第3話 資金と物件を確保せよ

「商売をしよう」

 シンジュク公園で二人の女の子に、俺は全裸で説明していた。


 金を稼ぐのに必要なことは、仕事をすること。

 労働し誰かに雇われるのは、俺の性に合わないし、時間がかかりすぎる。

 経営者としての経験が長いこと、自分の時間を多く持ちたいからだ。


 俺達のやらなければいけないことは、魂を集めて現世に帰ること。

 あくまでも、商売をすることは金を稼ぎ、これからの事の準備のためなのである。


 商売を始めるための資金が必要となり、今日銀行から借りれなければ宿無しとなる事は間違いない。


 計画を立て、銀行側にプレゼンしにいくのだが、ノープランでいっても意味はないので、俺は市場調査をしながら計画を立てることにした。


「まず、商品だがこれは幾つかに分かれる。

 なにも品物だけが商品ではない。

 例えば、労働力もれっきとした商品といえる。

 演奏屋をしていた時は、俺という人と演奏が商品といえた。

 その後、じいさんの後を継ぐ事になり、たくさんの会社の経営者、御前と呼ばれるようになったのだ」

 吸血幼女エミーはうんうんといって聞いている。


「とりあえず、これ着てください」


 猫娘ニーナが長めのローブを渡してきたので羽織るが、さらに変態度が増した気がする。

 マントのようなもので、前を全開にすれば、ただの見せたい人だ。


「俺たちのいるシンジュク村は、店は多いんだが、みなやる気があるわけではない。

 職人は頑張っているが、売り子はほとんどいなく、みな個人の事業で好きにやっている。


 よくある話で、個人で仕事をしているところは、接客が荒かったりムラがあることが多い。

 個人でやってる飲食店に行くと、お客がいない時などは店主が寝ていたりするのを何度か見たことがあるだろう?


 目標も立てず、だらだらと商売をしていると、働いていても達成感がなく飽きてしまうこともあるのだ。


 思うに最も安定した利益を生み出すためには、接客の質、商品に対する信用と適正な価格があれば、よほどひどい市場でない限り潰れることはない。」


 ほうと、二人は興味を示した。


 信用を得ることの難しさを、演奏屋、経営者としてやってきたので痛いほどわかっている。


「でも安売りとかでがんばってるところもあるんじゃないですか?」

 ちょうどセール中の武器屋を指差して、ニーナは言った。

 俺は思わずため息がでてしまい、商売の話を二人に続ける。


「戦略も確かに大事だが、セール、値下げというものを、俺は信用していない。

 あれは麻薬と一緒で、一時的な快楽と同じなのだ。


 確かに、値下げやセールが必要な時もあるが、頼ってはいけない。

 宣伝効果はあるが、そこから新規につながっても通常値段の時には買わない、いつも通常値段で買ってる人間は損をした気分になることもある。


 だから、情熱あふれる接客のプロが何より必要なのだ。

 同じものを売っている二つの店があるとしよう。

 一つは、値段が安いが商品のことなどほとんどわからない素人の店員で、店も汚いし、接客態度も良くない店。

 もう一方は、商品の値段は普通だが、情熱をもってお客のために、共に考えてくれる接客のプロのいる店。

 商品のことならなんでも知っているし、お客一人一人に合ったものや、お客に必要そうなものを提供してくれ、店内も店員も清潔で、困ったことがあれば親身に相談に乗ってくれる店だ」


「でも、両方いって安い方で買えばいいのでは?」


 ニーナが、してやったり顔で笑う。


「両方に行って、品物を決めてから安い店で買う人間もいるが、結局安いだけの店は大抵が潰れるし、働く人間も仕事を辞めていくことが多い。


 俺は、人材の有能さと、恐ろしさを知っている。

 有能な人材が一人いるだけで、周りの人間も成長していくが、逆にやる気をなくすものもいたりするし、有能な人間がいなくなると、顧客が離れ潰れることもある。


 俺は演奏屋の他にも、飲食店でのアルバイトなども経験したが、当時店の顔とも言えるホールの店長がいて、ダメなオーナーシェフが生意気だからと首にしたんだが、半年後には店の顧客の大半を失い倒産したのだ。


 俺が求めるものは、人材と、世間的に信用ある商品と取引相手、あとはそこからどう広げていくか、アイデアがもう少しほしいな」


 人材は育てればいいが、今は商品とアイデアの方が先だ。


 需要がある商品で信用があるもの、または良い商品だが戦略ミスで埋もれているものはないかと、村を三人で歩き回る。

 道の真ん中で土下座をしているやつを見つけた。


「許してください、お願いです」


 どうやら露天商の少年が、人狼に絡まれている。


「ここには法なんてねえ、弱い奴が商売するのは大変だな?

 組合にも入れない貧乏なやつは、ここじゃ価値がねえんだよ!

 どっか他に行くんだな」


 人狼は少年を蹴飛ばし去っていく。

「うう」

 悔しそうにしているのは、ねずみ色のローブを頭からかぶった怪物。


「まさか、あれは!」


 俺は想像してしまった。

 某有名妖怪なのではないかと思い、声をかけた。

「下駄を履いた片目の男の子と、目玉でできた父親の妖怪を知ってるか!?」


 少年の肩を掴み、必死で問いただした。

「あ、あの、違いますから。

 僕は人狼ですから、ネズミとかじゃないですから」


 少年は、うんざりしたように答える。

 伝説の妖怪に会えたと思い込んでいたので、非常に残念だった。


「そうか、そうだよな。

 俺はハル。

 大丈夫か?

 なんであいつにやられてたんだ?」


 気をとりなおし、立ち上がらせて問いただした。


「僕はクリスタ、ありがとうございます。

 あの男と僕は、同じ人狼なんですけど、僕は人狼の中でも弱くて、臆病なんです。

 あいつらはいつも威張って、僕らみたいな弱い怪物達をいじめては楽しんでるんです。

 もう……いっそ死んだ方が」


 思いつめた目からは悔し涙が溢れ、薄汚れた肌に涙の跡が残っている。


 よくみれば年は十五くらいのかわいい少年。

 さらに若干鬱だ。

 俺はいけないとわかっているが、この子をかわいいと思ってしまった。


 こんなにもかわいい男の子?


「お前、本当に男か?」


 俺はあまりの可愛さについ口が滑ってしまった。


「ハルさん!

 失礼ですよ。」


 すかさずニーナがフォローしてくれた。


「僕は女の子ですよ」


「「え!?」」


 うるうるした目で訴えた言葉に、ニーナとエミーは固まる。


 きただよおおお!!

 僕っ子だあああ!!

 天に向かい昇天ポーズを決めて、クリスタに言う。

「クリスタ!

 俺達とこい!」


 俺の中で、僕っ子とは未知の領域だ。

 今まであったことがないし、存在を確認したことが奇跡に近い。


「え、こいって、なんで?」


 きょとんとしたクリスタが、またかわいい。


「俺たちは、煉獄から現世に帰るために旅をしている。

 というより、ここを拠点に活動していこうと考え、まずは商売を始める。

 クリスタ、お前は弱く、貧乏なんだろう?

 仲間になれば、食われることもなく、きっと生きていけるぞ?


 お前のおかげで、一つのアイデアを思いついたんだよ。

 ここには法なんてものはないし、弱肉強食の世界だ。

 弱者が生き残るためには、知恵と団結が必要なのだ。

 強いだけの怪物達に思い知らせてやらないといけない。

 弱者を舐めるなってな!」


「言っていることがよくわからないんですけど、私達のような弱い怪物達に何ができるんですか?」


 ニーナが説明を求めてきたので俺は続ける。

「そうだ、この世界には、弱くて貧乏なやつらが溢れている。


 ただな、いつ食われるかビクビクして逃げ回る者達は、果たして、いつまでも弱者のままなのか?

 確かに、個人では弱いだろう。

 しかし、チームとしてはどうだろうか。

 チームとはなんのためにあると思う?


 お互いの弱点を補うためだ。

 例えば、さっきの人狼が中級の怪物だとしよう。


 クリスタが三人でかかっていっても負けるが、クリスタとニーナと俺の三人なら勝てる。


 属性の違う者の組み合わせと作戦が、それを可能とするんだよ」


「そんなことが、本当に可能なんですか?

 それに、もしも中級に勝てたとしても、相手がロードやアルファだったら手も足も出ないんじゃないんですか?」


 みんな信じられないといった顔つきだ。


「ロードやアルファは確かに企画外に強い、だがな、弱者である人間はその怪物と戦ってきたんだ。

 自分たちは弱者であるということを考え、悩み、決定して、少しの勇気で遂行してきた。

 それに、うちにも一人、アルファがいるから心配するな。

 今は弱くてもいいが、いつまでも弱い者なんていないんだよ。

 成長する事、生き残ることが大切だ」


「あなたは、いったい」


 クリスタは自分の心の中に、驚きと希望の両方を感じた。


「ようし、弱者を集めて商売をしようじゃないか」


 まずは銀行に行き、金を借りる。

 弱者の救済とも言えるアイデアに、果たして銀行は融資をするのか。

 借りれなければ一文無しで宿無しだ。


 △▼半日後


「どうぞ」

 別室に通され、俺たちはソファに座る。

「私が本日担当いたします。

 カーラ•ミリオンと申します。」


 ミリオンと名乗ったのは、この街の銀行を取りまとめる女。

 別の意味でも怪物といわれる、兎族、マネーの一族ミリオンの末っ子、カーラだ。


 ここ日本地区には、その昔、様々な銀行があったが、千年かけて、やがて一つの銀行に合併されていった。

 それがミリオン銀行だ。

 この国のいたるところに支店をもつ一族であり、日本地区で最も金を持っている。

 貨幣の統一も、彼らミリオン一族が提案したといわれている。


 天下のミリオン銀行にも、最近悩みがあるという噂を聞いた。

 ヨーロッパから徐々に世界へ進出している銀行、ダックス銀行が日本に進出するという。

 人狼と蜘蛛女のアルファが後ろ盾にいるため、その暴力を使い勢力をのばしている。


 ミリオンは商才で成り上がった一族で、組合にも顔が広い。

 しかし、現在の組合は、ダックスの後ろ盾である人狼の一族が幅をきかせている。

 ミリオンは今の組合を信用していないという噂を、俺はニーナから聞いたのだ。


 俺がミリオンの銀行にきた理由もそこにある。


「カーラさん。

 俺は人間でハルというものだ。

 実は融資を頼みたい」


 カーラは人間と聞いて、少し驚いたが、さすが天下のミリオン、すぐに表情を隠した。


「いかほどの融資をご希望でしょうか」


「まずは金貨千枚」


「……一応聞きますが、どういったことに使うおつもりですか?」


「まずは店を一つ作ります。

 最低三人〜五人ほどの販売代理店です。

 そこからはじめて、この街を作り替える。

 治安の改善をし、独立した都市に作りかえたいんですよ」


「狂っていますね。

 このお話はきかなかったことにします」

 カーラは興味なさそうに立ち上がろうとした。


「まてよ……あんた、それでも商売人か?」

 俺は馬鹿にしたようにカーラを見た。


「俺がなんのためにここに来たと思っているんだ?

 あんたらミリオンを、ダックスに勝たせてやろうってのに」


「……続けてください」

 食いついたと確信し、俺は続ける。


「俺が欲しいのは、商売と戦闘をチームで行える存在だ。

 その規模は一つの店からはじまる。

 チームで働き、戦う店はいずれ都市に増やしていく、つまりは新しい組合の設立だ。

 この煉獄にいるほとんどの怪物はアルファの元にいるが、戦闘能力が弱く、弱いゆえに群れから迫害される者は多い。

 一部の強い怪物だけが、富と力を持てると勘違いしている。


 おれはな、種族の垣根をこえた新しい怪物の群れを作りたいんだよ。

 それぞれの弱点を補って、強い弱者の群れを作り上げる!

 もしあんたらミリオンが協力しなくても、俺はやるぜ。

 そんとき、あんたらは誰につく?

 今の組合のいいなりになって、ダックスの下につくか?

 俺に融資しろよ!

 カーラミリオン!」


「ふふ……ふふふふふ。

 あはは!!

 面白いです!

 そうですね、一週間あげるので、まずは店の事業計画書を提出してください。

 その後にまた話をしましょう」

 カーラは俺を値踏みするように、口元をつりあげ話した。


「おい……舐めてんのか?

 事業計画書も持たずに、ここにくるわけがないだろう。

 俺は経営する側の人間だ」

 俺は殺気をこめてカーラを睨み、エミーが計画書をカーラに渡した。

 ここにくる前に、公園で作成したのだ。

 パソコンがないので全て手書きだが、細かな返済予定、人件費などの記載も全て記入してある。


 カーラは一瞬驚き、書類に目を通す。


「ふふふ……失礼しました。

 あなたは、どうやら本気の狂人なんですね。

 いいでしょう、あなたに融資しましょう。

 開店から三ヶ月で黒字にできれば、私が責任を持って、あなたを全面的にサポートします」


「よし!」


 俺とカーラは握手し、周りの仲間は喜びで跳ね上がっている。

 俺たちは金貨千枚を手に入れた。


 その内の五百枚を、新たに作った口座に入れ、俺たちは不動産屋に向かう。

 銀行から五分とかからない場所にある店は、ミリオンとも深いつながりがある古参の一族が経営している。

 日本という国は、海で囲われているため、煉獄で海外の怪物達が入植するまえは、数は少ないが主に日本の怪物が先住民として存在していた。

 その昔、煉獄で最も危険な場所は、海路だった。

 特に日本のまわりは、危険な海の怪物が多いんだそうだ。

 この国のほとんどの妖怪達は、無害なため今でも日本でのんびりしているが、煉獄日本地区の先住民として、代表される武闘派が鬼、オーガともよばれる一族である。

 鬼の多くは、地獄に行き、獄卒として真面目に人間を拷問しているが、煉獄にくるものもまた多い。

 古くから日本地区を守ってきたのが鬼のアルファの一人、酒呑童子であり、現在の不動産や建築の会社は、酒呑組しゅてんぐみが経営している店が多い。

 彼らは組合に属さず仕事をしている数少ない一族でもある。


 俺たちがむかっている店、酒呑不動産シンジュク支店もまた、彼らの経営する店だ。

 カーラに紹介され、古くからビジネスパートナーとして信頼できる店だといわれ、こうして来ている。

「いらっしゃい」

 入店してすぐに、ミニスカ浴衣の鬼娘が声をかけてきた。

 紫色のミニスカ浴衣で健康的な褐色の肌、金髪メッシュに濃いアイライン、間違いなくいまや絶滅寸前のギャルだ。

 ちなみに俺はギャルが結構好きだ。

 理由はなんかエロいからだ!!


「カーラの紹介できた、ハルという。

 幼女はエミー、猫がニーナ、ボクっ娘の人狼はクリスタだ。

 よろしくたのむ」


「カーラの紹介ね、あたしはツバキ。

 あんたあ、まさか人間?」

 ピンクの厚い唇をテラテラひからせ、ツバキは薄目で俺を見た。

 やっぱりエロい。


「ああ、人間だ。

 物件を買いたい」


「珍しいね、二日で人間が二人もくるなんて。

 物件ね、どんなのがいい?」

 俺の他にも人間が?

 少し気になったが、今は気にしないようにした。


「ここから徒歩で十五分以内、少し広めの一階、できれば二階まで吹き抜けがいい。

 人がすめるような個室がいくつかと、裏に庭があればいい。

 予算は金貨二百枚」


「へえ、結構太っ腹だね。

 今だと……」

 ツバキはいくつかファイルを用意して、みせてくれた。


 その中で俺がいいと思う物件が一つあった。

「ここをみたい」


「いいよ

 お客さん案内するから、後お願いね!」


 後ろを振り向き誰かに声をかけ、ツバキは立ち上る。


「はあい」


 姿は見えないが、すこし幼さののこる声がして、俺たちはすぐに店をでた。


 歩きながらエミーに、俺は気になっていた事を聞く。


「俺の他に人間が来たっていってたが、なにかしってるか?」


「申し訳ありません。

 私が知っている限りでは、御前様の身内で、誰かきているという情報はありませんねえ」


 俺は次にツバキにきいてみたが、顧客の情報は教えられないと断られてしまった。


 そうこうしているうちに物件につく。


「いいじゃないか!」


 外から見てすぐに気に入った。

 コンクリート打ちっぱなしに近い、小さめのビルのようなたたずまいだが、デザインがシンプルでしゃれていた。


 中に入るとこれまたうちっぱなしで、灯りは魔法でできているランプのおかげでかなり明るい。

「このランプいいな。

 暖色系が俺は好きなんだよ」

 壁にスイッチがあり、押してみると色が変わる。

 暖色系のオレンジっぽい色から蛍光色に変わり、明るくなった。


「エクセレント!

 ここのデザイナーはいい趣味をしている」

 両手を広げ、ローブから恥部をさらけ出し、歓喜している俺をみて、ツバキがこころなしか嬉しそうだ。


 一階フロアはかなり広く、奥に個室が一つあり、まるでラジオブースのようにガラス張りだった。


 細めの鉄でできた階段を上り、吹き抜けの二階にいくと、そこはロフトのように少しフロアになっていて、奥には個室が一つあった。


 三階には非常階段を使わなければ行けない。

 三階は全部で十部屋があり、トイレと浴槽まであった。

 ちなみに肉体は不死身だが、物を食えば消化して排便もするし、体も汚れるのだ。

 それぞれの部屋は十畳程度だが、一つだけ広めの部屋があり、そこからさらに屋上へ行ける。

 屋上にも個室がひとつありここにも住めそうだ。


 一通り見終わり、他のメンバーも気に入ったらしく大はしゃぎだ。

 そんななか、クリスタが俺に心配そうに聞いてきた。


「ハルさん、ここ凄くいいんですけど、予算より金貨百枚オーバーしていますよ?」


 クリスタの一言でみんなが俺に注目する。


「まあな!!」

 俺は帝王スマイルをきめた。


「ツバキ、俺たちはな、これからどんどん店を出すんだ。

 ここは定価でいい。

 その代わり、いい物件が空いたら俺に情報をくれないか?」


 少し考え込んでからツバキは、ニヤッとした。


「いえいえ、金貨二百枚でいいですよ。

 その代わり、これからの計画に、私たち酒呑一族をごひいきに」


「ああ、もちろん他とは取引しないさ。

 もうひとつお願いがあるんだが、組織や組合にはいれなくて困ってるやつがいたら紹介してくれ。

 うちで雇うからさ」


「そんなの雇ってどうするか知りませんが、まあいいでしょう。

 私から特別に、ひとつ情報をあげましょう。

 昨日来た人間ですが、あれはきっとあなたを探していたと思います。

 とても危険な人間だと感じたので、忠告しときます」


 まわりには聞こえないように、ツバキは耳元でささやいた。

「いいのか?

 顧客の情報なんかもらして」


「私、あなたが気になるの。

 なんかあったら店にきてね」

 いきなり艶っぽい声でささやかれ、俺の下半身は噴火の準備をはじめ、それはもう金棒のように固くなった。


 ん?

 んん??

 たった!!

 ムスコがたっただとおお!!

「あら、こんなに元気になって男らしいわね」

 唇をクローバー型にして、ツバキは頬をそめてささやいた。


「まさか、煉獄でもできるというのか?」

「あたりまえじゃない。

 しらなかったの?

 今度わたしがいろいろ教えてあげるね。

 ……ハルちゃん」


「さすが鬼だな、この金棒をどうやって扱うか楽しみだよ」

「じゃあね、いつでもきてね」


 ツバキはそういって帰っていった。


 俺はムスコはおさまらないが、気持ちだけ落ち着かせ、クルッと振り返り、みなに言う。


「みんな聞いてくれ、ここが俺たちの拠点となる。

 社名、所属はオムネスとする。

 今日からここが煉獄オムネス組合本部だ」


「「キャアー!!」」


 みんなおれの下半身をみて悲鳴をあげているが、大事なことは伝わったはずだ。



 オムネスとは俺の妹が現世で立ち上げた、種族を問わない怪物と人間の軍隊の名前だ。

 オムネスは高天原に住む八百万の神々の一部と、日本政府、バチカンのエクソシスト、風森の当主であり巫女の妹、風森の一族と伯爵が中心になって運営し、今も天使や悪魔達と戦っているだろう。


 現世のオムネスとはちがうので、あえて煉獄オムネスとした。

 この名前を使う事は、現世に帰ったとき、現世でオムネスだった奴らが煉獄に来たときのためである。


 こうして俺たちは家と店と訓練場を手に入れ、煉獄オムネス組合が誕生した。

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煉獄オムネス ケラスス @kerasus

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