第3話
確かに、顔見知りでありながら、今の今までも一度も会話が無いというのも、それこそお互いに意図的に避けているようで、少し妙だったのかもしれない。
しかし、多くの人がそうであるように、久しぶりに会う人と会話するというのは、どうも気恥ずかしいものだ。日向の前ではいつもそうであるが、変に顔が赤くなっていたりはしないだろうか。
「あ、天野さん。久しぶり」
「うん、中学二年生以来ですね」
おや、三年生の時は会っていなかったか。彼女の顔も名前ももちろん覚えてはいたが、最後に会った時までは詳らかには記憶していない。
「ずっと話したいと思っていたんだけど、ちょっと晩生おくてなもので。こんな二人きりの機会じゃないと話せませんから、今日は神様から勇気をお借りして、思い切って話しかけてみました!」
「そんな大それたことでもないよ。あと、敬語はいいから」
「私、誰に対してもこんな口振りなもので。あまり気にしないでくださいね」
そういえば、中学校の時にも今と同じやり取りをしたことを思い出した。
「確かに、昔も敬語だったか。少し記憶が蘇ったよ」
「私もです。大会の400mリレーの際に、次の人にバトンを渡し損ねた橘田くんを今思い出しました」
「それ思い出さなくていいから。そういえば、中三の時は会っていなかったっけ?」
「・・・・。はい、会っていません」
なぜか天野は持ち前のポニーテールを揺らし、こちらから顔を背けた。妙に含みを持たせるような言動だったので、もう少し突っ込んでみる。
「三年生の時にも夏休みに一回、天野の学校との合同練習があったけど、そこにはいなかったか?」
「ああ・・・・うん、確かにあったけど、私は不参加でした」
「・・・・そうだったか」
また天野は渋ったので、これ以上は突っ込まないことにした。無闇に抽斗は開けるべきではない。
「あ、理由は聞かないんですね」
「いや、ちょっと渋ってるから、突っ込まない方が良いのかと」
「ああ、いえ、そんなつもりでは」
「・・・・。何か言いたいことがあれば、遠慮なんかせずに言ってくれていいよ」
明らかに、彼女は何かを言いたげだ。何ゆえに二の矢が継げなくなったのかは知らないが、ここは俺がリードオフマンになって、彼女に安心してバントを打ってもらおう。野球でもコミュニケーションでも、この流れというのは大切だ。
「実は、入学式のときから……いえ、中学校の時から、橘田くんに謝りたかったことがあります」
「何か君にされたっけか、ははは」
「……はい」
その神妙な面持ちは何ゆえか。これではまるで、リードオフマンであった俺が三振に打ち取られたがために、やむを得ずバントからヒッティングに切り替えた二番打者の様ではないか……。
ゲジゲジ @ninfami
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