格ゲーマーな彼女との、トレーニングモードみたいな恋愛。

猫寝

第1話 間にあえレバガチャ

「………ごめん、ちょっと今ピヨってるから、レバガチャする時間くれる?」


 ……?

 言葉の意味が理解できず、僕の頭の上に大きなハテナマークが浮かぶ。

「あの…僕の話、聞こえてましたか…?」

「聞こえてたからピヨってんでしょ!?待ってよ!なに!?フルコンボ入れる気!?ジャンプ攻撃からフルコン入れる気!?いや、ピヨってたら入れるけど!私だったらフルコン入れるけど!!」

 顔を真っ赤にした彼女の発する言葉が相変わらず理解できない。

 ちょっと待て、状況を整理しよう。


 ―――ここは、僕と彼女が通っている高校の校舎裏で、僕が手紙で放課後に彼女を呼び出して―――――告白、したんだよな?

 告白の言葉はシンプルに、「好きです、付き合ってください」だ。

 彼女……幸谷 幸果(こうたに ゆきか)さんとは高校で始めて出会って、同じクラスになった事は無いけれど、見かけるたびに可愛い人だなーと思っていて、それがいつの間にか恋心に変わっていた。

 つまり、完全に顔だけの好みで告白してしまった訳で……それはまあ自分でもどうかと思うけど、好きだと思ってしまったのだから仕方ない。

 昔からよく友達に、「お前の、考えるより先に行動するクセは、長所でもあるけど、それ以上に酷い短所だと言う事をどうか心に留めておけ!」と。泣きながら言われていた。


 だと言うのに、今現在いきなり告白してしまったのだから、友人の助言はまるで効果が無かった事になる、すまん友よ。


 まあそれはともかく、彼女……幸谷さんだ。

「急いで~レバガチャ急いで私~。回復したら即座にリバサで昇龍ね。無敵技しか無い、この状況を覆すには、とりあえずリバサ昇龍でダウン奪って、冷静に起き攻めるのよ。こすれ!昇竜をこすれ私!はっ、待って!?私の無敵技ってダウン取れるタイプかしら!?考えたこと無かったわ!!そもそも私って、無敵技持ってるタイプのキャラかしら!?」

 何やら酷く混乱しているらしく、訳のわからないことを言っている。

「そもそも、そもそもよ!?なんでいきなり告白なの!?そんな、発生0フレでガード不能技みたいなの、バランスブレイカーもいいとこだわ!3ゲージなの!?3ゲージ技なの!?」

 後半の言葉はよく解らなかったが、突然の告白に戸惑っているのは理解できた。

「……あのー、幸谷さん?」

「―――はっ!良し、回復したわ。なに!?どう攻めてくるの!?飛び道具だったら全部パリィするわよ!ただのパリィじゃないわよ、ジャストパリィよ!」

 ……解らない言葉は、ひとまず無視しよう。

「すいません、あまり面識もないのに突然告白してしまって。ご迷惑でしたよね」

「え…あ、いえ、その……こ、こっちこそごめんなさい。ちょっと、その、こういうの……私、初めてだったから…」

 僕の謝罪で少し落ち着きを取り戻してくれたのか、顔を赤くして、手を後ろに回してモジモジと体を揺らす幸谷さん。

 ああ、良かった。ようやく、告白後っぽい空気になった。さっきまで異次元空間はなんだったんだろう。

 …にしても、告白されるの初めてなのか。こんなに可愛いのに意外だ。

「そっか、そうですよね……やっぱり突然すぎますよね。じゃあ、えーと……と、友達から…で、どうでしょう?」

 言っても僕も告白は初めてなので、どうしていいかよく解らないが、「まず友達から」はきっとセオリーだと思うので、間違ってはいないだろう。

「――――友達……そうね、あの…一つだけ、質問しても良い?」

「は、はい。なんでもどうぞ!」

 不意に変化した幸谷さんの雰囲気に、ごくりと唾を飲み込んだ。

 これはきっと、僕と幸谷さんの今後の関係性に大きく影響する質問になるのだと直感する。

 幸谷さんの口がゆっくりと開き、吐き出された言葉は――――


「投げキャラって……どう思う?」


 …………投げキャラ?


「ほら、私って投げキャラ苦手じゃない?苦手って言うか……許せないタイプじゃない?別に政治とかそういうことじゃないの、ただ理不尽だなって話なのよ。いやもちろんそもそも近づくの大変なんだからとか色々言い分はあると思うんだけど、それにしたって!みたいなとこあるじゃない?ねえそうでしょ!?」

 ……なんでこの人こんなに興奮してるんだ……?

「ちょっ、ちょっと待って。意味が、意味が解らないんだけど…」

 僕の返答に、彼女の表情が一変する。

 その表情を言葉にすると………圧倒的絶望、だろうか…。

 顔はそのままで、突然バックステップをする幸谷さん。

 少し後ろにジャンプするみたいに、一定の距離を下がる独特のバックステップを連続している。

「え?あの、罪でしたか!?今の理解できないの、そんなに大罪でした!?」

「そうね、とりあえず距離を離させてちょうだい。私、開幕からいきなり賭けに出たりしないタイプなの。まずはバクステで距離とって、牽制から丁寧に攻めるのね?」

 いや、わからんわからん。

「だから、しばらく様子見させて?言わないわよね?今時、待ちは卑怯なんて言わないわよね?待ちは立派な戦法なんだから、崩せない方が悪いのよ」

「……よく分からないですけど、様子見ってことは、とりあえず友達にはなっていいってことですか?」

 僕の言葉に、1分ほど上下左右いろんな方向に顔を向けながら考え込んでいた幸果さんだったが、何か覚悟を決めたのか、顔を真っ赤にして、僕を真っ直ぐ見つめて――――ゆっくりと、口を開いた。


「―――――保留で!!エクストラステージ突入よ!!」


 それだけ言い残すと、幸果さんは走り去っていった……

「いや、ちょっ……保留って、どう受け止めたらいいんですかーーー!?!?」

 背中に問いかけた言葉が、虚しく空に響いた……。



 どうしていいかわからなかった僕は、とりあえず幸果さんの言っていた訳の分からない言葉たちをスマホでググってみたところ、どうやらそれが格ゲー……格闘ゲームの用語らしいということは理解した。


 つまり、彼女は格ゲーが好き……と言うことか?

 なら、自分もやってみるか!!彼女の好きなものに対する知識を深めて、もう一度告白だ!!


 その日の帰り道、「あまり深く考えずにまず行動」の自分らしく、ゲームショップで有名な格闘ゲームを買って家路についた。


 ここからはじまった、僕と彼女のトレーニングモードみたいな恋愛。


 ランクマのように少しずつ段階を上がっていって、マスタークラスの関係になるのは、まだまだ当分先のお話――――。

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格ゲーマーな彼女との、トレーニングモードみたいな恋愛。 猫寝 @byousin

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