煉獄オムネス

ケラスス

第1話 せめて異世界へ行かせて

「死んじゃった」


暗闇の中、俺は全裸で体育座りをして、一人寂しく呟いていた。


ここには何もない、誰もいない。

ただ暗闇があるだけの空間。


もうどれくらいの時間をここで過ごしているのだろう。


少しだけ、時間を巻き戻し思い出す。


まだ生きてる時、最後の記憶は心臓に剣が突き刺ささり、みんなの声が遠ざかっていく場面だ。


俺は、別に剣や魔法のファンタジーな世界にいたわけじゃない。


一言で言うなら、俳優顔の男。


年齢がわかりずらいハンサムな日本人、とはイタリアの友人の言葉。


生まれは日本、ごく普通の家で生まれ、高校も行ってそこそこ普通の人生、ではないが、まあ言うなれば普通の人間、科学が発展した世界で生きてきた、日本人だ。


死んだのは30歳だが、見た目は若く見られる、変な話で少年時代はやたら成長が早くてな、中一の時にはほとんど大人の体で、身長もでかかった。

173センチもあり、体もできていた。

たが、そこからほとんど変わらなくて、今の見た目は20歳そこそこくらいだと、よく言われる。


でも、それだけだ。

特に特別な理由もなく、普通の人間だと聞いている。

誰からって?

それはまず、医者、俺が死ぬ原因となった1年前に出会った、神様だ。

神様にあってる時点で普通じゃない、って思うじゃん?


なぜ、俺の最後が剣で刺されて死んだかというとだな、1年前までは、世界は平和ではないが、戦争といえば普通の人間の争いだった。

それが1年前のある日、俺は神様に出会い、そこから人生がおかしくなり始めた。

神様っていうのは一人ではない。

たくさんいるんだが、俺の場合は特にあったからといって何も変化はなく、いるんだな、くらいの気持ちで過ごしていた。

何人もいるから俺以外にも、神様くらいあったことある人間なんて沢山いる。


同じ時期に、今度は怪物が現れる。

これも、いるだなあ〜で終わってしまったんだが、世界では悪魔やら天使、怪物が姿を現し、戦争を始めた。


最初に都市が襲われ、天使達の中には悪魔と手を組んで、アメリカやロシアを巻き込んだ戦争を始め、日本は神と怪物が手を組んで、これに対抗する形になり、世界の勢力は、真っ二つに別れた。


俺はもちろん日本人だから、戦争に巻き込まれることになり、まあ刺されたよね。


グサッと刺さるとおもうじゃん?

骨に当たってゴギャって刺さりました。


死んだのは仕方がない。

今更言っても遅いし、特に特殊能力あるわけでもなかったことだし、もう、死んじゃったし。


「死んじゃった」


なのに、なぜこんな真っ暗なとこに?


神様の話だと、俺は死ぬと天国に行くって言ってたのよ、うちの家系には人から神になった人がいるから、その人と同じ場所にいけるって聞いてたのに、なぜ?


しかもだ、長い間、体育座りしているが、これは、確実に落下中だ。


多分だが、10日近く落下している、死んでから睡眠というものが必要ないため、時間の感覚が狂っている。


ちなみになぜ体育座りをしているかというとだな、死んではいるんだが、体はあるんだよね。


つねると痛いし、ひっかくと痣になる。

試しに指を折ってみたんだが、いたかっね〜。

泣いたもん。

泣き叫んだよね、30歳になったいい大人がうぎゃあって、俺は痛いのにはなれてるから本当は叫ばなくてもよかったよ?


でもほら、一人しかいないって限らないじゃない?

誰かに聞こえるかもしれないし、体のこと知るいい機会かなと思ってね。


結果、すぐに治ったよ。

そして誰もいなかった。


さらに言うと、ものすごいスピードで落ちているから、大事な玉がヒュンってなるため落ち着かない。

そこで、いろいろ体制を試していたんだ。


体育座りがしっくりきたね。


落ち着くっていうか、俺は体育座りをするために生まれてきたんじゃないかって、くらい気に入ってしまった。


体育座りはいいぞ〜、いろいろなバージョンもあるし、奥が深い、特に落下中は膝の曲げ具合で回転の仕方が違う。


つまりだ。

暇なんだよ。


ふう。





















あ。














何か見えたとおもったら、気のせいだった。


幻覚なんていつものことさ!


「はは!

はは、笑えない」











さらに3日後、光が見えた。


ここに来て初めての闇以外の景色!


それにこれは、もしかすると、異世界への出口?


そうだよな!

俺は今の状況がなぜ起こっているか、長い時間考えていた。

体もあるし、傷も治るってことは、神様が俺を何かしらの方法で生き返らせて、チート級な能力を授けて異世界へ飛ばしたに決まっている!




出口が見える!


やたら明るい、ん?

つーか、熱い、出口っぽいところ、燃えてるんですけど。


すげー熱い!!


「どりゃあああああああ!!」


そこは火の海だった、もちろん飛び込む以外に選択肢はない。

すぐに、骨になるまで燃え尽きたさ。


「カタカタ、カタカタカタカタ」


なかなかのテンションで飛び込み、かなりの痛みが襲ってきたのも、もう遠い昔のように思える。

もう丸2日は骨の髄まで燃えてるんですけど。


声も出ないからカタカタいってるだけだし、目も見えないし、痛覚もないから暇なんだよ。


なんだろう。


あ。


目が戻った。


なんかゴツゴツしてるものがー!


「ドベブボ!!」


目が戻った時には、そこは地面だったようで、見事に頭からつっこみ、俺の体はそれはひどい有様だったさ。

それでも、さすが神様のくれた不死身の体だけあり、すぐに元どおり!


俺は辺りを見渡し、踊り狂った。


50年代のツイストダンスを踊り、バディー•ホリーからエルビスまで、フルアルバム一枚分を熱唱した。


ラブミーテンダーを歌い終え、少しテンションが下がると、もう一度観察してみる。

そこはまさに異世界、落ちてきたと思われる空は、なんと一面の火の海、その周りには星空が輝いている。

炎の海がでかいお好み焼きみたいになっていて、その周りにはプラネタリウムでも見れないような、大きな星空が広がる。

地面は岩や砂だらけで草ひとつない。

大きな一枚岩はどれも黒い溶岩石のように、ザラザラしている。


ファンタジーだよ!


「あの〜すみませーん」


両手を広げて万歳三唱していると、少し後ろから、女の子の声がし、振り返るとなんともナイスバディな女の子が走ってきているのが見える。


しかも、猫っぽい耳と尻尾!

俺は生前、日本の移民怪物の職業説明会で見たことがあるやつと、きっと同じような種族だとすぐにわかった。

胸と太もも、顔以外はふさふさの毛で覆われ、長い尻尾が特徴だ。


ちなみに猫系の種族の女の子は飲食店で重宝され、連日マニアたちが押し寄せている。


【ニャニーズ】という店は今や日本で最も人気のあるファミレスだ。

ニャニーズの女の子の中にはアイドルになったものまでいる。

世間では猫娘好きの人間をニャニーズファンと呼び、彼らは日々猫娘達のために金を落としていく。

店舗数が少ないため、なかなか予約が取れない人気店。


ニャニーズの女の子達は面接で選ばれた可愛い子限定だったんだが、今走ってきているこの子はニャニーズでもいないような可愛いナイスバディだ。

まるで水着のような鉄の鎧を着ているが、俺には谷間の具合でわかる。

Gカップでございましょうか。


あとは猫でいうと三毛だな。


「あれ?

あなた、人間の臭いがしますね?

失礼ですけど、種族は?」


この異世界では人間は珍しいのか?

猫娘は不思議そうに聞いてきた。


「いや、人間ですよ、俺。

不死身の男ですけどね」キラン。


全裸だということを、決して忘れているわけではない。

むしろ知っていて俺は、腕を組んで恥部をさらし答える。


「え!?

人間!!

そんな、嘘でしょ!?」


何をそんなに驚いている?

確かに、俺の恥部は人間らしくないところもあるが、そんなに驚かなくても。


「人間がここへ来るなんてありえないでしょ?


ここ、煉獄ですよ!」


そうかそうか、そんなにこの恥部はすご

「え!?」


変なことを聞いた気がした俺は、嫌な予感がしていた。


「ここって、異世界じゃないんですか?

剣と魔法のファンタジーな国がたくさんあるような、魔王とかいて、勇者を待ってる的な」


猫の女の子は、きょとんとしている。


「なにいってるんですか?

あなた本当に、人間みたいですね。

まさか、ここで人間に会えるとは思いませんでしたよ。


ここは、地獄と天国の間にある場所。

煉獄です。


怪物達が死んでたどり着く、怪物達の最後の場所。

今いるのは、煉獄の日本地区。

最近では、地獄より酷いところですよ」


かわいそうな物を見るように、俺に現実を伝えて、彼女は考え込んでいた。


「えええええ!!!

異世界じゃないの!?

なにそれ!!


いやだいやだ!

せめて!


せめて異世界へ行かせて!!


お願いします!

この通りでございます!!」


俺は懇願し、土下寝した。

地面が冷たくて、尻を思わず引き締めてしまった。


「いや、私に言われてもですね、困ります。


ここは危険なところです。

怪物達の中には、死んでここへ来てすぐに、心を入れ替えたものは神や天使によって天国に行くものもいます。


ですが、それ以外の者達は、延々と殺し合いして、相手の魂を奪って強くなっているものも多いんです。

死後の体は霊体が肉体を作っているので、魂が奪われない限り死ぬことはありません。

怪物が怪物を食べることで、魂を奪い強くなり、一定の魂を使えば、また現世へと蘇ることができるとわかったからです」


聞きたくなかった。


ここが異世界でもなく、俺が神によって選ばれたわけでもなかったことなど。


怪物が現世に蘇ることも、俺のいた現世では、まさにそれが起きて、今も戦争がおこなわれているからだ。


しかも、ここでの、俺は、ただの人間でしかないのだ。


なんの能力もない、ただくるところを間違えただけの、見た目が若いだけのおっさんでしかないのだ。


「とにかく、ここは危険ですから、安全な場所に行きましょう」


いや、待てよ?

魂を集めれば、帰れるってことだよね?


俺も怪物食えば強くなれるかもな!

希望が、見えた!


ドオオオン!!


空からなにかが降ってきた。

砂が舞い上がり、辺りに砂埃が舞うなか、それは、白い髪の幼女だった。

色白で、赤い目。

全裸の幼女だ。

幼女は赤い目で周りを見渡し、俺を見ると走り出す。


「ああ!

御前様ですねえ!

探しましたよ〜!」


半分泣きそうな顔で、幼女は俺に抱きついてきたが、お互い全裸だから、この状況は微妙にまずい。

しかし、死んでしまったものに法律などない。

安心して、抱きつかせてやった。


「探してた?

俺をか?」


「はい、ご主人様からお届け物でえす」


幼女が。俺の手を握ると、黒い闇が赤い光を放ち、腕に魔法陣のような模様が刻まれていく。


「こ、これは一体」


やがて光は収まり、まさに指先から右腕の肘まで彫り物が掘ったようになった。

赤い模様で、龍のような、ダサいような、かっこいいような絵柄。

手のひらまでびっしり。


「えーと、ご主人様から伝言です。

"お前の魂を煉獄に送り込まれてしまった。

この腕で、頑張れ、こいつは好きに扱き使っていいが、エロいことをしたら、死ぬ"です」


しねえよ!

ロリコンじゃねえし!

なんだよ頑張れって!


「ていうか、ご主人様からって、お前のご主人様は誰?」


なんとなくわかるが、一応確認する。

幼女は恥ずかしそうに恥部を隠した。

「伯爵様です」


あ〜、あの人ね。

わかってた。

伯爵はうちの婆さん姉の旦那で、吸血鬼。


俺にとっては大叔父さんにあたるが、血の繋がりなんかはない。

彼らは生殖機能を持たないかわりに、自分の血で眷族を増やす。


うちの家系の中で、一人だけの吸血鬼。

まあ、あれを一人の吸血鬼と言っていいのかはわからない。


なんせ、今来た幼女は、伯爵の部下か何かだろう。

伯爵は沢山の部下を持っているから、あれを一人というのはどうだろう。


「あなたは、吸血鬼?」


すっかり忘れていたが、猫の女の子が幼女へと話しかけていた。


「そうです。

私は、吸血鬼のエミーですう」


少し舌足らずな話し方で、俺は撫で回したくなった。


「ああ、そんなあ。

く、くすぐったあい!」


というより撫で回している。

俺はな!

妹がいる!

ロリコンではないが。


シスコンなんだよ!!


へへへ、ゲスの極み幼女と呼ばれてもかまわんよ。

ああ心が安らぐ。

久々の幼女との触れ合いに、今は会えない妹ととの思い出が頭をよぎる。


今はもう、成人してしまってこんなことはできないけど、今はこれで満足だ。


「ところで猫娘、君は、誰だ?

俺はハルという名前だ」


彼女はなぜか、若干俺に警戒しながら答える。


「わ、私はワーキャットの、ニーナです」


幼女が俺からするりと抜け、説明してくれた。


「戦猫(ワーキャット)、人型と半獣型に変身できる戦闘より、隠密に長けた種族ですね。

あなたもご主人様の仲間となり、一緒に現世に蘇りませんか?」


ニーナは驚いたようだったが、やがて腹を抱えて笑いだした。


「あはははは!

無理でしょ?

人間が、ここで生き残るのも無理無理」


俺もそうだよなあと思っていたが、幼女はムッとして答える。


「この方は、地獄の王と戦い、あと一歩というところまで追い詰めた方なのですよ!?

ただの人間ではありません!」


「ええ!!??」


ニーナはとても驚いていたが、俺はそんなすごいものではない、仲間達がすごかったし、結局は死んだ。


現世にいた頃、特殊な技能もない俺があそこにいたこと自体が、間違いだと言ってもいい。


なんやかんやで、たまたま戦いに参加したようなもので、それが運悪く、地獄の王なんて凶悪な存在だっただけだ。

でも、

「まあ、やってみるか!

魂を集めれば帰れるんだろ?」


「はい。

伯爵がそうおっしゃっていました。


その腕の術式には魂を吸収し、蓄える力と、伯爵の剣と鎧を呼び出せるそうです。

ただ念じれば、応じてくれると」


あーなんかたまに着てたな、後、確か黒い剣だ。


「なるほどね、まあ何かの縁だと思ってさ、やろうぜ!」


「そうですね、どうせ私も仲間を集めようと思っていたんです。

よろしくお願いします」


こうして、全裸の俺と、幼女、猫娘の3人が出会い。



異世界ではない、煉獄の旅が始まったのだ。




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