第2話 第一回シンジュク村御前会議
「つ、使えね〜」
今の俺は死んだ目、胃液を撒き散らし、うずくまっている。
ここは煉獄の日本地区、シンジュク村の公園。
煉獄へきて2日目、公園のベンチでは、吸血幼女エミーがソフトクリームをペロペロしている。
白いクリームがいけない空気を感じさせた。
はじめは驚いたが、煉獄には普通に村や店がある。
生物と言えるものは、怪物ぐらいだが、怪物の中にはお乳を出すものもいるし、商売をしているものもいる。
ミノタウルス族のメグさんがアイクリーム店を経営しているので、そこで購入したのだ。
貨幣もあり、沢山の国もあるというから驚きだ。
お金はすべてコイン、金と銀の二種類。
これは煉獄のどこの国でも使えるからありがたい。
銀貨1枚が日本円で千円ほど、金貨1枚が1万円ぐらいだが、煉獄は基本品薄で食べ物なども趣向品扱いで高い。
なんせみんな死んでるから、基本飲まず食わずでいいのだ。
金を使うことはあまりないと思っていたが、さすがは煉獄、治安が半端なく悪い。
いつ魂を食われてもおかしくない。
なので武器や防具、用心棒など、みな安全というものに金を使っている。
国と言っても、現世と同じ名前を、その土地の呼び名としているにすぎない。
煉獄はその昔、地球をモデルとして、神が作った空間であるため、地形はほぼ同じなのだ。
現世から来た新しい怪物の情報を元に、その土地の呼び名も更新される。
ほとんどの怪物は、種族の長であるアルファの派閥に属しており、城を築き、国を治めているそうだ。
日本地区は周りが海であるため、比較的争いは少なかったのだが、ここ最近はカオスだという。
理由は二つ、現世から様々な種族のものがきている。
それもそのはずだ、現世では怪物たちの多くが日本に避難しているからだ。
さらに戦争の真っ最中だろう。
もう一つは合併と区画整理。
地球上の神々はいまはそれなりに仲がいいらしく、地獄は門でつながり、怪物達、妖怪などは煉獄にまとめられた。
インターネット、交通の普及にともない宗教もかなり自由に選べる国が多い現代に合わせたんだろう。
それでも妖怪のたぐいはあんまりみない、彼らの多くは霊体に近い、現世に姿を確認される事も少ない。
なので天使達に退治されたりするものは稀だということだ。
煉獄といえば資源もそこそこあるようで、鉄や宝石、石油なんかも出る。
電化製品は皆無だが、魔法の道具が多いしあまりこまらないのだろう。
ただ環境は大きく違う。
ヨーロッパの多くは、アホみたいに寒く、北極のようなもので、南米はバカみたいに熱いところもあるという。
比較的日本は、環境的には住みやすいところであるのは変わらないが、四季がない、朝と夜は来るが、ここの太陽は俺が知っている太陽とは違い、試作品だったようで小さいし、ずっと曇り空で雨はよく降る。
下級の吸血鬼でも昼間は外に出れるのがここでは当たり前だ。
ここ2日間で、エミーとニーナに聞いた情報はこれくらいかな。
あとはその都度書き留めていく。
俺たちの目的は魂を集めて現世に帰ること。
目標はアルファ級の魂を三人分又その一つランクの下、ロード級を三十人、上級なら三百人と、かなり遠い。
言っとくが俺は人間だ。
下級の怪物一人でも素手では真っ向からは戦えない。
怪物は人間に比べて単純に強い。
例えば、ボクシングの世界チャンピオンが、ボクシングのルールで下級の人狼、又は吸血鬼と試合をするとしよう。
グローブでいくら殴っても怪物は倒れないし、仮に1発でもまともに貰えば、ヘビー級のチャンピオンより強いパンチを食らうことになる。
ではどうやって戦うか、隙をつき、弱点を狙うに限る。
だが、あくまでも現世での話だ。
ここではその弱点すら足止めにしかならない。
食われれば終わり、魂ごと吸収されると聞いた。
幸いにも、俺の場合は伯爵がくれた腕のおかげで、弱点である場所をつかめば魂ごと吸収が可能。
大抵の怪物は心臓、まれに頭とか目とかいるんだが、とにかく触ればオーケー。
伯爵はさらに、自前の鎧と剣をくれた。
伯爵の鎧だから、ものすごい防御力があるに決まっている!
そこで実験のため、こうして公園に来ている。
砂場では猫娘ニーナと俺で、鎧の性能を試すため、ニーナの猫パンチを受ける。
「さあ、バッチこおおおい!」
ゴフっと鈍い音がして俺は思わず胃液を吐き出した。
「がは!
この鎧、使えねえ〜」
この鎧、全体的に赤い龍の鱗のような革と、一部は黒く薄い金属でできている。
革の部分の装飾は美しく、まさに赤い竜の鎧、魔王の風格を醸し出していた。
これを着た時は歓喜したよ。
念じるだけで腕が赤く光り、まとわりつくように鎧が体にフィットしたんだ。
これはすごいものだぞと、テンションバリバリイナズマの如くあがる。
しかしだ、猫娘の猫パンチの衝撃を容易に通しやがった。
この猫パンチは、人間のプロボクサー並みの速さはあるが、チャンプクラスではない、結構軽い。
それでもみぞおちに入れば俺でも倒れる、いわば人間並みのパンチなのだ。
戦猫は隠密を得意とする一族、肉体の攻撃力は怪物の中でも最弱の部類に入る。
そんなパンチすら防げない鎧、本当に使えない。
先ほども説明したが、これが人狼や吸血鬼のような力の強い種族のパンチなら何本か骨が折れ、痛みで動けない俺は、そのままパクリと食われて終わりだ。
金属部分は脚と腕だけだし、大事な体を守るパーツは革、かっこいいだけで防御力ほぼなし。
「これさ〜、何のための鎧なの?」
項垂れながら俺はエミーに問う。
「伯爵は普段、紳士服を好んでおりますので、いざ戦闘になった時にすぐに着れるように、特別な魔術で作り上げたそうですよお。
なのでこの鎧は、すぐに着替えられるだけの鎧です。
衝撃には弱いですが、切られても再生しますし、金属部分も再生します。
そのかわり脆いのだそうです。
全裸よりはいいだろうと仰っていましたよお」
そろそろソフトクリームがなくなりそうで、少し寂しそうにエミーは答える。
「使えね〜」
俺のような人間からしたら、まずは防御力がないと話にならんのだよ。
これは別で鎧を買わないといけないなと、一つの目標が増えた。
□【怪物たち攻撃力を防げるだけの鎧の入手を項目に加える】
ちなみに俺はメモは必ずする。
バカだから忘れちまうんだよ。
これは俺の師匠からの教えでもある。
生前戦争する前は演奏屋だったことがある。
師匠は演奏屋として、大人としての大切なことをたくさん教えてくれた。
師匠より先に死んじまったから謝りたい。
それも生き返れば問題なし!
防御力は後回し、もう一つの贈り物、これはさすがにチート級の武器だろうさ!
早速念じ、剣を心の中で呼ぶと、腕から頭の中に剣のイメージが湧いてくる。
それを手に掴むイメージで念じると現れた。
短めの日本刀に近い形だが、全体的に分厚いし黒い剣。
鍔はなく十字型に短い刺のようなものがついている。
みよ!
この黒く美しい刀剣、伯爵の愛刀。
「えーと、エミー、この剣の名前は?」
ソフトリームを食べ終えて暇なんだろう。
いつの間にかブランコをこいでいるエミーは答える。
「黒刀夜叉丸こくとうやしゃまる!
ウソですう」
「ウソかよ!
急にボケんなよ!
ツッコミの用意出来てねえよ!」
おっさんが幼女相手に本気でツッコム。
「えーと、鍛冶屋のオヤジからもらった剣、だそうですよお」
キーコキーコ楽しそうにこぎやがって、可愛いなあチクショー!
「なんかかっこいい名前をつけてやらねば!」
俺の中でもう一つの目標ができる。
□【俺がかっこいいと思う名前を剣につける。】
手帳にメモする。
そう!
俺は手帳を持っている!!
文房具屋「タケノクニ屋」という店を見つけ、生前から手帳にはこだわりを持っていた俺は、納得いくまで物色した。
色は赤。素材は皮で金属部分は黒。
鎧と同じものを見つけ、中身は入れ替えできるものにした。
嬉しいことに、中の用紙も沢山のタイプがあり、俺のお気に入り、週間バーチカルタイプも購入。
その週にやることのリストとチェック、時間を分けて一日の予定を組むのには最適だ。
目的と目標を明確にする事で、スケジュールをしっかり組めるのだ。
それにしても、俺さ、剣って使ったことないのよね。
しかもさ、俺は右利きなんよ。
右手で剣振るとするよ?
ズバンとやる、剣を持ち替えて右手で心臓なんかを掴む、隙が多いなあ。
こりゃあかなり鍛錬しないとな。
□【剣の修行】をメモする。
「この剣ってなんか特殊な力とかあるの?」
メモしながらエミーに聞く。
ニーナも暇らしく、エミーと一緒にブランコをこいでいる。
「ここではあまり意味はないです。
現世の怪物だったら霊体でも切れるすごい剣って言われるんでしょうが、ここでは剣ってあまり使う人いませんよ?
怪物たちは普通に銃を撃ってくるか、魔法や特殊な力を使います。
少し切れ味のいいただの剣で対抗するには無理がありますね。
まあないよりはいいだろうと伯爵は仰っておりましたよ」
銃を撃ってくるんだ。
魔法とかどうしろと?
ヤバイよヤバイよ!
せめて装備品くらいは、チート級のものであると信じていた。
「なあ、所持金、あといくらある?」
「あと銀貨5枚ですね」
銀貨5枚。
アイクリーム5個食べればなくなる。
「鎧とか装備品っていくらぐらい?」
「鎧とかだと金貨5枚からですね。
武器は種類によりますけどね」
金がないな。
ニーナは家を持ってない。
治安の悪い煉獄では、家を持たない事は自殺行為に近い。
戦猫は身軽なため、高い場所でもスイスイ登り、睡眠の時には気配を消しているためなんとか安全を確保しているらしい。
たまに臨時の仕事をして金を稼いでるが、その金も、俺とエミーに使ってしまった。
□【三人で住める家の確保】
□【家を買うための金を稼ぐ】
またメモが増え、先が長そうだ。
路上で演奏でもするかなって、楽器ねえよ。
仕事仲間を増やすにしても、俺たちと組む奴がいるかも怪しいし、信用できる奴がいるわけでもない。
いいところがない。
落ち込んできたわ。
装備品すらまともなものがないとはな。
いやまて!
何もないよりはマシだ。
伯爵に敬意は払わねばならない。
ありがとう伯爵!
鎧と剣と腕の模様をくれるためにわざわざ部下をおくってくれて!
部下を!?
「エミー!
お前、ランクでいったらどの位置だ?
中級くらいか!?
まさか、上級?」
「私はアルファですよお。
血の貴婦人っていう名前がわかりやすいですかね?」
エミーはブランコからジャンプし、満点の着地と万遍の笑みを浮かべた。
「「えええええ!!!」」
思わずニーナとハモってしまった。
装備品はダメダメだが、まさか仲間が吸血鬼の真相の一人だとは思いもしなかった。
しかも血の貴婦人。
血を操り魔眼を使う真相。
かつて、バチカン事件の際に現世に蘇り、伯爵と戦って敗れ、天使たちに魂を回収されたと思っていたが、生きていたとは。
かつて敵だった時は、ボインな姉ちゃんだったけど、これが本当にあの血の貴婦人だというのか。
俺はまた嘘なんじゃないかと問いただす
「でも、確か魂を回収されたと思っていたけど、見た目も大人だったし」
「ええ、ほとんど私の力は持っていかれました。
けれど魂の意識の部分は伯爵によって吸収されたのです。
綱引きみたいだと思ってくれればいいです。
天使達が力を、伯爵が魂の大事な部分を引っ張りあって、私は力を放棄して伯爵の下僕になる事をえらんだのですう。
なので、今はあまり強くないんですよお」
こいつも結局ダメなのかと思い始めていたが、
「その代わり伯爵と命を共有したので、できる事も増えましたよ。
命を吸えば、前より強くなれると思いますが、今は弱々です。
その辺の下級吸血鬼と変わらないですう」
今は弱いが大切に育てていけばかなりの戦力になるやもしれない。
育てれば強くなるという事が、かなりやる気を出してくれるぜ!
まだ何も知らない雌しべを、俺好みの満開の桜へと育てていく。
なんとも楽しくなりそうだぜ。
「ぐへへへへ」
俺はゲス顏で幼女に近づき、指先で触るか触らないかの微妙なソフトタッチで撫で回した。
「は、ああああ、ご、御前さまあ、くすぐったいですう」
今はこのくらいがいい、おっきくなるにつれてハードにしていくのだ。
逃げないぐらいじゃないと、調教は失敗するかもしれないからだ。
おっといかんな!
ニーナの事も考えてやらねば。
「ニーナは戦闘は得意か?」
内股で耐える幼女を撫で回しながら、顔だけは真面目にして聞いてみる。
「戦闘は基本しませんよ。
私は見つかったら逃げます。
隠密は偵察や情報収集が基本ですからね」
情報屋みたいな仕事ばかりしているからまさかとは思っていたが、この子も戦闘は苦手だとは思いたくなかった。
「不意打ちや暗殺とかは?」
一応聞いてみるが、
「嫌ですよ〜。
血とか苦手なんです。
私は戦猫になって20年くらいしか経ってないんです。
現世にいた時はスーパーで食事買ってましたし、殺しとか無理無理」
なんて軟弱な怪物なんだ!
□【ニーナの精神と戦闘の強化】
またやることが増えてしまった。
「よし!
まずは金を稼いで家を買う!
その間に鍛えたりしよう!」
煉獄は物価は高いが、土地価格は異常に安いため、宿代も安い。
俺達三人で一部屋借りても銀貨3枚だ。
つまり、あと一日で宿無しになってしまう。
ヤバイよヤバイよ!
夜に野宿はかなり危険だ。
人狼はここでは自由に変身するし、吸血鬼もたくさん徘徊してる。
警察もいないここでは、食われても文句は言えない。
さすがに昼間から街中で争うやつはいないが、夜は危険だ。
特に人目につきづらいため争いも多い。
街で暮らす怪物たちはお互いの生存のために争わないと決めて、組合のようなものを作った。
組合に手を出したものは、用心棒に食われても文句は言えない。
俺たちは組合に入ってるわけでもないし、家もないからただでさえ危険なんだ。
「商売をする!
そしてまずは組合に入ろう」
組合に入って、今はなるべく安全を確保したい。
「はあ!?
お金もないのにどんな商売を?
組合に入るには一人、金貨十枚も必要なんですよ?」
馬鹿じゃないのかというメッセージは十分に伝わったよ。
「商売をするといえば、銀行だ!
商売をするにあたって、必ず金が必要になる。
自分で貯めるか、または銀行などから借りるかの二手に分かれるのだ。
この街には銀行があり、俺たちには時間がない、金は借りられるものなのだから、借りればいい。
ただし、ご利用は計画的にというのが最も忘れてはいけないことである。
明日までに計画を立て、銀行に持ち込む。
信頼を勝ち取れれば金は借りられる。
さあ、金を稼ごうじゃないか!」
俺は、凛々しいポーズ、仁王立ちをきめる。
もちろん鎧は腕に戻し、全裸でだ!
「なんでまた全裸になってんですか!」
女の子達は目を覆ったが、もう見てしまったものは遅い。
「勝負するなら全裸に限る!
これは我が家の家訓である!」
まあ、嘘だがな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます