第82話 勇者力って

「な……何故だ!? 僕が入ればきみたちはもっとさらなる高みに──」

「そういうの間に合ってるから」


 手の甲を振って野良犬相手のように面倒くさそうなやつを追っ払う。


「……フン、きみたちも僕の勇者力を知ったら腰を抜かすと思うぞ」

「ほーお」


 これだけ粋がっているんだからきっと相当高いんだろう。

 俺が上の中らしいから、上の上か? 確かこの世界に2人しかいないとかいう話だから、もしそうだったらそのひとりってことになる。



「フッ、僕は下の上だ」

「……ぷっ」


 あいつがふき出し、コムスメが肩を震わせた。そりゃ一般的には下の下が大多数を占めているらしいが、ここだと下の上じゃ威張れないもんな。


 なんか言っておいてなんだが、一般的ってなんだ? 勇者ってのはこう、地方のライブハウスで演奏しているバンドとか、地下アイドルみたいなレベルの、世間の99パーセントのひとは知らないものだよな。一般的ではないものの一般的というものに疑問を持ってしまった。


「き、貴様! なにがおかしい!」

「なにがおかしいって、なあ?」


 余計なことを考えていたらあいつが急に振ってきた。

 俺に同意を求められても……確かに勿体ぶった言い回しをしておいて下の上じゃ苦笑しかできない。


「あの、一応このひとこんなでも上の中なんだよね」

「なっ!?」


 俺を指差して言う。

 おいこらコムスメ。こんなでもってなんだよ。

 そりゃあ勇者として戦っているのかと聞かれたらかなり疑問だけどさ。

 だけどこのキザでキモい野郎と一緒に昼を過ごすのも嫌だし、この流れに乗るか。


「悪いけどここ、中未満のひとお断りなんだよね」

「ぐっ……」


 コムスメが中の上、あいつが中の下だからな。てか中の下と下の上ってそんなに変わらないんじゃないのか? しらんけど。




「──と、こんな感じでまた勇者が現れやがったんだよ」

「あんたの学校どうなってんのね」


 確かに4人も勇者がいるなんて学校、他にないだろうな。


「勇者様、そのひと嫌いですか?」


 嫌そうに喋ってたせいかごくまろが不安そうに聞いてきた。


「そりゃあんなキザキモ野郎を好きなやつなんていないだろ」


「変な名前ね」

「いや名前は確か輝咲きざきしげるとかだった」

「大して変わらないね」

「まあそうだな」


「どんな感じでキザキモなんですか?」


 どんな感じと言われても……実演してやるのが一番わかりやすいか。

 俺は前髪を横に払う。


「フッ、俺が本気を出せば魔王なんてわけないぜ、可憐なお嬢さん」


 俺を好きであるはずのごくまろが、罰ゲームで初めて虫料理をくちに入れたひとみたいな顔で俺を見ている。ほらな、キモいだろ?


「どうよ」

「キザキモ罪というものを作って法律で規制したほうがいいと思います」


 キザキモはセクハラの一種としてまとめてしまっていいと思う。

 あと、下ランクだからって別にへりくだれといっているわけじゃない。普通に接してきたら受け入れていた。あいつとコムスメだって一応俺より下位だけど付き合いは対等だし、勇者仲間は欲しいもんな。だけど最初から周りを自分より下だと思って、見下したような言い方をするような奴はお断りだ。

 そもそも俺が自分自身にそこまでの力があると思っていないからな。勇者として戦ったら多分俺よりコムスメのほうが強いんじゃないか?


「そういやちとえり。勇者力って中の下と下の上だとどれくらい違うんだ?」

「なんね急に」

「いやさ、キザキモ野郎が下の上だっていうんだけどあいつは中の下だからさ、そんなに違いがないんじゃないかと思ったんだ」

「ナニを言うね。中が下だとしても、下の上がどれだけ束になっても勝てないね」


 そこまで差あんの?


「もっとなんていうか、中の下なんだけど下寄りとか、そういう半端なのってないのかなって」

「ないね」

「具体的に」

「勇者力は潜在的なものや努力で手に入れる類のものじゃないね。この世の真理が後天的に与えるものね」

「ほう」


「で、下っていうのはそうね……勇者力が1から10とするね」

「ふむふむ」

 1が下の下だとして、下の中は普通に5と仮定し、下の上は10くらいと。

「んで中は勇者力が1千から1万ね」

「はっ?」


 なんだそれ急に跳ね上がり過ぎだろ。


「じゃあ上は?」

「んー……1千万から1憶くらいかね」


 マジかよ! じゃああいつが1千だと仮定したら、俺はあいつの5万倍くらい強いってことになるじゃないか。

 キザキモ野郎の500万倍以上。俺ゴッドじゃね?


「……てか待てよ。前にコムスメんとこ行ったとき思ったが、俺よりずっと強そうだったぞ」

「当たり前ね。勇者の儀を行ってないあんたが正道の勇者と比べたらそうなるに決まってるね」


 勇者の儀だと?


「なんでそれやってないんだよ」

「あんたほんとなんもわかってないね。この世界で上の中の勇者の力なんて出されたら星が崩壊しかねないね。正直魔王なんかよりもずっと厄介ね」


 俺はスーパーヤサイ人かよ。


「なんでそんな微妙なものを召喚してんだ」

「そんなのごくまろに言うね」

「ごくま──」

「愛です!」


 なんでとくしまが答えてんだよ。しかも目をキラッキラさせて。

 そりゃごくまろが俺を選んだらしいからそうとも言えなくもないだろうが、愛とかよくもまあ恥ずかしげもなく……こいつらの羞恥心は俺とは異なっているんだった。

 しかし勇者の儀か。学校でコムスメらに聞いてみよう。

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