あくなき追求
「ついに出来たぞ」
ケイは長年研究してきた成果に思わず声を上げる。
手には実験室にありがちなガラス製の試験管。
ケイはこの研究室の所長である。
この研究室で研究をしてきたのは、人を純粋な気持ちにさせるための薬だ。
それが、今しがた完成したのだった。
ケイは純粋というものから、およそかけ離れた生き方をしてきた人間だった。
純粋というのは、まじりけのないものだ。
邪念や私欲を持たずに、駆け引きもしない。
ケイは逆だった。
学生時代から、打算ばかりを繰り返してきた。
友人を損得で選んだ。すべての選択は自分が損になるか得になるかだったし、そのためには思ってもみないようなウソもついたものだ。
就職も、結婚も全て自分の得になるように動いた。駆け引きも沢山してきた。
そうしていつしか、ケイは成功者となっていった。
自分のやりたくもない研究で世界的な賞も取った。
そして、ケイは純粋な気持ちというものに憧れを抱いていた。
憧れを抱くとともに、自分のこれまでの生き方に罪悪感を感じていた。
そしていつも空虚な気持ちを何処かで抱えていたのだ。
ケイは一気に、迷いもなく試験管の液体を飲み干した。
ところが、10分経っても、1時間たってもケイの気持ちは全く変化がなかった。
「おかしいな、実験は失敗だろうか」
首を傾げたものの、ケイは全く諦めることがなかった。
ケイはもはや、邪念や私欲を持たず、純粋になれる液体を開発することに何の疑問もなく取り組めていた。
そのあくなき追求は、きわめて純粋なものだった。
短編集 さまざまなそれ 村ののあ @noah_p
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