集団神隠し1-2

神は必ずしも選択を与えてくれるとは限らない。



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「そっちに行きました!!」


「大丈夫だ!!充分にルート修正はできる!!」


神の手によって異世界へと強制的に送られた俺は背の高い木が鬱蒼と生い茂る森の中で目を覚ました。

そこでは俺と同じように神に異世界へと送られた「被害者」がいた。

そこからは色々なことがあり俺を含む12人は森の中で共同生活を送ることにしたのだ。

幸いにして、サバイバルに関しての知識がある人間がいた為、何をするかの方針は早々に決まった。


異世界へと送られた日から丁度一月経った今行っているのは、「被害者」達の中の男手で今日の食糧調達。

森であるから、食糧になる動物はいくらでもいる。

コンクリートジャングルである地球であったならこうは行かなかっただろうが。

そこは流石異世界と言ったところか、地球とは全く違う動物などもいた。

それは俺達の中の誰かが言い出した呼称で、『魔物』。

口から炎を出したり、体から白いオーラみたいな物を出したりしている奴のことを俺達は『魔物』と呼ぶことにした。


今追いかけているのは俺達が魔物と呼んでいる中でも弱い部類に入るシカの様な魔物。

俺達はこいつを狩る際に入念な準備をし尚且つこいつに関しての分かり得るだけの生態を監視し続け、3日後の今狩りに取り掛かることにしたのである。


「もうすぐ罠の場所まで着く!!それまで気を抜くなよ!!」


俺達にサバイバルのあらゆる事を教えた仲間の1人が声を張り上げる。

この森の中では聴力の鋭い危険な動物もいるのだが、そいつは夜行性のため朝方の今声を出すことに遠慮する必要はない。

罠の周辺で待機している奴らに聞こえるように声を張り上げるそいつを見て俺は気を引き締めた。

仮にここで失敗してしまえば今日から数日分の食糧がなくなるし、肉が食えなくては栄養に偏りができて栄養失調になってしまうからだ。

これは「被害者」の中の専門学生が言ったことの受け売りなわけだが、本当にそうなってしまう状況であるから笑えない。


俺ともう1人はもう少しで罠を仕掛けたところに着くことを確認し眼で意思疎通のようなものを取ると狩りの最終段階に入った。


俺達の想定通りに魔物は罠へのルートへ一直線。

このまま上手くいってくれれば俺達の狩りは成功と言える。

だが罠の効力は一回限り、ここまで来たら失敗など目も当てられない。

慎重に魔物を罠へと追い詰めていく。


俺は額から伝う汗を拭いながらその時を待った。

そして数秒後、魔物が罠に引っかかった。

罠は単純に落とし罠、だが随分と深く掘ったはずだがそれでも足りなかったらしく、魔物が暴れて抜け出そうとしていた。


「やった、落ちた!!」


「喜ぶにはまだ早い!!急いで急所を掻っ切れ!!」


そう叫ぶ仲間。

草むらから出てきた2人の仲間と罠から抜け出かかった魔物を怪我をしないように押さえつけ、大振りのナイフを持った仲間が魔物の喉を掻き切った。

仲間は一瞬ためらう素振りを見せたものの、一瞬で覚悟を決めて声を荒らげながら止めを指した。


「くっ…アァァ!!」


その瞬間、魔物からは赤黒い血液が噴出しそいつの服を赤黒く染め上げた。


「クソッ」


そいつはそう吐き捨てると涙目になりながら地面にへたりこんだ。

自分が命を奪ったという事に恐怖を覚えてどうやら腰が抜けてしまったようだ。


「悠(ゆう)、良くやった」


「信(のぶ)さん…ありがとう」


信さんと呼ばれた男は魔物に止めを指した若者、悠に労(ねぎら)いの言葉をかけた。


「服…新調しないとな、ごめんな幸(こう)さん、汚しちまって」


「いや、俺の能力を使えばまた作れるし、問題は無いさ。それより良くやった」


幸さんとはオレの事、こいつ…紅(くれない)悠(ゆう)は年上の人間を名前の一文字を取って呼ぶ癖がある。

悠は高校二年生で、4番目に神隠しに会った「被害者」だ。

俺はあの時ニュースの事を思い出しはしたが、個人名まで覚えていた訳では無いのでどんな人物かは会って見るまで分からなかったのだ。


「近くで見るまでは分からなかったけど結構でかいな」


「信治(のぶはる)、どれくらい持ちそうだ?」


「ん?そうですねせいぜいが3日…ってところですか?」


「3日でも持たねぇんじゃないか?」


「いや、まぁ仰る通りです。もっと狩らなければ足りないですよ。成長期の子供だっているのに」


「そんな事言ったってしょうがないだろ、どうにもならないんだから。此処は大人が頑張らねぇと」


俺達「被害者」達は10代の男女が主だ。

成人しているのは俺を含めて5人。

大人に近いのは2人居るが、それでもまだ育ち盛りだ。

これで足りるとは思えん。


「大人ですから、子供は守らないと」


そんな話に同意を示すのはもう1人の「被害者」。


「健太、お前は成人したばかりだろうが」


「ちょ、先輩それは言いっ子なしっスよ!?」


何をやっているんだか。

俺が名前を呼んだ信治という男と信治を先輩と呼んだ健太と呼ばれた男は同じ会社の先輩後輩の関係らしい。

信治、名前を佐藤(さとう) 信治(のぶはる)と言い、俺の一個下の24歳で神隠しに11番目に会った「被害者」だ。

そして健太…美好(みよし) 健太(けんた)は神隠しに合う前に成人した20歳で、7番目に神隠しに会った

「被害者」だ。

さきほど同じ会社と言ったが、こいつらは普通の営業マンをしていて、そこに信治がどうサバイバルの指導に関係してくるのかと言うと、只単に信治が趣味で始めたサバイバルにのめり込みすぎた結果らしい。


「兎も角だ、まずは下処理から始めますか。よし、穴から引きずり出すぞ」


「4人でも大変だなこりゃ」


「無駄口叩かずにやるか」


「はぁ…グロいぃ」


これ以上喋っていると無駄なことをまた喋り始めて収集が付かなくなりそうだったので話に見切りをつけて仕留めた魔物を捌く作業に黙々と取り組み始めたのだった。

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生産職は取り残された 渦巻 汐風 @Siokaze

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