第202話 三蔵さんちの三女
「や、ホントごめんね」
ファストフード店のテーブルを一つ占領して、彩那、莉緒、そして瀬織が円になって座る。
「最近無許可無認可で力振り回したり、能力を使って犯罪まがいの事をしたりする奴がいるからさ、ちょっと警戒してたんだ」
ちょっと所ではないプレッシャーを受けた莉緒が苦笑した。
「聞いてる聞いてる。進入手口がさっぱり分からない泥棒とか、公共物が物凄い力で破壊されてたりする、あれでしょ?」
そうそう、と瀬織はジュースをストローで吸う。
「だから、私らみたいに外での能力行使を認められた免許持ちは、該当者に出会った場合捕らえるなり通報するなり、本人に出来る事をする必要があるの。まあ、義務だけじゃなくて、人として犯罪行為を無視、放置するってのもどうかと思うんで、まあ、やれるだけの事はやっとこうかと」
「・・・やられなくて良かったわぁ」
ちょっとぉ! と先程のことを弄られたと思った瀬織が笑いながら莉緒の肩を叩く。莉緒からすれば本音七割冗談三割だ。対峙した時は本当に殺る気でやらなきゃ殺られると覚悟を決めかけていた。
「とにかくさ、同じ街に住む者同士よろしくね。多分、同年代って事で、何かの際は組むことも多いと思うから」
「それは、こちらこそ宜しく。三蔵家の人が味方にいるなんて心強いし」
ちなみに、既に三人とも連絡先を交換済みだ。
「・・・ねえ」
これまで口を閉ざしていた彩那が会話に割り込んだ。どうして出会ってすぐにこんなに打ち解けることが出来るのだろうかと不思議に思う。拳を交えたら友情が芽生えるのは男だけではなかったようだ。
「ごめん、前提条件を尋ねるようで悪いのだけど、三蔵家って?」
どこかで聞いた事はある、が、どういうものかは全く知らない。坂元に初めて会ったとき、そのことも説明の内に入っていたのかもしれないが、その辺りは諸事情により大分削られている。
「改めて尋ねられると、ちょっと恥ずかしいな。つうか、通じると思っていた自分もちょっと恥ずかしくなってきたのですが」
顔を赤らめ、小さくなる瀬織。
「いや、関係者で知らない人はいないと思うよ。多分会長がレアケースなだけで」
彼女の諸事情を伝聞ながら知っている莉緒が、照れて縮こまっている瀬織に代わり説明する。
「三蔵家っていうのは、この国、およびこの惑星を代々守ってきた守護者の家系の一つだよ」
他にも世界各地にそういう家系が存在する、とだけ説明する。他の家系のことまで話しだすと時間がかかりすぎるため、三蔵家にのみ焦点を当てて解説する。
「神話の時代から存在する、最も古い守護者の家系で、噂ではスサノオとクシナダの末裔って話だけど、それホント?」
スサノオとクシナダと言えば、古典に出てくる神様の名前じゃないか。与太話程があると鼻で笑う彩那に、莉緒が人差し指を向けて揺らした。
「甘い、甘いよ会長。この世界に現存する神話、伝承は、異世界関係の事件が伝言ゲームで事実が捩れて出来たものなんだよ。アトランティスも存在するしね」
莉緒の言う通り、アトランティスという国家は存在する。深海に沈んでいるわけではなく、星の海の中に浮かんでいる、の違いはあるが。
「でも、さすがに神様がいて、百歩譲って存在したとして、その神様の末裔がいると言われてもそうですかとすぐに信じられるわけ」
「逆だよ会長」
ふふん、と言い逃れする犯人に切り札を提示する探偵のように、莉緒が笑った。
「スサノオもクシナダも、人間だったんだよ。多くの功績を上げすぎて、その当時の人々に神様として奉られたの」
「神に?」
「そう。そして、これは不思議なことじゃない。この国の神社でも人を祭ってる所は多いし、海外でも皇帝が神格化されるのは珍しい話じゃないでしょ?」
「まあ、確かに・・・」
そういわれれば、納得するしかない。この前の依頼人の安倍や金長は、後で坂元に教えてもらったりネットや辞書で調べたら、伝説の狐や狸として古典に記されていた。何でも理屈を付け白黒付けたがる現代とは違い、古代の人々は不思議な現象や人では解明出来ない事を神霊の類として、『そういうものだ』と納得したのだ。ならば、超常の力を持つ者もそうやって納得した可能性は高い。
「神様かどうか、というのは一旦置いといて、事実三蔵家の人は神懸り的な力を受けついで生まれてくる。それこそ宇宙人や妖怪を相手取っても互角以上に戦える、純粋な戦力を有してるの。これまでも国家や惑星が危機に晒される度に現れて、守護者たちの中核的な存在として一騎当千の戦いを繰り広げた。それ故、味方からは英雄としてカリスマ的信頼を集め、異界の人々からは『三蔵家を敵に回すな』とまで言われる程。先の大戦では、大国の大統領や首相たちの秘密会議において『あと十人ミクラがいたら、敗北していたのは我々だったかもしれない』と言わしめたとか言わなかったとか」
「・・・私が何も知らないのを言い事に、嘘ぶち込んでない?」
「これが嘘か本当かは私にもわかんない。だって私も訓練所で他の人から三蔵家に多くある噂を聞かされただけだから」
「漫画のネタ用に?」
「漫画のネタ用に」
まっすぐな目で見つめ返されて、彩那は文句を言う気が失せた。しかしまあ、凄いというのは疑うべくもない。さっき絡んできた男のスマートフォンを破壊した時、莉緒は腕の変形こそさせなかったが、かなり本気で打ち込んだはずだ。その彼女の拳を真っ向から涼しい顔で受けた彼女が、常人であるはずがない。神懸り的な力も間違いなく持っているのだろう。その神懸り的な力を持っている彼女はというと
「・・・・・・・・・・・」
頭を抱え、顔を腕で覆ってさらに小さく縮こまっていた。
「どうしたの?」
「・・・あんたらも、自分の家の事を噂とか漫画のネタにされたらあたしの気持ちがわかるよ」
自分の家の英雄譚やトンデモ噂話を目の前で繰り広げられて、さらに恥ずかしくなったらしい。「だいたい、あたしまだまだ全然未熟だし」とさらに照れる彼女。シャイな女子か。彩那は心の中だけで突っ込んだ。
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