第二話 冒険者ギルドに行こう!
そんなこんなで表に出た。
城を出て思った一言がコレ。
「なんだこの田舎感…」
「石畳すら無いね」
いちおう平坦に均されてはいるが、石畳などなく、居住区が外へ向かうほどにオンボロになっていく町並み。
「寺院とか市場とかが定番か…」
ん?何か忘れてるな。異世界といえば…
「まー観光だしね、行くだけいってみよう。美味しい食べ物があるかもしれないし。」
いや異世界といえば食弱。
ありえない食材を求めるのは人としての性分だが、異世界=まずい飯なのは鉄板だろう。
よって、期待するに及ばずといった所か。
城を出て町へ向かう。人は居るせいかほどよい喧騒はある。
だが文字が読めない。
そして町中でもゴロツキ風の男達が完全武装して跋扈している。
大丈夫なのか?ここの治安は。
あ…いや!
見落としてた!!
「そうだよ、冒険者ギルドだ!冒険者ギルド行ってみたい!」
日帰りだから、「どうやって食を確保しよう」っていう概念が無かったために失念していた。
異世界といえば冒険者ギルド!外せないよね!
「ハァ?冒険者ギルド?そんなのあるわけがないじゃない」『ハァ?ハローワーク?そんなのあるわけないじゃない。』
副音声ほんやく!!!お前は今日から俺の敵だ!!
冒険者ギルドが!冒険者ギルドがハロワなわけがない!!!
「副音声ほんやくが冒険者ギルドをハローワークと言ってる件について。」
「へ…あぁ、この翻訳アイテムのせいね。へんな訳しかしないけど、無いなら無いでこまったちゃんだから、迷惑なものねぇ」
許すまじ翻訳アイテム!
「でも、似たようなものじゃない」
「どこがだよ!」
「んーじゃあ共通点を言うわね。」
「うん?」
「定職についておらず。かといって特に経験があるわけでもない人材を」
「うぐ…」
「スキルがないなら鍛えさせ」
「ぬう…」
「各企業・各人は報酬を提示した上で依頼・求人を出すわけね。」
「うむ…」
「試用期間が終わったらハイさようならー。継続して働ける人はバッチリスカウト~~」
「ぬぐぐ…」
「ほら、どっちも変わらないじゃない」
「返す言葉もないが、それじゃ夢がないじゃないか!」
「現実は非情である」
「非情なのはお前だ!金髪幼女!」
「金髪幼女ってなによ、それ貶してるの?」
言い返せん、流石主婦幼女。
「だ、だったらS級とか上位冒険者はどーなるんだ!」
「有資格なフリーター?」
「ぐはっ、また世界の暗部が闇に沈んでいく」
「ツッコミ不能ね、やれやれ」
俺は冒険者ギルドについての夢が壊された。やはりこいつは魔王だ。絶対そうに決まってる。
「まあ、聞くだけ聞いてみましょうかね。ん~~~ねえちょっと、冒険者ギルドある?」
「*************」
「うわぁ~あった。あ、あっちねありがとー」
通りすがりの魔術風なローブ着てるお姉さんが指さして建物を指していた。幼女は手をフリフリしてぶりっ子のまね事。
つまり、あるんだな。冒険者ギルド!
「イヤッホゥ!」
俺はなぜだが小躍りした。
「どうかなぁ、ハローワークの類似品の可能性もあるわよ」
「ぃ…言うな!!」
俺は冒険者ギルドがいいの!冒険者ギルドじゃなきゃヤダ!!
じゃりっと靴を鳴らし、俺は今冒険者ギルドに来ている。
ハードボイルドなBGMかもーん。
「ここが冒険者ギルドか。」
「ここが冒険者ギルドね。」『ここがハローワークね。』
副音声さんはいつでもシリアスブレイカーだ。だが今、俺はそんなことは気にしない!
なぜなら!
夢の冒険者ギルドがあるのだから!!!
「いざ!参る!」
「そんなに気合い入れなくたって良いじゃない。」
金髪幼女を無視して俺は扉を開けた。
開いてしまった。
中はどうだ…ヘラヘラしたゴロツキ共はいるか?職員は美女か?
…ん、んーーー?
駆け出しぽい顔の比較的若い奴ら(武器と皮防具)とか、年食ってるジーさん(ラフな格好)に近い方。または主婦みたいな年齢の女性(比較的ラフな格好)。
ふむ…?荒くれぽいのがいないぞ、どういう事だ?
異世界ものならココで絡まれるのがテンプレかつお約束のはずだが…
「矢印がついてるわね。」
文字は読めないがとりあえず矢印の、とくに混んでないカウンターへ向かう。
「*********」
おっさんだが言葉がわからん。
「総合受付カウンターですって…あーそうねだいたいココの言葉理解したからコレあげる」
金髪幼女はそういうとネックレス的なものを渡してくる。
コレが翻訳アイテムなのだろう。
『で、何が希望だい?』
おお、すげえ翻訳されてる!
なんか感激。
「え、えーと新規登録したいと思います」
『そーかそーか、じゃコレ書いて、あっちの2番カウンターで整理札貰ってくれ』
「あ、はい…いえ読めません書けません」
へんてこな文字の書いてある木の板に、所々粘土的なものが埋め込まれてるブツを渡される。
何度でも再利用できるようにはなってるブツなのだろうけどわからん。
『ああ、代筆必要かい?そしたら代筆屋があっちのカウンターね』
ほう、代筆屋がいるのか、まぁ識字率高そうではないし仕方ないね。
『お嬢ちゃんはどうする?』
『私・同じ・登録』
金髪幼女はカタコトぽい。流暢ではないが通じるし翻訳される。
確かに主音声と副音声同時に聞いてたら憶えるかもしれんが…こっち来て学習タイミングは俺とあんまり変わらんはずだぞ。なんつうハイスペック幼女だ。
同じように木版を渡され、同じように代筆屋に向かう。
並んでる奴は居ない。
『はいはい、どっちが先かな?代筆代は一回100リーンだよ。』
リーンってのが通貨単位ぽいな、ワカランが銀貨一枚出してみる。
『ちょうどだね』
100リーンが銀貨一枚か、ふむふむ。
俺はもう一枚出して渡す。
「コレはこいつのぶん。」
『はーい。了解。』
もう一枚銀貨を受け取って、カウンターに居る間延びしたおばちゃん(?)が応対してくれる。
『じゃそこに座って、で名前は?』
む、そうだ…名前か。どうせ今日帰るんだ、ネタに走ってもいいだろう。
「苗字なしでヤマトタケルで」
後ろの金髪幼女が吹き出した。いいじゃねえか、ネタに走っても!
『はいはいっと、次は年齢、生年月日、出身』
「16歳、7月29日生まれ、神奈川出身です」
『えーと、穂の浦の月16日生まれでカナガワ?出身と。』
穂の浦の月ってなんぞ?しかも16日って…あーあれだ。翻訳が仕事したってことか。
『次は、特技スキルと、職種クラスいいかな?』
スキルと言われてもな。
そして中途半端にファンタジーな単語。当然みんな知ってますっていうような内容だが…
「スキルはうん…なしで、クラスってなんぞ?ソレもなしで」
『え!?なし…でやるの?』
やはり答えが違ったようだ。
「と言われてもね、ないものはないんだ。」
『無いわけ無いじゃない。あったほうがお仕事の融通してくれるよ~エントリーシートに書かないと、面接通らないんじゃないかな。』
エントリーシートって言った!いや翻訳された!
やっぱこれハローワークだこれ!派遣とか求人だこれ!
いやまて落ち着け。
完全武装な方々もいるんだ、きっと冒険だってできるさハハハ。今日で帰るんだけどね。
『まあ、あんまり特殊なのとかだと隠したい気持ちは分かるんだけど、とりあえずステータス見て、軽めのやつ書こう?』
はいきたステータス!
…どうやって見るんだよ!!!
「いやはや…ステータス?見たことなくてどうやるの?」
『…本気で言ってる?』
正気を疑われた!
くっ…この展開だとなんだろ、ど田舎から来てわからん親も教えてくれなかったっていう展開しか無理か?
それとも記憶喪失か…くそ、どうすべ…
「だって、誰も教えてくれなかったんだ…」
下むいて悔しそうに言ってみる。どうだ?
嘘は言ってないぞ。
『はぁ、まあ良いですけど、こう【ステータス】ってやればいいんですよ』
指で何か形作り、ステータスと唱える。
「ありがとう…ステータス…!」
しかしなにもおこらなかった。
「主音声ではステータスって言ってないよ。【エウァトケンス】って言ってるよ。それがきっとステータスなんだよ」
後ろの金髪がフォローしてくれた。
「ありがと、【エウァトケンス】」
ちょっと舌かんだが、ステータスなるものが出た。出てきてしまった。
「ちょ、エラー出た。ファイルが見つかりませんとかふざけてるのコレ!」
金髪幼女は想定外のエラーになってた。流石幼女魔王。ステータスが存在しない存在なんですね。
さて、俺のステータスはっと
Lv1 職業:勇者 特性:聖剣の担い手、神性魔法A++、光の神の加護 スキル:万軍無双
やべえ、勇者ステだ俺。ツッコミどころしかねえ…
スキルも職業も、なし…としか言えねえ。
『それで、職業欄はどうします?』
「このゆ…剣士って職業が適職かなんかなんですか?」
『あ、ハイそうですね。じゃあ剣士って書いておきます。』
おおう、勝手に職業が決まった。
『それでスキルの方は?』
万軍無双なんて言えねぇ~
「なしでお願いします。」
『なしと…、まあ剣士なら剣術:庚とかでもついてたら良かったんでしょうけどね』
なんだよその単位は、A++とかあるけどABCDじゃないのかコレ…
庚ってなんだよ翻訳!!!
『それじゃ、コレを2番カウンター…あの青い看板のカウンターへ持って行ってくださいね。』
「はい、わかりました。」
俺は素直に2番カウンターへソレを持っていった。
そこにはおっさんが何か書物をしていたが、俺が来たことでソレをどかす。
『はい、なにか御用ですか?』
「新規登録をお願いします」
言うと俺は木板を渡した。
『エントリーシートだね。はいはいっと、ちょっとまってね。』
エントリーシート…シートじゃねえ、板だ!
ソレを持っておっさんは奥へひっこんだ。
しばらくすると金髪幼女が俺の後ろに並ぶ。
「私らこの世界の情報足りなさすぎる。性急にやりすぎたのよ…」
同感だ。
まあ異世界一日体験コースだし気楽に行こう…
しかし勇者ステかぁ、この世界的には大損失なんだろうなぁ
でも、この世界に骨を埋めたくないし、仕方ないよね!
『はいお待たせ、24リーンだよ。』
おっさんから小さな木の板を受け取り、俺は銀貨を一枚渡した。お釣りは金髪幼女に渡す。
代筆屋のが高いのな。
…あれ?なんで俺が、王様からカツアゲした金もってるんだろう。
気がつなかかったが自然に渡されてたんだろうな。
恐るべし金髪幼女。
『私も、登録、新しい』
『はいよ、ちょっとまってね』
金髪幼女も無事ギルドカードをゲットしたらしい。説明は無いけどしてくれるのかな?
『あそこの求人ボードにできそうな依頼を選んで、3番の赤いカウンターで受付してね。そこで依頼票と一緒に今渡した求人カードを一緒に渡してください。』
今なんとおっしゃったーー!ギルドカードじゃないの!?
求人カードだコレ!ギルドカードじゃねえ!!
『受付で無理そうと判断されない限りはその場で受付完了。後は所定の日時に所定の場所で面接を受けたりすればOKだ』
めん・・せつ…だと…
『何かわからないことがあったら、入口近くの総合カウンターで聞いてみてくれ。』
「ワ、ワカリマシタ」
俺はそれしか返せなかった。
そしてトボトボと冒険者ギルドから出た。
笑えよ、ハハハ。バロス。
「絶望したー冒険者ギルドに絶望したー」
金髪幼女がフォロー気味にボケてくれた。
そのセリフが棒読みじゃなかったらツッコミいれたよ。
「私ハロワ行ったこと無いけど、だいたいハロワぽかったね。」
「俺も学生だからハロワには行ったこと無いけど、ハローワークぽかったね。」
あーあ、期待してたのに。冒険者ギルド。
「あれだね、ニートが異世界に行ってさ、冒険者ギルド行く話(物語)って良くあるじゃない?あれって元の世界じゃハロワに行きたくないけど、異世界のハロワには行っちゃってるんだよね。」
「働かないと餓死しかないからな、やはり人間切羽詰まると働くんだな。」
「ハローワークという単語が良くないんじゃない?ハローワクを冒険者ギルドに変えたら求職者倍増するよ、きっと」
「特定の層にしか受けないだろ!」
はぁ、冒険者ギルドがハロワだったなんて、幻滅もいいとこだ。
俺の…俺の日帰り異世界旅行はこれからだ!
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