第5話 かみだのみ

oath to God. oath of God.


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『救いなど、何一つ授けてはくれないではないか』



 とある聖王国があった、神を筆頭に宗教が国を治める国である。ある時、彼らは宗教戦争を起こした。とある神へと喧嘩を売ったのである。神は我らが信じる一つで良い、大運河を超え、山を掘り進み、彼らは敵と相対した。軍勢の差はさほどなく、どちらが勝つかはわからない、いや聖王国等の軍勢は疲れているのだ不利かもしれぬ。彼らは彼らの信ずる都を落とし、その地より各地を攻めた。ある時は勝ち、ある時は負けた。そして聖王国の敵はもはや国ではなかった、一つの村を焼いても、それより多くの軍勢がどこからともなく現れ彼らの軍を襲った、不規則戦闘である。



 キリがないと思い、聖王国側の軍勢は各個撃破を恐れながらも軍団を三分割し、都市の制圧、補給物資の調達を試みた。都市を攻めようとした矢先にさる大都市は門を開けたまま、軍を招き入れた。軍の長は、死を宗教替えする気になったか、と都市の長へと尋ねた。都市の長は迷いもなく、あなた方の宗教を至上とするのなら我らを改宗させることなど容易でしょう、と答えた。彼らは自らの正当性を唱え、この軍を起こしたのだ。彼らより全てを奪い力で屈服させようとする考えを持っていたとはいえ、彼らが異教徒を攻めても自らの神を盾に取られる事は今までなかった。全ては「貴様らの神は貴様らを救わなかった」と強者の理屈、それだけで全てが語られるからである。だが、彼らは度量を見せろと言ったのだ、世界での唯一を唱えているのに彼らを殺すことができない、都市の長は賭けに勝ったのだ。



 またある都市を攻めた時は、全く攻め落とすことができなかった。その軍の長は言った、貴様らの味方であるものは直ぐに貴様らを裏切ったぞ、と。攻めている都市の士気を下げようとした。しかし、ある都市の長は答えた、我らの教えはそれぞれである、彼らが愛すべき隣人であれ我ら一人一人は彼らの考えを否定せんのだ。彼らが血を流さずと決めたのだ、何故異議を唱えられよう。彼らも我らの行いで自らの立場が悪くなろうとも、我らを責めることはしまい、彼らは屈辱に耐え、我らは屈辱を受けぬことに決めた。我らの教えは万民を受け入れることよりはじめるのだ。軍の長は自らの行いから、信ずる神にそこまでの度量はないと知っていた、なれば驚いた。



 もとより敵地である、聖王国の軍は度重なる戦により戦い慣れてはいても搾取できぬことには慣れていない。降伏した都市より物資を徴収しても、彼らの欲を満たせなかった。異教徒であるからして、彼らが奪うことは正義であるのだ。なぜ奪えぬのだと、我らのモノになったから手を出しても、自由にしても良いのだと、思う者が後を絶たなかった。さすれば、結果は見えていよう。彼ら聖王国に降伏した都市は此度は反旗を翻す。彼らが力尽で手に入れたことはあっても、清く降伏したものが敵になることを知らない。常に虐げる側が、虐げられることを知ろうはずもない。自らより強い者を殴ってやり返されないとわからないのだ。



 かくして、聖王国の軍は降伏した都市より攻撃され、背後を突かれた。補給線も失い、軍を保てるはずもなく。愚かと言うなかれ、聖王国の軍も備えを置かぬわけではなかったのだ。危惧する者もいたのだ、されど奪いなれた獣が奪わなことを理解できなかったのである。次々と撃破される聖王国、戦で初めての敗北ではない、幾度となく負けても最後には勝ち教えを広めてきた。だが、此度は初めて彼らの教えが完膚なきまでに負けたのである。聖王国の軍は後ろを気にしながらも這う這うほうほうの体より逃げ帰った。



 都市等はある場所より先では追撃をしなかった。聖王国は攻撃をし、そして負けたのだ、逆信仰、逆侵攻を恐れた。今攻められれば、負けることしかできないのだ、今度は自らの番かとただただ、己が神を呪った。しかし、彼らが痛みに備え差し出した頬を打つぶつものはなく、ただ一つの文を持った使者だけであった。



『貴公等の神の教えは貴公等を救ったか、我らの神の教えは我らを救った』




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 戦に負けた、信ずる神の軍が破れたのだ。私と異なり捕まった者も多くいよう、我ら聖騎士も体を矢に貫かれれば力なく倒れる。我らの神は先祖は救っても、我らを救うことなど一度だって有りはしなかった。戦の度に戦友は死に生き残った者も何かを失わぬことなど稀である。何度我らは神に祈ったかのろった、だがどれも届かぬ。我らが信じた神も今までの敵が信じた神も全て等しく我らを救いなどせぬのだろう。それは、彼らが説く教えを我ら人間が異に伝えるかようになったのか。誰もが神に等しく我等も異教徒も救われはしない、そう思った。



『その目、死んではいないな』



 美しい人であった、白く、汚れもなく、そこに立っていた。この戦場であってもその白銀の鎧とその流れる髪を血に染めていない。どこかで見た、どこで見た?ああ、それは正しく我らが知る異教徒の神であったか。我らが燃やした異教の神の肖像と同じであろうか。彼らの神は我らに神罰を下しに来たのであろうか。彼らの神は彼らを救い、我らの神は我らを救わぬのだろう。この首、敵が信ずる神に直接取られるのだ、武人として敵の兵士に、敵の将に取られるよりも、更に誉れ高いのではないだろうか。我らは我らに死を与える異教の神と、我らの神を等しく呪った。



『ここまで来たのだ、私は全ての神を等しく呪おう』



 目の前に立つ異教の神は私のそれにこう答えた。神を呪うのは構わん、そうするは何時の時代場所も同じであるだろうからな、勝手に怨み恨み、呪え。だが、今はその身癒すのが貴公を見つけた我の役目であろう。この剣を受け取るがよい、鞘を抜かねばその剣は貴公が傷を癒すであろう。その剣はくれてやる、その剣は古神を斬ったと言われる名剣である、ならば貴公が呪う神全てに、さすれば届くやもしれんぞ。もし呪うならばその剣抜くが良い、異国の騎士よ。どこにいるか分からぬ神を斬ってみせよ。



 異教の神は自らを殺せる剣を差し出し、殺せといった。これだけの美、これだけの神々しさ、その髪も誰が持つものと同じではなく、此の神を殺せば全てが終わるだろう。あれを汚し穢し泥に犯せばまさしく我らは異教の神を破ったことになるのだ。気がつくと全て、自らぼろ布と称しても可笑しくない体の全てが癒えていた。折られた剣の代わりは既にこの手にあり、目の前にいる方の鎧と首を投げ渡せば絶望を知るは彼らとなる。剣を抜き構えた。



『振るわぬか』



 異教の神は知っていたのだろうか、力の入り具合からわかる、驚くべきことに失った血すらも回復している。だが、この剣は重いのだ。どうしようもなく、重いのだ。鞘より抜くまでは羽のように軽かった、ではなぜ此の抜き刃を神に向けた剣は重いのか。神の表情を見てもおかしなところはなく、その美しい顔は動かぬ、無表情のままである。この剣が神をも斬る名剣なのは間違いないのだ、その刀身も溢れんばかりの力を放っている。ではなぜ剣を振るえぬのだ、あれほど毎日振るった剣ではないか。なぜ?問わなくとも既に分かっていよう。



『この剣、及ばぬ私が持つ代物ではございません』



 剣を鞘へと封じ、神へと片膝を着き差し出した。斬れるぬのだ、斬れろうはずもない。今、わかりやすい形で救いをくれたのである。なぜ敵である私を?そう思わないことはない。だが、救ってくれたのは此の神であり、我らがもとより信ずる神ではなかった。この神を斬ることなど、叶わぬのだ。神は語られた、その剣なくば敵地にてどうやって生きるのだと。だが私は奇しくも救ってくれた神の前にこう答えた。



『答えは貴方より授かりました、この生救ってもらいながら図々しく惜しくないのです』



 剣を受け取りながらも神は答えない、ただ目を細めるだけである。だがやがて、その左手の指を伸ばし右手で包み込んだ。次に瞬きすれば、そこにあるのは再び、先ほどとは違う剣であった。これも神の持つ剣である、名剣であるのだ。神は鞘より刀身を魅せた、いつの間にか両膝をついて乞う形になっていた私にもその形はよく見える。確かに比べても神々しさは感じない。されども鍛えられたそれは私の知る聖王国のどの剣とも比べられぬ。



『この剣は我の騎士に与えたモノと同じである、3千にてそれより多くを斬った剣である』



 鞘にも紋章があるだけで華美な装飾はない剣を差し出した、そしてそれを私はただ受け取った。神は抜いてみよと言われた、遠目から見ても美しい剣は近くで見てもやはり美しかった。再び乞う形より騎士の膝着きへとその姿を変えた。鞘を垂直に親指と手のひらでおさえ持ち、今度は剣の柄がある左手を前へとずらした。神のほうと息を漏らす声が聞こえる。驚いているのだ、どの様な表情になっているのだろうか。気にはなったがそれよりも大事なことがある。



『異国の騎士よ、二君に仕えるを恥とせぬのか』



 ここに来てまで、此の神は私を見ていてくださる、我が名を堕とさぬようにと心配してくれているのである。だが、姿を見せず神官に云わせれば戦いだけを望まれた神よりも遥かに、否比べることなどできまい、ここにいるのは確かに神である。迷うことなどないではないか、改宗する事など得られた答えであるからして、どこにも迷うことなどないのだ。今ここにあられる神を見ずして何を見よう。私は間違えていたのだ、それを正すは常であろう。私は神へと答えた。



『あの時確かに私は死んだのです、ならば此度の生を新たに捧げようと何故咎められましょうぞ』



神はそれ以上は何も言わず、剣の柄を握られ、軽く両肩を突いた。



『これより貴公は我が騎士である、我が身見えずとも精々仕えると良い』




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5話における名称紹介


<聖王国>

宗教神を頂点、それより下を教王、教族、貴族、神官等で固める。

崇める神は地母神アンデュラ、おうさまより少しあとに生まれたらしい神様である。

アンデュラは元々、戦場にて傷を癒して回った、とある聖女である。

救ってもらった騎士、兵士より戦場を癒して回る謎の女性として話が広まった。

謎の女性として伝わったが故に、勝手に貴族の手によって神様にされた。

戦場に現れたという、その性質が彼らを戦場へと駆り立てる要因となっている。

聖王国と名ばかりの軍事大国、聖騎士と呼ばれる者を多く抱えているため、上層部は清く、出世も簡単な国。

軍を構成する要は農民兵で統率は取れているが、略奪を禁止するまでには至っていない。

騎士などの上層部はあまり略奪は好まないが仕方ないものと目をつぶっている、今回の敗因はそれである。


<大運河>

とても広い深い長い三拍子の河。

川幅二キロぐらいはあるんじゃないかな~。

帆船も通れる、というより通っている。

運河と名前がついているのは、古代に人が作った物がいつの間にか広がったとの伝承の名残である。

正式名称、デュレトリアナ大運河。

運河より聖王国側をロバン大地、都市国家側をトランフェーンンド大地と言う。

この二つを合わせてトラストフェリア大陸という。


<都市>

都市国家群の一つを指していう。

以前は国としてあったものが、国は滅びいつの間にか都市のみが個々に成長してこうなった。

他の宗教も入り混じっているが、大多数がリンフェリア教。

どの都市も他の宗教を快く迎えているが、血の気の多い宗教は肩身が狭いことが多い。

戦時の軍の要は魔砲兵と騎士、魔法術士、数には劣るが総合的な戦力は非常に高い。


<聖王国の騎士>

結構強い、背後から突かれた際に立て直しを指揮した名将でもある。

イケメン、本国ではモテモテである、マジ爆発しろ。

おうさまより騎士剣を受け取り、母国に帰らないことを決める。

後に熱狂なリンフェリア教徒として知られるようになる。

毎日二時間ほど肖像に祈っていたために付いたあだ名は紙(誤字にあらず)に恋する残念なイケメン。

聖王国にそのまま帰っていれば完全な負けより多くを逃した功績により受勲されていたのに、何もかも残念になった人。




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 血は回復し、傷はいえても体力までは回復しなかったのか、騎士は意識を失った。次に気がつくと神は既に立ち去ったのか姿は見えない、だが、上にかけられた外套と剣が事実神にあったのだと教えてくれる。その後、騎士は剣を抱え、都市へと向かった。聖王国に帰る気もなく、もし帰ろうとしても、帰るための船も手に入れることは出来ないだろう。都市を囲む城門の、敗残が賊となったものを恐れて閉め切った城門の前に騎士は着き叫んだ。



『我らの神は我らを救わず、彼の神は私を救った』



 騎士の姿を見た都市の兵は騎士へと矢を放った。矢は騎士のそばに落ちるが、騎士はその場を離れない。その後何度か威嚇の矢を放つがそれでもその場を動くことはなかった。様子を見ようと兵は矢を放つのを止め、都市の長へと意見を取りに伺った。逃げぬのは使者である可能性もここまでくればありうるからである。侵略者であろうと使者の話を聞かずして追い返すのは礼を知らない。



 再び報告へ向かった兵が戻ってくると、騎士は外套と剣を門の前におき広げ、祈りの仕草で両膝をついていた。何事かと他の様子を伺っていた兵に聞いてみても首を振るばかりである。騎士が広げた外套にかかれた紋章は兵らがよく知るものであった。剣と月桂樹、アキレアの花だと言われるモノで構成された紋章、教えの中で使われる歴史家が掲げた紋章である。今では神に仕える者が総べからして身につける紋章であった。それを見た都市の長は彼を中へと招き入れた。疑いはしても、彼が持つのは彼らが否定してはいけないものであるからに。



 話を聞いた長らは驚き、疑い、だが信じた。騎士の授かった剣は新しいが、彼らの都市に保管され隠されているそれと全く同じである。彼の熱に浮かされた声とその手にしたものを見、彼ら全ては神がこの地に再び現れたことを確信した。神が敵を救い何故都市へと直接降りなかったのか話題となったが、戦など好まぬ神である。それで皆が納得した。すぐに都市の長らは使者を聖王国に送った。それを聖王国は最後通牒かと思い構えたが、停戦の申し入れと聞き耳を疑い使者へと尋ね、使者は答えた。



『泣く子を鞭打つほど、我らの教え、神は腐っておらぬのだ』



ここに、聖王国は自らの負けを悟った。




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題 かみだのみ (詩集『祈り』より、児童書)



神様、神様お願いします

私の子供を助けてください


されど答えは返ってこない


神様、神様お願いします

私の父を助けてください


やはり答えは返ってこない


どうして神様助けてくれない

神様いないの

神様死んだの


神様、神様聞いてください

私が子供を救います


神様、神様聞いてください

私が父を救います


神様、私の約束聞いてくれますか?




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 カシャカシャと音を立てながら、とにかく歩く。王都外の廃都は所々、少し前まで人がいた跡があるのだが、肝心の人は見つからない。普通の人だと、なんで亜人が話しかけてんの?となるかもしれないので、できれば狼耳や猫耳君がいると嬉しい。いる事は話を聞いて知っているのだが、王城よりほとんど出たことがないので普通の人間しか見たことがないのだ。エルフ耳?は臣下に数人いたので知っている。美形だなんてとんでもない、間違いなく奴らはエルフらしいが、薄黒くごついガチな筋肉だった。しかもその姿で全員文官である、我の持っていたエルフの幻想はその時泡沫、つまり泡となって消えたものである。せめてダークエルフと名乗れよ貴様らと思った我、おかしくない。ちなみに政治には手を貸しますが、戦争には我らエルフは加担しませんと、さっさと勝手に居なくなった奴らである。まあ、そういう事は話に聞いていたし、森の民との条約にあることを知っていたが、エルフ汚いと思った我、悪くない。その他にも貴様らみたいなガチムチが戦場に合わないとかどんな冗談だと思った我、どこまでも普通だと思う。貴様らはペンを持つより、遥かに斧を投擲する方が似合っているぞと思った我、すごく一般的である。なんて酷いエルフ詐欺なんだろう、これは既に自称エルフのレベルだと思った。


 そんなこんなでいろいろ変なことを考えながらも廃都を探索していた。新しい火の跡が若干湿っているモノの、大通りの端に規則的に並んでいる。集団野営の跡であるか、件の彼らが片付けたのか、そのおかげで悪魔憑きが居ないのだと思われた。正直死人や傷口を見ることの耐性はあっても、ゾンビ系へのグロ耐性はない、自慢ではないが漏らす自信がある。いやだって、扉を急にガタンっ!って開けて飛び出てこられたら普通にビビるでしょう。尻餅着いて動けなくなるね、生きてないのに動けるとか、その時点で理性が裸足で逃げ出すのに、アメリカンホラー並みの登場されたらそのまま、ピチャピチャバタンできる。


「見渡せど、人の影なく、寂しいな。歩けど在るのは、天幕ばかり。字余り」


 その他に見つかるのは荷台に積み上げられた天幕、そして柵の礎材だと思われる丸太立てと中途半端に組みあがった柵。この分だと少し前に慌てて撤退したのであろう。何から逃げたのか非常に気になるところだが、もしこれが魔獣や魔物の大軍だとか言ったら我全力で泣くからね。死ぬのはまだしも生きたまま貪り食われるとか、うんこになるとかほんとに嫌だ。その時は王城に逃げ込んでもう一度あの魔法でも使うかと思い、後ろを振り返った。


「ふむ、山が出来てる……あれ?山ってそんなに簡単にできるものだっけ?」


 王都消えちゃった、っていや、おかしいだろう。これでは逃げ込めないじゃないか。街に繰り出したのは早計すぎたか、魔獣に襲われる以前に野犬にも負けそうな、我。そういえば、よくあるファンタジー設定で魔物や魔獣が人間を苗床にすることがあるのだが、この世界ではそういったことがあるのだろうか?もしするなら完璧にアウトである。無駄に生命威力の高い王族、無限出産快楽漬けルートとかそんなの死にたい。というか、ファンタジーでの主演級の王族の扱いって非常に極端だよね、滅ぼされるか、主人公のハーレム要員になるか、犯されるかなど様々、既に滅ぼされたことでフラグ潰したということにして欲しい。主人公みたいな奴が登場しない様に願っておこう。今みたいにボッチで弱っているところを優しくされたら、惚れるかどうかは別としてホイホイついていく自信がある。相手がイタイ勘違い野郎なら無理矢理パクっていかれるかもしれない。


 結局あとにも引けなくなったので、そのまま廃都の城門まで向かう。門が壊されている代わりに内側と外側に二重の柵が拵えてある、やはり人はいない。城壁の門の上、一番高いところに登り外を伺うが、見渡す限りの大地が真っ黒である。まあ、だいたい想像がつく、草が生い茂っていたので火をかけ焼いたのであろう。敵を発見するのに邪魔なものを残しておくわけがない。しかし、これだけの領域に火をかけたのだ、燃える大地さながら、非常に壮観であったろう。ふははははは、大地が燃えているわ!とか我なら言うかもしれない、イタイ子と思われたくないのでぼそぼそと呟くだけだけど。


「ひっ!」


 そんなこんなで、また無駄なことを考えていると、辺りに閃光と爆音が響き渡った。何を言うのだ、悲鳴など上げていない。城壁からは離れているのだが規模が大きい、合戦クラスであろう。慌てて城壁に身を隠し、双眼鏡を取り出す。凹凸の凹部から音がした方に目を向ける。どうやら片方が片方に一方的に嬲られているようだ。魔物ではなく、人間同士の戦争であったらしい。苗床ルートが潰れてガッツポーズな我。いや、笑い事じゃないから、本人は至って真面目というか、文字通り死活問題だから。


「うわー、えげつない。我の知ってる我が国特有の魔法術の良く似た術式だけど威力が卑怯だ。指先一つでダウンさーを魔法術で実践しているよ、そしてそれを魔法の盾?で防ぐ敵もいるから笑えない」


 我が騎士たちもできたのだろうか?出来たんだろうな、多分。馬に乗った奴の杖という名の槍が光った途端、雷みたいなのとか、火炎球みたいななのが飛び出している。そして馬で引く三人乗りの戦車に乗った騎士が偶に盾で弾いている。弾けずに直撃した騎馬や戦車はギャグみたいに吹き飛んで宙を舞っている、あれは確実に死ぬな。いいなー魔法術。我も使えるけど、初級?もいいところである。剣ちょっと使える、魔法術ちょっと使える、馬術ちょっと使える、槍ちょっと使える、騎龍すごく使える、槍斧すごく使える、というなんとも評価し辛い性能。現状でもっている能力、使える能力が全てちょっとである。謙遜ではなく、ほんとにちょっと。姉様に龍術に全て奪われた、かわいそうな子と評されたのは伊達ではない。その全ての中に『運』すら入るというから非常に笑えないけど。


 そのまま息を潜め、殿部隊であろうかが追撃を受けているのを遠目に眺めていた。宙に舞う人、これでギャグならば笑えたのだが、何か色々ちぎれているのも見えるのだから、顔は真っ青である。徐々に近づいてくるのが見える、が急に追撃していた騎兵らが進み攻撃を共に止める。好機とばかりにその場を離れる騎兵と戦車。追撃側の先頭を行く魔法術士が何か指を振った、あの術はよく知っている。拡声の魔法である、そのままスピーカーであるから、声を張り上げることが得意ではない我はよく使ったものである。


「これより先は争いを好まぬ神の眠る土地である!侵略者よ、我が神に感謝すると良い!貴様らの血すらをも惜しみ悲しむのだ!二度と我らより奪わぬことを誓い立ち去れ!」


 ああ、負けてる方が喧嘩を売ったのか。まだ結構な数がいるのに、辞めた理由は安直に言えば貴様らの血なんて自分たちの神に見せるに値しないものだ、っていう事なのだろう。まあ、正直、我の場合も見たくない。でも見ないと彼らが近づいてきた時に隠れることができない。あんな物騒な奴が見知らぬ者、つまり我を見つけたらパックンチョだよ。おやめください、おやめください、あ~れ~みたいなことになるのでは?いや、なんか女性になってから不幸といえば連想するのって嫌いな奴に襲われる事なんだよね。貴族騎士のおかげでそれが更に助長された気がする。騎兵はそのまま馬の踵を返し、どこかに帰っていったのだが、吹き飛ばした連中の止めは刺さないのだろうか?。戦車とか騎兵の集団は吹き飛んだ連中を放置してそのまま逃げていった、まあこれは仕方あるまい。


 双眼鏡の視界から完全に離れてようやく、血に倒れている彼らの下に向かうことにした。流石に高みの見物だけして死者や死にかけの負傷者を放置、そして「ハイ、さようなら」は我の矜持に関わる。勝ち目のない戦いに助けに入るほどの酔狂なお人好しではないが、傷つき倒れた戦士等をそのままに捨て置くというのは王としてはどうなのだろうか。許されぬだろう、我は我のために目の前の戦士を見捨てそして切り捨てた、もとより関係のないというのは言い訳にならぬ。見たことにより、既に我は魅せられその縁を紡いだのだ。見届けるものであろう。


 幸い、魔法術士らの騎兵は戻ってくる様子もなく、豆粒以前に辺りを深く見回してもその姿は既に見えない。その事を確認しながら、ゆっくりと彼らの下に歩いていく。魔法術士らが戻ってきても、これだけの距離が離れていれば逃げ切れるだろう。腰の剣に手をかけすぐに抜けるように、そして指輪より酒筒を取り出す。周囲には車輪の吹き飛んだ戦車、半ばより折れているものも多くある。他にも、もがき苦しむ軍馬が転がっている。血反吐を吐きながらもなんとかその折れた足で立ち上がろうとして、転ける事を繰り返す。ならばこの軍馬も誇るべき戦士であった。このままこの軍馬達は立ち上がることなく、飢えて死ぬ事となるのだろう、故に一頭ずつ止めをさすがよしであるか。


 人を診ている間に軍馬に暴れられても困るので、龍の牙、我が名剣にて一太刀に首を落とす。途中縋るような目で見られることもあった。彼らも苦しく一個の生命として生きたいのだ、それを人間の手によって運命、定められてこうしてまた人間の手によって勝手に殺される。なんと、哀れなことであると考えるのは上から目線であろう。されどそう思わずにいられないという、それがまた悲しいものである。


 軍馬への処置を終えると、次はいよいよ人である。馬を切り倒すときに命乞いと呻き声、怨嗟の念が聞こえた、彼らも侵略者として望んで、この地に立ったのであろうか?侵略する者の上にそういう者がいる事は知っている、下にも出世がしたいと戦いを望む者がいることも知っている。だが大多数は、軍の中での花形である多くの騎士ですら死にたくなどない、戦いたくなどないと考えるのが普通なのだ。よく、物語の中で戦場に魅せられるものがいる、あのような気違いなどそう多くいてもらっては困る。もしいるのならば、人に救いなどありはしないではないか。


 ようやく鎖帷子を身につけた、息のある一人の男のそばに近づき見下ろす。息のない者も多くいるが、それらは捨て置く。片目が瞼をなくし、こぼれ落ちている。歯もほとんど全てが折れ、口から見えるのは鮮やかで濃い赤色。まともに喋ることもできぬだろう、これはさすがに助からぬ。酒筒より、我の知る銘酒を望む。そして戦士の口へと近づける。残った目にも殆ど光は見えていないだろう。だが、我の姿を見定めた戦士は何かを呟く。


「我が身を、……。…………異教、か」


 内容などほぼ聞こえない、これもたま少し自嘲の念が込められているが、怨嗟の念であろう。我を敵と考えたか、この者もあの状態から先に逃げた仲間が戻ってくるとは考えている訳がないのだ。ならば敵、そう考えた男が普通であろう。一言、あの爆音である、聞こえているかも怪しいが「末期まつごの酒だ、飲むといい」と告げ、彼が何かを言おうとする度に、血がこぼれ落ちる口へと近づける。これでは到底、いくら銘酒であろうとも味など知ることは出来ないだろう。だが、やるべき様式美であることには違いあるまい。酒を飲んだ瞬間噴き出し、血と混じったものを我へと浴びせる。ここまでくれば、既に酒も飲むこと叶わぬか。


「今楽にしてやろう、眠るといい、我が騎士よ」


 戦士を送る際、目を開けているものは右手でその目を閉じさせ、そのままの右手で剣を握り、止めを指すのがこの世界の様式、理である。介錯する側がその理を犯すは褒められたことではないし、受ける者もまたそれを拒み邪魔するのは褒められたことではない。故にその白く濁った目を無理矢理、右のこの手で閉じさせる。最後の力を振り絞ったのだろうか、男はその手を力強く握り離さない。この状態であるのだ、ほぼ無意識の内だろう、これを咎めることは万百が許そうとも我は許さない。だがしかし、これでは長剣は使えない。仕方なく腰にあった短剣に手を伸ばす。左で殺すは騎士、戦士、王全ての恥とされるが、そのような事此度は気にすることはないか、役をなさぬほうが我が恥となろう。


 そのまま首に短剣を当てる、瞬間右手を力強く、ギリギリと引掻かれる。そこから動かなくなった男の手を解く、右手を見れば久しく見ていなかった自分の血であった。結局のところ、我が流したと思っていた血は誰のものであったか、他人のものであるか。他人が悲運を己が物とし嘆くとは、そして今頃それに気づく。如何に自分が救いようのない愚者であり、凡人であったのか知った気がした。


 それよりは、先の男よりひどい、掠れた声も出せず、息を漏らすだけの男達から順にその口を開き酒を流し込む。男達の瞼を閉じる際には、最初に介錯した男と同じように、誰かわかっていないようで手を強く握られることが多々あった。敵を貶めるために態とであるか、それともやはり無意識なのかわからぬが、それでも握られる度にこの手の甲に幾重モノ赤い線を描いていた。それでも死ぬ間際は人肌さみしくなると聞いたことがある。60人ほど手にかけた頃にはすでに、手の色は何時もの陶磁の白と称えられた色ではなく、赤黒い色からわずかに肌を見せるだけであった。


「ほう、貴公はまだ意識があるか」


 切れ味落ぬ短剣と長剣の血を拭いながら見つけた男。一人だけ、こぼれ落ちるはらわたを抑える様に手で押さえ、壊れた戦車の底に背をあずけていた。持つ者の傷を癒し、神をも斬る魔剣がある。意識があるのならあるいはと思ったが、この男も既に助からぬであろう。なくした血や腕等は癒してくれるが、無くなった中身は確か無理であった。男の横には体を引きずった跡があり、そこにちぎれた内臓もある。動かなければ助かったかもしれない。だが全ては遅いのだろう。


「まさか、その身を見れるとは思わなかった、神よ感謝しよう。そして我が盟友、戦友ともらへの粋な心遣いを、死した先にも届けよう」


 珍しくこの男の声帯は傷ついていないのか。だがよく見ると、男の右手は淡く光っている。癒し、治療の魔法術であろう。これで無理やり癒しながら話しているのか。男は流石に助からないと分かっている様子である、それでも仲間の介錯の礼のためにその苦痛を伸ばす、我が騎士たちに劣らず見上げたモノである。この男も他の者と同じ装備であるから位が高いという訳ではないだろう。


「神か、神は神でも我は貴公にとっては死神か。遺言を聞こう、届けることは叶わぬ。されど貴公のその誇り、どうか我に教えてはくれまいか」


 そう言うと目の前の男は目を大きく開き、笑い出した。そしてその状態で笑うと、と思った矢先に口から血を吐き出しながら咽せる。胸より下が無事ではないのだ、当然の結果であろう。何故笑ったかは知らぬが、やはりいつ見ても気のいい男、戦士はいるものである。惜しむはこれが男の最後であり、さらに惜しむは戦をただ弱者より奪う場と勘違いする者が多いことか。生きるために奪うは許せようが、なれど楽しむために奪うは許さぬ。男は我が問いに一言「ない」と答える。その後に「遺言は友への感謝、それだけである」と締めた。


「末期の酒だ飲め、勇者よ。我が知る中で最高の銘酒である」


「では、美しき死神殿、その麗しく可憐な唇でその酒飲ましてやくれないだろうか。さすれば思い残すことなく逝けるだろう」


 目が笑っている、最後の最後までタダでは起きぬしなぬ男であったか。少し戸惑ったが、ここで聞き届けぬのも今更なんだと思い、筒へと口を近づける。口の中に甘いアルコールの味と、その縁についた血の味が広がる。こぼさぬ程度に、口の中に含みいざと男の方に向く。


「申し訳ない、我が死神殿、その筒を手渡してくれないだろうか?私がその唇を奪うのはやはり気が引ける。その心、私には恐れ多いものだとわかった」


 目が笑っているのは、拒まれると思っていたか、それともどのように返すかと笑っていたのか。おそらく両方であろう。まさか、本当に口移しを実行しようとすると思っていなかったことは、その真剣な顔より伺える。腸を抑える手をその腹より離し、こちらへと手を伸ばしている。これは流石にと思い、血の味のする酒を慌てて飲み込む。


「笑い飛ばせば良かったか。空気を読めぬは我であった、許せよ勇者、気分を害したな」


 そのまま酒筒を男へと手渡す、男は筒を受け取り、口へと近づける。そのまま傾けゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み干そうとする。だが、男の持つそれは無限に湧き出る酒筒である。飲み干そうとしても中身が尽きることはないのだ。ただ力尽きる前に酒で溺れ死ぬと、急ぎ飲むのをやめさせる。男は酒筒の能力にも驚いていたが、すぐに持ち直しこちらを見る。


「なんとっ!異なことを申される!こうして御身が直に口付けた筒から神酒を飲めたのだ!感謝はすれども気分を害すことなどありえない!死神殿、我が望み聞き届けようとしてくれる姿、誠に美し!此度の生では叶わぬが、次があるならば、その身を常に崇めよう!介錯、お頼み申す!」


 首を落とすわけではない、鎖帷子を脱ぎ、喉からしたをさらけ出す。心臓もしくは喉を突き刺して止めを指すのだ。偶に即死せずに意識を持ったまま苦しんでしまうことがある。それには介錯する側の腕を問われ、失敗すればこれまた恥となる。本来持つ剣の腕ならば悲しい結末になりそうだが、今手にしている短剣も長剣も酷く高性能であることが助かった。彼らを苦しませぬまま逝かせる事が出来るのだ。聖剣にとってもただ、敵を一撃で葬るよりも遥かに価値ある使い方であるだろう。胸に両手で構えた我が名剣を突き立てる、もちろん一撃であった。


 そして残るは最後の一人であった。端から順に確かめ、殺したので間違いないだろう。最後の男もこれまたひどいものであるが、出血と左腕、左足を失うだけである。傷を癒すための生命力までは無くしていなかった。それでも痛みのあまりか意識は朦朧としているのは確かである。ここで活力を失えば、この男もまた助からなくなる。この時、医に詳しいものであったなら順番付なども出来、助かる者を優先するのであろうが、惜しくも足りぬ我が知識よ。


「その目、死んではいないな」


 尋ねかけることにより、薄く開いた目をしっかりと開く男。まだその瞳、死に濁ってはない。助かるか助からぬかでは言えぬ、生きるは五分であろう。その口から今まで話せる者が零したモノとほぼ同じ、怨嗟がこぼれる。ここにいる誰もが戦いを望まなかったことが、ここに来てようやく断言できる。結局のところ戦いの原因がなんであれ、戦う者全てが悪であるはずもないのだ。確かに目の前にいる者も、もしや力無き子らを切ったかもしれぬ。戦は人を狂わせる、人がこうして正気に戻った時にそれを問えばすぐにわかる。悪は確かに目、そして手が汚いのだ。ここにいる者の手は悦楽のために人を斬ったボロくおぞましい手ではなく、ただ信ずる友のために人を斬った清く正しく汚れた手なのだ。違いを知ろうとするべからず、友を殺した神を怨む者が正しい者でなくて、何を正しさとするのか。そして、歌のように怨嗟を呟き続ける男。言葉を締めるように「天罰を下すか、美しき女神よ」と笑う男。男のそれに応え続け、締めの言葉に返す。


「泣く子を鞭打つ程、我は堕ちてはおらぬ。何故我が誇り高き勇者、戦士、騎士等を貴公の言う地獄とやらに堕とせよう。友を愛した貴公らは等しく、教会に祀られる肖像の中のどの聖者よりも遥かに聖者であったぞ。誇れよ勇者、誇れよ生者、もし誇れぬならば、貴公等の代わりに我が誇ろうぞ、それが我の知る全てである」


 その後、幾ばかりかのやり取りをし男を癒す。最後に男へと外套そして騎士の剣を与える。もし先ほどの魔法術士に勝てぬとしても、傍らに剣がないのは格好がつかないからである。男は眠りにつく、一瞬傷はいえてもダメだったかと思ったが、穏やかな寝息が聞こえ、例えではなく本当の眠りだと知る。このまま男が目覚めるまで待ち、今後のことを決めるための助力を願おうと思ったが、戦友の形見を本国へ持ち帰る仕事があるかもしれない。今回ばかりは仕方がないと、男に与えた外套と同じ騎士のものを身に纏う。彼が目覚めた時に邪魔になろう、少し残念だが、そのまま立ち去ることにした。


 城には戻れず、どこへと向かうか。やはり、姉妹が嫁いだイオキスハント、トローテルンガの両国があった地のどちらかであろうか。どれだけの時が過ぎたか知らないので、未だに二つの国が残っているのかは知らないが、なんとなくあの血族はしぶとく生きている気がする。我もしぶとく?生きているし、姉様と妹の血族が我と違って殺されたりする所など想像つかない。ぶっちゃけ、ベルスティアニアの女は男より無駄に強かである。殺しても死なんのは、些さか不本意だが、この身でもって証明してしまった気がするのだ、本当に不本意であるが。ただ一つ、現状でわかっていることは、魔法術士達が去った方角には向かわないほうが良いということ。


 どう考えても、見知らぬ此の身は彼らの敵である。ましてや、「いつかは知らないけど昔の王様です、敬ってください」とか名乗りを上げようものなら、正気を疑われる。嘘をつくにしても、我ながらもっとマシなことを言えとの事である。完全武装で知らない人がいます、その人が何か意味の解らないことを言っています。日本なら警察呼ぶよりも以前に、全力で走って逃げないといけないレベルだ。この世界でも流石にこれは変わらないと思う。「出合え、出合え、曲者だ」とばかりに我を包囲する騎士団。その後に待つは尋問、鎧は剥がされ身体検査と称され、まさぐられ、こんなところに毒を隠しているかもしれない、いけない子だとか?いや流石に、これは被害妄想がすぎるかもしれないが、それでもいい結末だけは一つも思い浮かばない。


 一番良くても、身ぐるみ全てを取り上げられ、質素な囚人用の貫頭衣を着せられ、鎖につながれ牢屋に放置である。それでも答えが出なかったら疑わしきは罰せ、絞首台へGoである。そのままずっと牢屋に入れておくのは金もかかるし、我の国でも科学捜査?なんて出来るはずもなく、分かりやすい材料で判断するしかなかったから、結局そうするしかなかった。それでも冤罪が出たときはしっかりと賠償というより遺族補填をしていたのだ。他の国では冤罪が出ても、それがどうしたで終わりである。正直、我の国の考えが珍しいと分かっているし、遺族なんてモノ、もちろんいない、いても知らないから我にもあちらにも全く関係のない話である。正直ここまで来て、生き延びたのに勘違いで殺されることだけは、すごく虚しすぎるので、それは是非とも避けたい、避けなければならない。まだ戦死の方が遥かに許せる、と言うよりもできる限り普通に死にたい。


 我もう疲れたの、長生きしたいなんて贅沢なことは言わないから、普通に森の奥にでも小屋立てて、隠遁生活がしたい。木漏れ日と小鳥の鳴き声で爽やかな目覚めとか、すごく憧れる。少し前?までの目覚めはほとんど、騎士の怒声に「何かあったか!」とか答えながらの非常に慌ただしい起床だったし、ちょっと前に起きてからは三日程寝てないし、今は変なテンションだし、ずっと寝てたくせにすごく生意気なのかもしれないけど、ぐっすり寝たい。こんなことなら日が遮れるから、天幕パクってくればよかった、でも立て方知らないな。南の方角に森が見えるし、そちらに行こう、そうしよう。今はそれが答えだとしか絶対に思えない。



「まあ、結局、魔法術士の向かったのって北なので、そのルートは無しということで」



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