第三話 さらば異世界!…え、もう帰るの?

 はい、気を取り直していこう。

 教会…いや神殿?に来ています。

 地球でだってモスクだったりテンプルだったりシュラインだったり色々あるし、多分神を祀っているんだからとりあえず神殿としておこう。

 さて、門は小さい、おおよそ石でできてる。ステンドグラスみたいなの無し、女神像みたいなものもなし、中央にでっかくて白くて丸い石あり。

 その白い石の周りを信者の皆さんが土下座みたいな感じでお祈りを捧げております。

 うーん、異世界。これぞ異文化。

 ええなぁ~この感じだよ。

 旅行ってのはこうでなきゃな。

「信仰っていうのはアレだね、無関係の第三者視点から見ると、滑稽なもんなんだね。」

「十字きってアーメンも、なんも知らなきゃそんなもんなんだろうなぁ」

 文化的な違いを噛み締めていると、神官らしき爺さんが説法をしているようだ。

 あれは間違いない。長話だ。

 近寄ると無駄に時間を浪費するだろうから撤退が最善手だろう。

「さて、次は市場にでも行こうか」

「んーもう行くの?」

 あまり乗り気ではないみたいだが付いて来る。

「なんかまだ見たいところあった?」

「せっかくだからもう少しのんびりしてこうかと。」

 金髪幼女は服の中どうみてもパジャマからケータイを取り出し、パシャパシャ撮っている。

「あーなんだこれ」

 素っ頓狂な声を挙げると、携帯を見せてくる。

 今撮ったやつを見せるつもりか。

 …

 真っ黒でやんす。

 なんだこれ。

「不明。物理法則かなにかが違うのかもね。ケータイ起動してるけど、撮影の際に何か映り込んでるってことかな。」

 そうかー次元は同じかもしれんが宇宙が違ったり、そもそも次元が違う可能性もあるよね。

 神殿では、神みたいなやつから撮影禁止を食らってたりするかもだし仕方ない。

「証拠写真撮れなかったとか無念。」

 

 

 

 さて、冒険者ギルドハロワ、神殿を見たらだいぶ太陽が上に…おおう…

 月が見えるぜ、しかも2個。

 太陽一個の月2個以上。しかも昼なのに見えるとかすげえな。しかも水色で白いシマシマのある月と、黄色い(今は昼だからだいぶ白いが)まだら模様の月。

 水色の方、月じゃねえ。絶対に単純な月じゃねえ…

 アレ水と大気があるぞ。

 ともすればアレ人の住める環境じゃないかねぇ。

 

 いやこちらが衛星である可能性もあるか。

 いやあ、流石異世界。

 地球じゃできねえ事を平然とやってくれるぜ。

 

 まあいいや、そんなことよりお腹すいた!

「よし、なんか飯だ、ごはんにしよう」

「その意見に異存はない。で、市場に向かえばいいのかな?」

「露天でなんか串焼きでもしてるかもしれないし、ソレもアテにできるかもしれないね」

「食べ歩きも乙だね。それでいこう」

 意見がまとまった所で市場の方に移動。徒歩だからけっこうかかる。

 さて、ここで注意しなければいけないのはスリと、ゴロツキだ。

 スられてもあぶく銭だから痛くはないが、昼飯代くらいはとっときたいな。

 ということで銀貨を10枚くらい靴の中に仕舞う。

 ついでに金髪幼女に金貨を一枚渡す。

 …

 それにしても、いっぱい貰ってんだなぁ、城の兵士。

 もしかして結構偉い立場だったりするんかねぇ

 

 

 歩くこと30分くらい。

 さーて飯ならいい匂いさせてくれよー





 濃厚な香りを引き立てる白濁としたスープを飲みきる。

 飯だ。

 空腹は最高のスパイスだというのが、確かにコレは認めざるをえない。

「ふう…普通にまずいな!」

 不味いものは不味いのだ。


 表現しづらいが、なんだろうな。

 こう、喉の奥にひっかかって不味い味が停滞するというのかなんというか。

 

 そして一緒についてきたパン。

 硬い。

 フランスパンみたいなもんかと思ったが中まで同じように硬い。不味い。

 

 肉は塩味だけというワイルド感たっぷりだ。

 この中じゃ、肉のが美味しかったな。

 緑色で何の肉か分からない事を除けば満足だ。


「流石に異世界。ゲテモノがそろってるね。」

 嬉々として食べきる金髪幼女は、ゲテモノハンターですか。


「味については諦めてる。食べれればいいじゃない」


 店に入る前にそんなことを言っていたので、ある程度そのへんを見越していたのだろう。

 観光の醍醐味である、現地の良くわからない謎食材によるマズ料理を食べれただけで良しとしよう。

 

「で、次どこ行こうか。」

 飯を食い終わってのんびり水(有料)を飲みつつ、次の観光名所について思いを馳せていた。

「そりゃー次はショッピング?」

 ふむ、ショッピングか。

 買い物でいきなり武器は買えないがアクセサリだったら持って帰れるな。

 

 いやまて、武器?

 そうだ、武器屋!いいじゃないか!

 店売りの程度の悪い武器だって、俺から見ればお宝だ、持って帰るとお縄になるけどな!


「武器屋だ。武器屋に行くぞ!異論は認めない!!未だ見ぬ異世界のマジックウェポン!!今行くぜ!!」

 ぐっと熱く語ると、金髪幼女は呆れたような顔を見せるも、すぐに同意してくれた。

「杖なら持って帰っても平気でしょうしね」

 そうか杖なら平気だよな。

 ソレを言うなら弓でも平気か。

 弓道ですとかいっときゃなんとかなる。

 

 

 道行く人に訪ね歩くこと20分くらいで武器屋に到着する。

 店売りで売ってるものだけのようだ。

 一緒に雑貨も売っているので、武器だけを取り扱っている訳ではないのだろう。

 

「武器っていうのはどこも同じね。剣槍弓斧杖鎌…鎌?」

 草刈り用ではないのだろうが、鎌が売ってた。

 デスサイズという程大きくはない。草刈り鎌にしてはでかいが、何用だこれ?

 こういうのって鎖がついてたりするんじゃないのかな

「いや、あそこにでっかい鋤や鍬があるんだ、農具も売ってるんじゃないか?」

「なるほど」

 やはり武器屋じゃない。やっぱり何でも屋なんだろう。

 マジックアイテムも置いているのだろうか。

 うーん。目に入る範囲ではないみたいだな。

「うわー本当に剣だよ、マジモンだコレ」

 俺はその辺にある剣を持ってマジマジと見る。

 刃の部分はどれだけ鋭いかわからないので触らない。

「銃刀法あるから刃物は買わないほうがいいよ」

「わかってるよ」

 だが剣士として登録したからには剣も欲しいな。

 お、コレは練習用の木剣かな。木刀の親戚だろうが…木刀より長い。

「ん~~いちおう魔法使い系ということで、この杖買ってみよう」

 金髪幼女は自分の背丈を超える150cmくらいの真っ直ぐな杖を…いやコレ棒だろ。

 まあ金属類なんて持って帰れないし、こんなんでいいやね。

 

 木剣と棒の会計を終わらして、次はアクセサリ屋というか、マジックアイテム屋に行く。

 

 

 

 

 

 だめだ。ぶっちゃけ門前払い。

 金持ちとか紹介状がないとまず入場すらできない。

 やはり高価なものなんだなぁと感心する他ない。

 高価なものだから盗難されちゃいかんから、入場制限で対応しているのだろう。

 仕方ないので、そのへんの露天で暇をつぶそう。

 

 

 

「ふう、結構買ってしまった。」

 露天でこう、中二病的なものが数多く売られていたので、

 効果はともかく見た目で買ってしまった。

 帰ったら黒歴史間違いなし。

「それでも半分以上残ってる。お城の人、給料良いのね。」

 公務員でかつ専制政治だからなんだろうけど。

 

「まあ、もう時間だし遊びの時間は終わりかな。」

 そうか、もうそろそろ帰る時間か。

 名残惜しい気もするが、一生残るか今帰るかって話だ。それなら帰るって選択肢しか無い。

 一日異世界旅行楽しかったです。

 

 

 

 

「さて、このへんで良いかな。」

 人目の付かないような空き地に移動していた。

 送還するにはどうしても広さが居るし、なにより目立ちたくない。

 いや目立ってもいいのか。

 

『お子様がこんなトコに来ちゃいけないって習わなかったのかぁ~』

 主音声の方は嘲り笑うような声。

 おきまりのテンプレ、ゴロツキさんですね。3人で剣とか槍持ってる。

 ハロワ通いの冒険者なのかもしれない。

『ワルーいお兄さん達に襲われても知らないぞぉ』

 これまた主音声にへっへっへみたいな感じのが混じる。

『何か?』

 金髪幼女がカタコトで問いかける。マジ翻訳要らないんだな。

『お嬢ちゃんは、人買いに売っぱらうとしてだ』

 そう言うやいなや、幼女魔王が手に持ってた棒…杖で足を払い、倒れた所に上から顔面に叩きつける。そんな感じの無双劇が行われたが、数秒で終息する。

 パネェ、強いと思ってたけどマジ強え。

 こんなのと戦えだなんて、王様たち酷えよな。

「この棒すごい、折れないように戦ったら自然と手加減になった!」

 あーあ、棒って言っちゃった。

 杖だって思ってたのに。

 あと、あれで手加減してたんだ。

 流石最も魔王に近しい金髪ロリ。

 

「余計な邪魔が入ったけど、続けましょう。」

「お、おう」

「私もうちょっと残って観光してるので、王様から貰ったお金ちょーだい。」

 流石にまきあげたとか、カツアゲしたとかは言わないか。

 俺はお金の入った袋を渡す。

「持って帰るもんは持った?」

「おう、いつでもいいぜ。」

 どうするんだろ、魔法陣的なものが必要なんじゃないのかな。

 すっと幼女が右手で俺の足元を指差す。

「あー、魔法陣とか必要ないのか?」

「魔法陣ならもうある。」

 どういうことだ?

 疑念を口に出そうかというその直前に、召喚された時みたいに地面が光り始める。

 あぁ、なんか準備らしい準備してないし、存外送還は楽なんだな。流石化け物幼女。

 

 

 

 光が溢れ、目を開けていられなくなる。

 俺は目をつぶり、終わりを待つ。

 いやほんと眩しい!!

 だがそれも数秒のこと、溢れんばかりの光は終息した、

 俺が恐る恐る目を開ける。

 

 

 

 目の前にはスレンダーでかつ長身のキンパツ美女が居た。

 えーと誰だ?

 

「おかえり、ヤマトタケル君」

 驚いた。

 俺は確かに名乗っていない。故にギルドハロワで騙った名前しか無いわけだが、当然あちら側での話だ。

 だが、金髪幼女が1%でこちらが99%であり、かつ同期しているのであれば、情報は共有しているに違いない。

 つまり、こいつは金髪幼女と同一個体と思って良いのだろう。

 

「あー金髪の主婦か。」

 

 視線は胸へ。

 うん。巨乳ではない。つまり俺の脳みそに欠陥があったようだ。

 

「その言い方は無いんじゃないかね。」

「幼女とは言えなくなったのでね。で、どうしてここへ?お出迎えしてくれたんですか?」

 どうせなら、俺が召喚された場所に送って欲しかったが、ここはどこだ?

 よく見ると下に魔法陣が描かれている。

 大きさはだいたい直径10mくらいだ。

 そして、周りは木々に覆われている、どっかの森林公園かなにかだろうか。

 

「送還の魔法は無いと言わなかったか」

「あぁ、そういえばそんな事を…いやそうだったか?」

「つまり、地球側の私が君を召喚したという訳だ。」

 既に召喚はできるのだから、送還が難しければ召喚しようよ!って事か。

 なるほど。

 分離同一個体ならではの方法だな。

「まー単純に同じもの書けばいいわけじゃないから、難しかったのだが。」

 その辺の理論はよくわからんが、そういう事らしい。

 

「さて、ちょっと駅まで遠い。駅までは送ろう。」

 そう言うと、後ろにある黒い車に乗る。

 車に詳しいわけではないので、車種は分からないが、良くタクシーに付いてる王冠マークがあった。


 車に乗りつつ、荷物は後部座席へ置く。

「ちなみに、ここは何処ですか?」

「千葉なんだな、これが。」

 わーお遠いなぁ。

 

 まぁ、何にせよ俺の異世界一日旅行は終わった。

 おそらく異世界に召喚されてしまった人の中では幸運な方になるのだろう。

 だからその後の事は、もう蛇足だ。

 














 なお、電車内で流れる英語のアナウンスが俺の脳内で翻訳再生された時、盛大にビックリしたのは、本当に蛇足だ。

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召喚された直後に魔王とご対面して俺オワタ 秋月イネア @inea

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