第83話 勇者に必要なもの
「それはさておきちとえりよ」
「な、なんね」
ちとえりが身構える。俺、別になにかしたってわけじゃないよな?
「そう構えるなよ」
「勇者殿はよく話が飛ぶからある程度構える必要があるね」
ああまぁ、話をしながら他のこと考えている場合が多いからな。そっちの疑問も聞いてみたくなるんだよ。悪癖だろうか。
「んじゃまあ、話がだいぶ変わるんだが、ここが人類の防衛ラインってことだよな?」
「そうね」
「俺の予想だと、もっと荒廃しているものだと思ってたんだけど、意外と緑感あるのな」
「あー、それは以前勇者殿が考えた『星が召喚され統合された説』とは別の『異世界への門が開きっぱなしになっている説』なら納得いくね。ここは魔物たちが住む荒廃した大地と隣接しているけど、別の大地だから思ったほど影響を受けていない感じね。まあ戦いがあるからその分荒らされているけど」
そういうものなのか。山の麓辺りはあまり荒れている気がしないのは、ここまで戦火が及んでいないだけか? もっと際まで行けば変わるのかね。
「先に進んでみればわかるか。こんなとこでだらだらしてもしょうがないし、行くぞ」
「そう急くこともないね。それより勇者殿」
「なんだよ」
「ゆんなどうすんね?」
そういやそうだった。
やはり子供は親と暮らすのが一番だよな。それに、今となっては目の保養要員はレキシー様もいるし、手放したところで……。
うーむ、なんだろう。俺が思っている以上に愛着がある。別れないといけないと考えた途端、離れ難くなってきた。
大体さ、レキシー様は俺が喜ぶようなことをしてくれるわけじゃない。だけどゆーなは頼めば黒スト様を履いてくれる。なんて有難いんだ。
あれ? でも……。
「ちとえり」
「今度はなんね」
「お前たちの国ってさ、円状なんだよな」
「ほんといきなり話飛ぶね。なんなのね」
「いや話は続いてる。そんで、隣の国へ移るたび、どんどん広い環状になっていくんだろ?」
「そうね」
「んで、この国が一番外側でかなり広くなっているわけだ」
「あーわかったね。こんな広大なところから探すのは難しいからという建前が必要なんね」
「ち、ちげーし!」
べ、別に建前とかねーし。探すの大変だから、とりあえず今回は魔王倒すの優先にして、そのあとゆっくり探したほうがいいんじゃないかっていう真っ当な提案だからな。
「でも実際、悠長に探している余裕あんのか? この国一周にどんだけかかるんだ?」
「とはいえ誘拐して長距離を移動するとは思えないね。だから多分この近くの村か町だと推測できるね」
まあなあ。この世界……なんていうか、とてもややこしい場所なんだが、ここの隣国というやつは往来がかなり大変だもんな。子供数人取り返す程度のことじゃ捜索隊とかも出せないだろう。つまり近場だろうと国を跨げば逃げ切れるんだから、わざわざ遠くまで誘拐をしに行くメリットがないわけか。
「だけど多少余裕あるといっても蛇行していられるようなほどじゃないから、行く予定の村や町じゃなければわざわざ遠回りしてまで届けられないね」
「お前高速で飛べるんだから、俺がいない間にチャッと行って調べてくりゃいいんじゃね?」
「そんな面倒なことしたくないね。やるならとくしまにでもやらせるね」
とくしまも飛べるようになったしな。だけど今度はあいつが捕まる可能性もゼロじゃない。ちとえりやごくまろと違って詠唱に時間がかかるし、なにより魔法以外は雑魚どころじゃない。元々弱いが重力の加算により乳児レベルだ。
「ごくまろならまだしもとくしまをソロにするなよ。あいつ誘拐するのなんて駅前で配ってるティッシュを受け取る感覚でできるぞ」
「とくしまはあれでも私の弟子ね。いくらなんでもそこまでは……弱いね」
ごくまろみたいに詠唱さえ短ければワンチャン戦えるんだが、あいつ興奮するのに時間かかるからなぁ……なんか変態じみた感想だが、実際あいつは変態だから仕方ない。
「んでま、話を統合するとだな」
「こんだけ飛んだ話を統合するっていうのね!?」
ちとえりが驚愕する。そんな難しいことでもないだろう。
「俺の勇者力でこの星がやばいってのは、ここが召喚しまくったキメラ星で不安定だからってのが最初の理由なわけだよな」
「そうね」
「だけど実際には転送門が開きっぱなしなだけで、国を跨ぐのが実は別の星へ行っていたということがわかったわけだ」
「恐らくそうだと思われるね」
「てことは俺がここで勇者の儀を行っても問題ないんじゃないか?」
「そう……かもしれないね」
不安定なところに強大な力を加えたら崩壊する可能性がある。だから俺の勇者の儀が行えなかったというのがここまで一般人状態で連れて来られた理由だ。
とはいえ転送門開きっぱなしもあくまで説であり、不安がある以上俺の勇者力開放は本来通りに行いたいと思われる。
「んでもって予定では、俺の勇者力を開放する勇者の儀は、魔族の領内で行おうとしていたわけだ」
「ほんとあんた無駄にそういうとこ優秀ね」
「うっせ。でもさ、俺の勇者の儀に黒ストは必要だと思わないか?」
「ほんとあんた無駄にそういうとこ変態ね」
「うっせ。でもさ、俺の勇者の儀に黒ストが必要だからゆーながそこにいなきゃダメだろ?」
「えっ? うん。全く理解できないね」
「俺の勇者の儀に黒ストは必要なんだよ!!!」
なんでこいつにはわかんねえんだ? いるよな、黒スト。
勇者はいつも全裸で登場する 狐付き @kitsunetsuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。勇者はいつも全裸で登場するの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます