第8話


ケース8『年金問題』


 政治家が口にした発言が、物議を醸している。


『九十を超えた老人は、年金を使って生かす価値はない。安楽死させてやれ。それ以上生きたいのなら、自分で貯蓄しておけ』


 過激な発言をする事で有名な議員だけど、若者からは賛同の声が上がっている。

 実現すれば少しでも、税金が減ってくれれば良いなと。


 日本は少子化が進む一方だった。

 政治家達は少子化対策よりも、介護や年金などを重点に置く。

 何故か?

 十八歳未満は選挙権がなく、十八を超えたからと言って、学業や仕事に忙しい者が多い。

 定年して時間を持て余している高齢者様とは投票率が違うのだ。


『投票済証明書』


 投票所に置いてある紙だ。

 父さんの会社では、これを回収する。

 選挙なんてだるいと口にする父さん。 

 僕が行ったのを会社に持っていく事もあった。

 よーするに、会社が無理矢理行けと言っているのだ。そうでなければ低いと騒がれている選挙の投票率は、もっと低くなっている事だと思う。


 

 少子化対策の一つに、近年では一夫多妻制を採用された。

 収入が多いものは、収入に応じて嫁さんを増やせるような制度が制定されたのだ。

 一人でも子供を増やすための、苦肉の策。

 この法律に対しては、賛否両論である。

 それで子供が増えるなら良いじゃないかっ! という意見が出る一方で、またお金持ちに対する優遇処置だよ。

 イケメンのお金持ち様だけが結婚できる世界になったな。俺達貧乏人は、女性に触る事が出来ない日も来るんじゃないか。

 偽装結婚増える。テラカオスワロタ。

 などなど、様々な意見がネット上では飛び交っている。



 僕はネットゲームに嵌ってしまい、一浪した大学生だ。

 パソコンの中だけが本音で話せる。素晴らしい場所だと思う。

 無礼講?

 酒の席?

 この世は、全ては偽りで固められている世界だ。


 大学に入って、趣味に重点を置こうと思った。

 憧れだった、アニメのサークル。

 僕の他にも、一年生が三人も入った。人によって好みがあるから、全部が全部、意見が合う訳じゃない。

 それでも、楽しかった。仲間が出来たって思った。


 馬鹿な僕は、飲み会でやらかしてしまったのだ。

 ちょっとよろけて、支えが欲しかった。先輩の頭に手を伸ばした。

 僕たちのサークルには、なんでこんなところに居るんだろうと思うイケメンの先輩が居て、その時、理由が判明した。

 彼は本物のイケメンではなかったのだ。


「……」


 イケメンの先輩。彼の自慢の髪の毛は作り物だった。かつらだった。

 その場が凍てついた。

 僕がサークルから追放されたのは、語るまでもない。

 

 この一件から僕は、ネットに依存するようになったんだっけ。

 


『九十歳以上は安楽死』

 

 身内に九十歳以上がいないなら他人事だけど、僕のお爺ちゃんは九十歳だ。

 この法律が制定されたら、家族が養う気がなければ、殺されてしまうのだ。

 一人ではまともに歩けない。今はおむつをされて、日々過ごしている。

 家族が居る時は笑っているけれど、お爺ちゃん自身が誰もいないと思っているであろう時。

 僕はお爺ちゃんが泣いているのを知っている。苦しんでいる事を知っている。

 好きで動けなくなっている訳ではないのだから。

 

 議員の言いたいことも分かる。

 今のスピードで年寄りが増え続ければ、年金が破綻してしまう事に。

 テレビでは若い世代は払い損になると、ちょっと前にもやっていた。

 支払う額より貰える額が少ないなら、誰だって払いたくない。僕だってそうである。

 未来の事なんて誰にも分かりはしないのに。極論を言えば、日本と言う国が滅んでしまう可能性だってあるのに。

 年金は破綻しない――政治家の人達は言う。

 矛盾してしまうけれど、その通りだと僕は思う。

 一方的に税金だと告げて徴収し、財源がないからと支給する年齢を遅らせる。

 


 昭和61年4月前の厚生年金では、男性60歳、女性55歳が年金受給開始年齢でした。



 なんて記述をネットで見つけた。

 今は六十五歳からの支給で、六十七歳から支給だとか、七十から支給だとか話が出て来る程だ。

 働くだけ働いて、貰う前に死んでくれと言っているようにしか思えない。

 事実、何パーセントかの人間は年金を払うだけ払って、死んでしまう者も居るだろう。

 政府の狙いはそうとしか思えない。安楽死制度そのものだって、年金を少しでも払いたくないから導入されたって噂があるぐらいだし。

 

 自分たちの好きなように年金の支給を決める政治家たち。

 少子高齢化だからとテレビで言い続けて、『支給が遅くなっても仕方ない』という世論を作り上げる。

 自分たちが年寄りだから、年寄りの都合の良い政策ばかりをする。



 年金様は、簡単には破綻しない。

 若者から搾り取る為の政策だから。

 極論を言えば、千円でも払っていると言い出しかねない。

 

 

 非人道的だと叩かれ、議員は辞職する事になった。

 ただ、彼の意志は頑なだった。


「私は間違っていない。安楽死を導入しようと、少子高齢化が止まらない限り……今に年金は破綻する。いいや、違うな。安楽死制度のせいで、働き手である若者まで死ぬようになった。少し嫌な事があると、簡単に死ねる」


 彼は言い切った。 


「間違っているのは、このおかしな世界だ」 




 人それぞれ、考えがある。

 少子高齢化、年金、安楽死。

 日本は色々な問題を抱えている。


 きっと、今日も日本の何処かで、色々な議論が行われている。



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