な想像が莉緒の中で膨らむ。次の話の参考になるかも知れないし、ただただ聞きたい。
「期待させといて悪いけど、うちの姉さんはその関係の輪に入ってないよ」
苦笑して、前のめりになっていた莉緒を席に押し戻す。
「姉さん曰く、辰真さんに手を出そうとした女子は悉く消えたんだって」
「・・・えっ」
突然のホラー展開に二人はついていけない。
「嘘かホントかしらないけど、辰真さんを狙ってた女子は急に転校したりするんだって。両親の転勤とか? で海外に行くとか」
巨大な権力が背後に見え隠れして、笑うに笑えない。あっけらかんと姉からの伝聞を話す瀬織のほうがよほど異質と言える。
「ん? って、じゃあ、その話が本当なら、付き合ってるってのは冗談でもネタでもなく」
「うん。それはホントみたい」
「だったら、解任した理由がなおさらわからないわね」
三人は首を捻る。自分の彼氏であり、しかも仕事も出来る人間を解任する理由が見当たらない。
「ともかく、私たちがここで唸ってても、解任についての謎は解決しないわ。結局の所、私たちがどうこう出来るものでもないし」
アイスティーが空になった頃、彩那はそう言って席を立った。
「じゃあ会長は、このまま坂元さんが辞めても良いって事?」
少し批難っぽい目線で莉緒が彩那を見上げた
「私としては、あいつがどうなろうと知ったこっちゃないわ。けど、自分のあずかり知らないところで起きてる何かのせいで振り回されるのはちょっと気に入らない」
「お、ということは?」
楽しげに瀬織が促す。
「調べてみましょうか。どこまで出来るかわからないけど、何も知らないまま流されるのはちょっと気持ち悪いしね」
「賛成」
莉緒が立ち上がる。
「坂元さんには世話になってるから。それに、何かあの人無理してそうな、本意じゃなさそうな感じがするんだよね」
それについては、彩那も瀬織も同感だった。バケーションと言いながら浮かれているような空気が全くなく、どちらかと言えば突然出来た休みをどうしようかと途方に暮れている印象を受けた。
「じゃあ、あたしも手伝うよ」
瀬織が席を立つ。
「というか、情報源って今の所うちの姉さんだけでしょ。あたしがいなきゃ手詰まりにならない?」
「「それな」」
二人が両手を銃の形にして瀬織を指差す。
「では、あの男がフラれた情けない理由を、暴きに行きましょうか」
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