第7話 あくのりゅう

Demonstrative pronoun


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『立ち向かうことに恐るよりも、立ち向かわぬことに恐れたのだ』



龍がいた、とてつもなく大きな龍だ。

その身を貫くには人の持つ剣では到底届かず、例えその身に剣を立てたとしても、志と同じく半ばより折られるだろう。その龍が持つ鱗はすべてを弾き人一人の力など、地を這う小虫と同じく。

龍がいた、とてつもなく大きな龍だ。

その牙を防ぐには人が身に纏う鎧では意味をなさず、例え盾で防ごうとも口から放たれた炎より、その身を軽く焦がされるだろう。その龍が持つ牙は人一人の力など、風に飛ばされる紙と同じく。



龍がいた、そして勝ち目などないと知りつつも挑み続ける者たちがいた。



どこまでもどこまでも残酷な龍がいた。

どこまでもどこまでも人を愛した者たちがいた。

誰もが誰も帰ってこない。戻れずと知りながらも、己が矜持と勇愛を魅せる為に龍の下へと赴くのだ。



『挑めど勝てぬと知りつつも何故に立ち向かうのかと聞かれた、私は答えた』



勝てなかった訳ではない、皆が皆が勝っていたのだ。ただ、彼らは龍と共に倒れたが故に皆が彼らが勝った事を知らぬのだ。我らは目的を果たした。ただ一匹の龍が暴れているわけではない、一度倒しても龍は幾度と蘇る。その度に我らはそれを知り、価値と勝ちを得に逝くのだ。智よ、朋よ、伴よ、我ら死しても我らは打ち勝つ。死に逝ったからといって負けではなかった。我らは死を得ることによって価値を得たのだ。死るといい、知るといい、我らは後世に勇気の価値を示すために龍へと向かった。そして、それによって龍はを得るのだ。



この日この時この場所で朋と出会える。

その身を戦に任せた故に、この朋死すとも荒野を駆ける。馬鳴き、鉄は火花を散らし、上向きゃ矢尻が雨嵐。貫き倒れて地に伏せば、駆け寄ると朋と死神の声。


その日その時その場所で共と出会った。

あの場を離れていなくとも、彼女は決して生きてはおらず。墓掘り、花添え、手向けの水を。篝火焚かず、送火焚こう。人の命は火同じ。最初にちょろり、中にてぼうぼう、最後はすぅっと灰さらり。


あの日あの時あの場所で友と出会おう。

どの服身に付け向かおうか。黒服白服、黒靴を。歌舞い、賑やか明るく行こう。最後は大きく花咲かせ。賑やか過ぎる、それで良い。寂しい夜は嫌いだろ。宴が終われば静かな夜を。吐息も寝息も聞こえず眠ろう。


どの日どの時どの場所で智と出会えぬ。

この日私はちちとなり、多くのわが子を産み育て。育つ子供の巣立ちは早く。大きく育った背中も大き。今まさ祝福、誇り往こうぞ。知もまさ語り継ごうぞ。間違い消して、再び亡きよう。祖母そふ言う話は物語、悲しき友の物語。



『龍よ、そこにある者は勇者であるか』



龍は答えぬ、ただ生きるために喰らったのに、それを悪とされ、そして滅ぼされるのだ。ただ強者の摂理に従ったであるが悪とされた。人とは傲慢だ、自らを至高とし、その他を至低に置くのだ。例え生きるだけで災害になろうとも、生きることを否定する権利がどこにあるのだ。彼らが家畜を喰らうのと、龍らが喰らった人との差など、どこにあるのか。



『勇者などになったつもりはない』



どこまで弱く、どこまでも臆病だったから、我らは龍に向かった。勇気も持ち得ず、勇ましく勇敢に戦ったわけでもない。彼らが我らを勇者とするのは間違いである。我らが何か持ち得たとしたのなら、たった一つの弱点である。我らは人としての弱点を彼らに見せつけ、彼らはそれに怯えた。彼らは死を恐怖するものだ、それを恐怖せぬものに怯えた。故に我らは勝った。



龍は悪ではなく、人は勇者ではない。

時を悪とし、地をも悪とする。

世は勇でなく、余を勇としない。



『龍がいた、どこまでもどこまでも臆病な龍がいた』


『理由は一つ、失うことに臆病だったからである』



△▼




国がある。とてつもなく大きな大きな国である。

誰もが彼らに従い、誰もがその身を寄せ、疑うことを知らずにその時を生きていた。

国がある。とてつもなく小さな小さな国である。

誰もが小さな幸せを得ることに必死で、彼らを包む大きな不幸を知らずに生きていた。



国がある、ただ欲を満たすためだけに食いつぶされた、多くの王がいる。

逆に自ら全てを得ようとし、虐げたが故に、打破打倒淘汰された、王も多くいる。



一代は土台を築き、二代は城を建てる。

三代は城壁を築き、四代は街を建てる。

五代は村落を築き、六代は家を建てる。



全てが出来上がった国はそこから腐敗する。

何故か何故なの何故だろう。



これが悪かったのだろうか。

だが、私は言われた通りにしたのだ、間違いであるはずがない。

それが悪いのではないのか。

他の者もやっているではないか、間違いであるはずがない。

あれが悪いはずもないのだ。

同じものが多くあるのだ、間違いであるはずがない。

どれが悪いのか分かり得ず。

気にせずにあるのだ、間違いであるはずがない。



時は巡り、全てを知る者がいなくなった。勝ち得た者が正義とされ、価値得た者が生義を得る。この時全てが正しくとも、その時全てが異を唱え、あの時全てが巡り巡って、どの時全てが答えを得るのか。


廻るよ廻る、巡らぬ巡り、芽ぐみ恵み、回りて寵む。


国は滅びても何度も他の国として蘇る。全てが変わり、全てが替わる。そして再び滅びも訪れる。時代は繰り返し、世界も繰り返す。一度栄えれば、一度滅び、二度と同じものは生まれず、二度も誤ち繰り返す。



『知るといい、世界も二度目やもしれぬことを』



人を愛した王たちがいた。されど人を知らぬ王たちもいた。どこまでも誓を忘れずに誇りを愛した王たちがいた。何も知らず、王であるからと驕る者たちがいた。立ち向かった臣もいた。流される臣もいた。王になれずとも権を持ち、王以上の悪政を敷く者達がいた。立ち向かった王もいた。流された王もいた。



夢を見ていた、全てを統べる夢を。何が素晴らしいのかはわからない、だが世界の主という名に憧れるものたちがいた。手に入らぬならば全てを消そうとする者たちがいた。自分のものにならぬならばと、誰にも与えたくないと、全てを壊すもの達がいた。王にならずとも、手に入らぬことを嫌うものたちがいた。



誰かが誰かを恨み、誰かを殺そうとする中で、知らぬ誰かを生かそうとする者たちがいた。人が人であるために、人を止めてまで命を救おうとし、終いには己が運命を定め、生き残りをも滅ぼす神々がいた。人は滅び新たな人が生まれた。あの日生まれた命により人は滅び、彼らと異なる人として生まれていた。




△▼



『殿下、妹君より贈り物でございます』



 フロストガラス、霜小瓶。そしてその小瓶を満たす紫濁色の液体、毒である。毒薬の名を『エミールの涙』という。自害を求めるときに送られる毒液として有名であり、過去の女神が龍に挑みその血を浴びたが故に狂い狂った勇者を殺すために送った毒液。苦しまずに逝けるがために、難病で苦しむ者や追い詰められた貴族などが服毒することが多々あるものである。一口飲めば眠気を覚え、微睡みの中で軽い夢を見ながらそのまま眠れるのである。



『卿、彼女がそれを願ったんだね』



 才能なしとされる、王太子。継承権第一位でありながら全ての能力を兄弟姉妹に奪われたと、揶揄されることも多い。彼の国では跡目争いをできる限り減らすために自国におる長子がまず王位継承権を得る。もちろん、王になりたい弟妹、そして長子以外の者に王となって欲しい貴族からしては長子は邪魔でしかない。


 成長が遅れているのか、ある時より変わらず少年の姿である王太子の質問にただ「その通りです」と頷く男、だが彼とて元より望んで毒を差し出すのではない。病弱であれば先は長くないこともある。もし長子を支持していたならば、再びその王位に付いた長子が死して王が変わる時に、他の弟姉妹の元に赴くなど、その他の派閥だった者誰もが許さないだろう。しかも、病弱の王など他国より付け込まれる原因でしかないのだ。ならば先見を持つ者こそ王になるべき、だが長兄が生きている限りは回ってくることはない。もしこれが男でなく女ならば、いくらでも逃げ道はあったのだが……。



『そう、なんだ……そうだね、僕が王になるより奇才と呼ばれた彼女の方がよっぽど良い』



 毒薬が妹君より贈り物、これが結局意味するのは有能な妹の為に自害してくれぬかという要請である。この王太子は最初から王位などに興味はない。更に彼は妹たちも弟も愛しているのだ、それこそ彼彼女のためなら命をかけるほどに。おっとり長女に天然次女、武才豊富な弟に背伸びがちな三女。どの姉妹弟も病弱な彼を労わり、立ててくれる。自分も彼ら彼女らには劣るが他の者が言うほどの馬鹿ではない。もっとも彼が才能なしとされるのは病弱であるがために、今後の成長が期待できない人間だからであるところの方が割合大きい。



『殿下、私は姫様が即位されましたならば、臣下としての忠言の後に自害いたします』



 如何に優れようとも、姫様は自分がどれほど危ない場に立っているのか知りませぬ。姫様が王位について、更に殿下の死後2年ほど遅れてになるやもしれませんが、あの世でお待ちください。殿下は天に、私は地に落ちるという違いはございましょうが、地獄の門にて殿下が旅立たれた後の姫様の勇姿、伝えるように天への門番に願いましょう。



 その言葉に王太子はただ頷いた。宰相が自らの後を追う理由を問う意味などない。その後、最後の晩餐とばかりに彼女と一晩寝食を共にし、幾人かの長兄派貴族へと彼女の援助を頼み終えると長兄である王太子は毒を呷った。そして毒の云われ通り苦しみを全く感じることなく、徐々に体を弱らせただ眠るように息を引き取った。



『どういうことだっ!最近は兄様の体調は良かったはずだ。容態も落ち着いていると、主治医は言っておったのだぞ!』



 長兄派帰属の会合に怒鳴り込んだ彼女が件の姫である。彼女が一日を長兄と過ごしたとき現に長兄は顔色も良く、喘息等も全く出ていなかったのである。



 さて、長兄の葬儀は戦時中であるためひっそりと執り行われた。その後、彼女は長兄派の数少ない貴族へと、あまりの急死の原因を何か知らないかと詰め寄ったのだ。その中にはもちろん彼の宰相も含まれている。ある程度の状況は把握しているが、絶対に話すことができない貴族たちはただ黙って彼女の罵声を聞いていた。



 長兄派の貴族はほぼ全員が長年を生きており、棺桶に片足を突っ込んでいる、さらにもう一つの足もそろそろ突っ込みそうな者ばかりである。長い年月を生きるということは古臭い考えを持っている事と同じく、また、前王、リンフェリアの父と乱世を駆け抜けてきた忠臣たちでもあった。諫言、忠言、行うが仕事。化け化かしの政治を繰り返しながらも生き残ってきたため気も長く、ちょっとやそっとじゃ動じない。一応彼女は間違ったことを言っておらず、彼らは体の弱い王子、王太子の補助を任されていたのだ。彼らは自分たちが彼女に責められ、迫られて当然であることは知っていた。


『急変なされたのでしょう、殿下。今はそのような時でありますまい、早急に殿下には国の舵取りをして頂かねばならぬのです』


 それを素知らぬ顔とまではいかなくとも、暴言一歩手前の言葉に少しばかり眉をひそめるだけにとどめる宰相。しかし、その態度は彼女の癪に障るモノでしかない。彼女とて彼らの言い分を分かる気もするが、理屈よりも理性が足りていなかった。一度頭に上った血は間を置かねば、下がることはない。


『覚えておれよ、宰相。私は貴様らのその態度忘れはせんぞ』



△▼



テツのトカゲです、混ざってます。

強いです、敵いません。


ヒを吹くトカゲです、混ぜられました。

弱いです、叶いません。


一があります。

二があります。

三があります。


市があります。

荷があります。

産があります。


稲があります。

餌があります。

餐があります。


ひふみ、ひふみ、ひふみ、肥富美?


作られ、積まれて、お店になりました。

作られ、撒かれて、ご飯になりました。


肥え富むコトは美しい。


四があります。

五があります。

六があります。


死があります。

後があります。

緑があります。


詞があります。

語があります。

録があります。


よいつむ、よいつむ、よいつむ、宵積む?


死にます、過去になります、土になります。

歌います、誰かに語られます、記録になります。


さあ、お休み、我が子らよ。

今宵も夜はきましたよ。



△▼



 夢を見た、ひどく懐かしく愚かな夢を。そして、全身を苛む痛みにより目が覚めた。瞳を開けることはできた。だがしかし、動かない。指先ひとつも動かすことができないのだ。これは一体どうしたというのだろうか?この体は幾時かの年月より覚めたばかりである、何かしらの不調があっても全くもっておかしくはない。なんとか動かせた首を隣に眠るであろう少女へと向ける。健やか?にヨダレを垂らしながら、野性的に我と同じくワラの上で寝ていることに気づく。そしてある事を思い出しふと呟く。


「……あ、指動かない原因がわかったわ、バネ指だこれ」


 女子供に多い症状である。妊娠中や成長中ならば特になりやすいらしい、指の関節に筋が引っかかるのだとかなんとか。軽度ならば時間とともに治るが、酷くなると筋を切らねば治らなくなる。体をプルプルとさせ、なんとか微かに動かしていると少女がようやく目覚める。ふと、名前を呼ぼうとして彼女の名前を知らないということに思い至る。開きかけていた口を一旦閉じ、「起こしてくれないか?」と声をかける。


「ん~?ふみゃ……あれ?なんでこんなところにいるのかな」


 昨日のことを大方忘れているようだ。いや、まあ仕方がないかもしれないのだが。実際彼女のような年頃の女の子なら現実逃避してもおかしくはない出来事であった。事実として認めたくない、夢で片付けてしまえば大変楽になれる。実際に大の大人でも逃げに走ることは多い。上半身だけ起こして首を左右にこてこてとかしげる少女。頭の上に疑問符が浮かんでいるような気がする。こちらのことまで忘れているのではないかと、少々心配になるほどである。いや、彼女が昨日の全てを夢とするならば、私はいてはならない要素ファクターであろう。と思えば、彼女が我に気付く。そして、じっとこちらを見下ろしている、……頭の中に逃げてはならないという言葉がぞわんと浮かんだ。


「……おおぅ?う~ん?……神様だぁ。おはよう、神様。よく眠れた?」



 ……予想外であった



 いや、うん、まぁ、深く考えても仕方あるまい。問題はこれからのことである。ここに居続けても食料的な問題や、タコの魔物的な問題が浮上してくる。我一人で移動することはもちろんできる。逃げ足的にも個人的にはこちらのほうが望ましい。だが、残した少女は確実に……死ぬか?あれ?いや、まてよ、我より普通に生き延びられそうなんだけど。なんか逆に生活能力的や生存能力的に我のほうが劣っている気がする。つうか、普通に死ぬのはこっちのほうな気がしてきた。


「……ああ、眠れた。さて、起きたばかりで早速だが話がある」


 もちろん、着いて来てくれるかどうかである。連れて行く、ではないのが重要です。ガチりと少女の肩を掴み正対する。真剣な顔で向きあう、少女はこちらを真っ直ぐ見つめ……おいこら、船こぐなよ。またお休みですかぁ!?


「もしも~し、お留守ですかぁー?」


 いつ追加の敗残兵が来るかわからないのだ、早めに出立できるのならしておきたい。少し乱暴だが、大きめに少女の体を揺すり、無理やり覚醒させる。少女は顔、目を擦りようやく意識をはっきりとさせる。


「ふぁ~、で、なんですかぁー」


 否、意識ははっきりしていない。


「さて、では、二度寝する前に決着をつけてしまおう」


 ここからは早かった?我が如何に少女のことを短いながらも大事に思っているのか。更には今後この村に残る不利な点(敗残兵らしき者達の追加の可能性)、我にとって少女がいかに必要か(これ重要)を少女に説明していく。もちろん、無理矢理といった感じが出ないように、優しく、穏やかに語りかけながら説明させてもらった。完璧に元王としての交渉術が役に立ったと言える時であろう。


「うぇ?う~ん、……うん、うんわかった!」


 少々考える素振りを見せるも(この時冷や汗をかいた)少女は快諾してくれる。……では行くか。



 話がまとまったなら、そこからはダッシュ!いや、なんか我のガチムチセンサーが警笛というか、エマージェンシーを全力で鳴らしてるんだよね!ぶっちゃけ敗残兵なんか目じゃない程の恐怖の存在が近づいてくる予感である。奴らガチムチエルフは頼もしい以前に、マジ危ない存在だし?ホント、364計逃げるに如かず!今この時我の辞書の中の計略、策略には全力逃走ランナウェイしか亡くなった、誤字にあらず。


 ガシリと少女の手を掴むと即起立、飛ぶように兄様……おっと間違えた、愛馬のもとへ向かう。ポンと少女を馬の上に乗せると、即騎乗。え?荷物?もちろん、しっかり昨日のうちに回収してますとも。村のお金とかお金とかお金とか。正直いけない事をしている気がめっさするが、死人に金など必要なしと割り切る。……これから生きていくには仕方ないのだ。先立つものは重要である。


 そのまま、少女を抱え込み即座に馬を走らせた。





「立ち去りましたな」


 一人の青年がいた。黒がひと房、ふた房ほど混じった特徴的な白髪に上向きに尖った耳、見た目は・・・エルフと呼ばれる種族にそっくりである。そしてその傍らには筋肉質の肉体を持つ初老の男性。これまた耳は尖っているが、こちらは少々下向きに伸びている。髪の色は白に時折褐色が交じるような配色である。両者ともにサーミと呼ばれる民族衣装を身につけている。色彩豊かなコルト、フェルトの布地で織られたものである。青年は紅紫、初老の男性は青である。それぞれ襟は様々、鮮やかな色でまだらに配色されており、少々派手である。


「ジャムナバリの族長としてはこれでよろしかったので?先祖の教えに背くことになりますが」


 問いかけた青年に顔を向けることなく、初老の男性は目を閉じ頷く。そしてつぶやいた。


「貴公ら、アルパイン族としては遺憾であろうな。我らも出来ることなら、彼のお方の手助けはするべきだと考える。しかし、時代がそれを許さんのだ」



 クァペラ種と呼ばれる彼ら耳長族。とある理由を知っていた。とある時代を知っていた。とある世界を知っていた。故に全てに味方せず、故に全てを黙し続ける。



 とある話をしよう、第一神話呼ばれる時代である、古神により世界が滅びた時代だ。クァペラ種はこの時最初に産み落とされた。古神の一部、名も無き白衣纏いし神々によってである。

 白衣纏いし神々は生命の冒涜者である。軍衣纏いし神々がその身の通り死神なら、彼らは殺し、救いて命を弄ぶ者たちであった。彼らは最初の子供である耳長族に褒めて欲しかった、この荒んだ世界を生き抜くための力を与えたことを。だから全てを、話した。すべてを伝えた。


『我らこそが神の名を得る、時代は変わった。我々が滅びても、誰かが知るだろう、我らという存在の偉業を』


 だから、知っていた。全てを教えて貰ったが故に今の時代に興味を持てなくなった。先の時代に望みを託した。全てを知るが故に第二神話の神を他の者より深く信じた。正しく、古神の白衣神の後継者であるからだ。まだ、今を生きる神はそれを知らない。何故己が神の名を正しく受け継いだのかを。



▽▲



竜がいた、己が存在を知らぬ竜だ

神がいた、己が問われを知らぬ神だ

人がいた、己が生まれを知らぬ人だ

獣がいた、己が意味を知らぬ獣だ


一つ彼らが知ることは、生まれを選べぬことのみで

二つ彼らが知ることは、生きるに価値なく死ぬに価値なし

三つ彼らが知ることは、育ちは選べず巣立ちも選べぬ終いにゃ終わりも選べぬで



「もし全てを知った神が何を為すのか、ほんの役割を知るであろうか?」

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