山巨人族(巨人族)の世界
第81話 新たなる
ティモテ山の中腹にある宿の町、
「ところで勇者様。ちとえり様がいないと帰れないのはわかってますよね?」
「ああ」
それについては大丈夫だと思う。
レクシー様の言うことには、あいつらが降りた穴は腹宿まで行ける裏通路、いわゆる裏腹宿と言われているところらしい。
だからきっと腹宿に行けば合流できるはず。
「だからとくしま、俺以外の人数で宿を取るといいぞ」
「わかりました。ではもしちとえり様たちと合流できなければ勇者様は野宿ですね」
「なんでそうなるんだ」
部屋をまた取ればいいだろ。
……いや、こいつのことだからきっと部屋が埋まっているから誰かと一緒の部屋にとか言うんだろ。
んなもん当然レクシー様に決まってんだろ。なに、既成事実さえ作れば……無理だな。俺はお姉さまと相思であるべきだと思っているからレイパーもどきに成り下がるつもりはない。
そもそも第三者視点で考えて、レクシー様が俺を部屋に入れてくれるとは思えない。つまり2択……でもないな。シュシュの部屋なんて入ったら絶対に大変な目に合うとわかりきっている。ようするにとくしまと寝るしかないわけだ。
「やっぱ一人部屋をキープしておいてくれ」
「察しのいい勇者様は好きじゃないです」
とくしまは少し頬を膨らました。余計なことを言わなければいいんだよ。
「みんな遅いね!」
宿の多い場所へ向かうとちとえりが先回りしていたらしく、待ち構えていた。
「なんだよ早かったな」
「こんな面白い場所とっとと来るに決まってるね!」
知らんよ。
しかしちとえりが面白いっていうんだから、きっとロクでもない町なんだろう。
「どう酷い町なんだよ」
「なんで私が面白いと思ってることが酷いことになるね!」
「だってそうだろ?」
ちとえりは歯ぎしりしている。自分でもわかっているんだろ。
「勇者殿はこの腹宿という名をどう思うね」
「山の中腹にある宿町だからだろ?」
「字だけ見たらどう思うね」
腹の宿? 腹に宿る……はっ、まさか!
「気付いたようね! ここは子作りのホットスポットなのね!」
「なんだとぉ!?」
日本にもよくある、地名とかにあやかって人が集まる場所。そんな感じなんだろう。
「つまり娼婦街だな!」
「勇者殿はアホね」
アホはお前だ!
いやそうやって言われたことを逆に言いつけるのはよくない。何故俺がアホ呼ばわりされないといけないかだ。
ああそうだ、腹に宿すという意味では娼婦だと厳しいわけだ。なにせそう何度も出産できるわけではないのだから。もしそんなお姉さまたちの体を酷使させるようなことをしているならば俺はこの町を滅ぼす。
「とすると、つまり男娼を求めてお姉さま方が集まるということだな!?」
「そういうことね」
す……素晴らしい!
男は種馬扱いで、お姉さまは気に入った男性に満足して帰る。なんと素敵な町じゃないか。これだよこれ。俺が求めていた異世界はこれだったんだよ!
「なあちとえり、勇者ってことはそれだけで行列ができるよな?」
「できるわけないね。あんた鏡で自分の姿を見るといいね」
お、俺は普通だし! 特別変じゃねえだろ!
詳しく話を聞くと、ここ山巨人族の国では女性の平均身長が170、男が190あるらしい。それに魔王軍との最前線なだけあり常に男不足。こういう場で求められるのは屈強な男の遺伝子であり、俺みたいなここ基準ではチビでヒョロい男じゃ話にならないと。
「……帰る」
「まあまあ、折角だし五百マラでも見て行くといいね」
「なんだそれは」
「日本にも似たようなものがあるね」
五百羅漢のことか? あれは高僧の仏像なんだぞ。いい加減こいつバチが当たるぞ。
「だからどういったものなんだよ」
「天然の鍾乳石ね」
「そんなもんどこにでもあるだろ」
「ここの鍾乳石はちょっと特殊な形をしているね。そしてたくさんあるから1本くらいは自分のあれと同じような形のものもあるというのね。だから勇者殿もそれを探しに行くといいね」
「誰が探すんだよ!」
「ちとえり様ーっ! 勇者様のダイノウツボとそっくりなの見つけましたー!」
ごくまろぉ!
「さすがごくまろね! じゃあ私らはそれを鑑賞しに行くから勇者殿はとっとと帰るといいね」
「行くなよ! そしてごくまろ、見つけるな!」
「勇者殿はいいから帰るね」
「いいかごくまろ! 教えるなよ! 絶対だぞ!」
俺はちとえりからゲートに突き飛ばされ、城へ戻された。
「────相変わらず楽しそうだなお前んとこは」
いつもの昼休み、俺とあいつ、そしてコムスメは屋上で集まり勇者会議という名の近況報告。
「これ楽しいのかよ。やっぱ変態だなロリコンとかいうヤツは」
「ロリコンはかんけーねえだろ!」
関係あるよ。ロリコンは頭の病気だからいかれているんだよ。
「ところでその……ダイノウツボってどんな生物なのかなぁ?」
「変なとこに食いつくなよ色ボケガキ」
「ち、違っ! 聞いたことない生物だから気になっただけだし!」
顔を真っ赤にさせて反論するコムスメ。ほらロリコン、こういう初々しいの大好物だろ。
────仕事一筋のキャリアウーマンでずっと男を知らないまま歳を取り、そろそろ家庭にと思っているお姉さまがいざ男性の前に出ると初々しい反応を見せ……超アリじゃね!?
くっ、自滅しかかってしまった。コムスメごときで心は動かしてはいけない。
「フッ、きみひょっとして勇者かい?」
「いいや違うよ」
背後から聞こえた声に俺はノールックで即答した。
いきなり『フッ』で始まるのは確実にロクでもないヤツだ。会ったのはこれが初めてだけどきっと間違いない。
「僕が聞いたのはそこのお嬢さんになんだけどな」
「あぁ?」
振り向くと男が前髪を手で横に流した。うわあ、超テンプレじゃん。
「お嬢さんってこのコムスメのことか?」
「おい貴様! こんな可憐なお嬢さんに向かってコムスメとはなんだ!」
男は怒りの形相で俺を睨んできた。
「いや
「なっ!?」
男は驚愕の顔をした。わかるよ紛らわしいもんな。
しかし男はすぐ取り直し、コムスメへ笑顔を向ける。
「込住さんというのか。いやあ素敵な名前だ。それできみは勇者なのかな?」
「えっ? う、うん。みんな勇者だよ」
バラすなよ。そいつもきっと勇者だぞ。
男はにやりと笑みを浮かべてるし、これは確定じゃないか?
「やはりそうか。よし、では僕も参加してあげよう。これで君たちは──」
「いらね」
「けっ」
「えーっと、間に合ってるかな」
ただでさえおかしな奴らだらけだってのにこれ以上変なやつ増やせるかっての
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