第4話 ゆうじゃとせいじゃ


The saint who showed courage




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『そなたは死を恐れぬか』



 聖者と呼ばれた女は勇者に唱えた。そなたはその身を燃やし尽くし、なれど骨すらも残さず、今朽ち様としている。人がためにその身を汚した、そなたは尚も今死に汚されようとしている。子らに伝わる物語で聖剣を振るう勇者は皆、安穏を得る。では物語ではない、そなたが得るものは何なのだ。確かに、そなたは聖剣などは持っておらぬ、だがそなたが勇者でなければ、誰を勇者とするのか。死して答えぬか勇者よ。


 勇者は笑顔くつうのみを返した、聖者おんなにも答えなど当に分かっておろう。勇者は死を恐れぬが故に勇ましいのではない、そのようなこと誰もが知っていることでないか。勇者は少なくとも勇気を持ち戦った者たちすべてを指すのだ。言葉の意味をしるものからして、外道さつりくしゃを勇者と呼ぶであろうか、呼ぶはずもなかろう。勇者とは他者よりもらうものではないのだ。聖者は辺りに横たわる、勇者たち一人一人全てに声をかけた続けた。



『そなたも死を恐れぬか』



 聖者と呼ばれた女は勇者に唱えた。そなたはその身を焦がし尽くし、なれど夢すら残さず、今朽ち様としている。人がためにその身をその身を汚した、そなたは尚も今死に汚されようとしている。民に伝わる物語で龍を滅ぼすものを勇者と民は言うた。では物語ではない、そなたが勇者となったのはなぜか。確かに、そなたは龍など倒してはいない。故郷の子らを守り通したそなたが勇者でなければ、誰を勇者とするのか。



 勇者の答えを得ずとも聖者は続けた、戦いの果てに力尽き、その身を刃に貫かれてもなお戦い続けた勇者へいしたちに、一人一人話しかけ続けたのだ。誰も答えぬ、既に動かぬ者たちである。彼らは明けの日には火をかけられ、宵の日まで燃え続けることであろう。聖者が言うたように、骨より現る魔物を恐るが故に勇者は骨まで、焦がし燃やし尽くされるのだ。未来ゆめを絶たれ名も無き彼らが残すことができるモノとは、争いがいかに虚しいものであるかという歴史ちえのみであった。遺骸いがいに話しかける聖者に言うたものがいた、死した者が死を語るはずもない、それに聖者は答えた。



『彼らの顔が語っておるではないか、の有り様を』



(知の聖書二章一節 『骸の民』より)




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ひとより与えられた聖者、かみより与えられた聖者』


『なおも今ここにある全てを奪いし教え、教えが人を殺したのではない』



 人が教えを殺したのだ。ある者は教えに反するものを殺した。ある者は教えしんかんが間違っているのだと殺した。神はいつ望まれたのだ、争いなど。全てを語る答えを得ようと、誰もが神の眠る水晶の都を目指した。だが、語ろうはずもない。聖地など言われても動かぬものいわぬ神は語れぬのだ。神は人の中で語る、ならば、民が百人いれば百人の神がおり、千人いれば、千人の神がそれぞれにおるのだろう。ならば教えも同じ数だけあるのだ。正しき教えなど語れるはずもなかろう。



『なぜ勇者の剣が煌びやかな黄金、白銀なのか』



 とある聖者は語る、真なる勇者は人を切らずして民を救うのだ。血に汚れず、欠けもせずしてその剣は煌びやかなのだと。ならばそれも正しく勇者のありようであろう。己が秀でたる蛮勇ではなく、その心の持ち様を勇とする者なのだ。力を持ってしない勇も、誰が何を言おうとあるのだと。剣など、飾りなのだ。勇者の、その心の有り様を語るべき、飾りなのだと、そう言うたのだ。かつてかみは語られた。



『義を見てせざるは勇無きなりと、ある先人いじんは言う』



 かみは語られた、蛮行を振るう者がいたとしよう。それを見て笑うは優の無き事であろう、それを見て嘆かぬは憂の無き事であろう、それを見て諌めぬは云うの無き事だろう、それを見て庇わぬは雄の無き事だろう、ではそれを見て庇わずとも歯を食いしばり耐えるを勇無き事とできるのか。手を出し、更なる暴虐を招くことにならないとは云えるのか。我も慕う2000年を生きた王がごときかみが居た。かみも戦に負けた、なれど耐えたのだ。かみも鎧を血に汚すことは、あまりしなかった。とある聖者はそれに続けた。



『子らの首元に突きつけられた刃を、払うてはならないはずもない』



 かみが残した語りは続きがあった、彼のかみも確かに元は平和を望んだのだ。我らが神のように美を語った、なれどかみはそれすらも堕とされた。負けたかみを、ないひととした者たち、それより後は知るべきであったのだ。その時たしかに戦わねば、果ては秀でし民とされた者に全てを奪われたのだと。力を魅せてようやく得られたものも確かにあったのだと言われたのだ。戦わずとも済めばよかろう、なれど戦いの道しか残ってない者もいるのだ。彼の戦いは確かに多くの無辜の民を殺す悪であった、されど、その根に基づく教えまでは悪ではなかったのだ。



『ならば、そなたは何を勇者とす』

『ならば、そなたは何を教えとす』


『我ら聖者とされる者も数多モノ教えを知り、それを答えとせぬ』

『ならば、答えは自ずと決まろう、勇者は教えの数だけあるのだ』


かみの鎧は血の香りではなく、その身と同じく、可憐で小ぶりな花の香であったのだろう』

『勇者の剣が煌びやかであるのは、そのそれが多くの思いの集いであるからであろう』


(聖者と聖者 『教え』より)




△▼




4話における名称紹介


聖者おんな

もともとは戦場へ治療のために訪れた神官。

死した兵士、助けられなかった兵士たち一人一人声をかけ、その恐怖に見開いた目を閉じていった人。

その後、重ねられ燃やされた遺体を見つめ涙を流した。


<勇者>

名も無き兵士たち。

もしくはその身にわずかばかりの正義を宿した人達を総べからして言う。


<聖者>

教えの考えの違いから来る争いを嘆き、統べからして教えとは何かを追い求める人たち。

理想家、哲学者、思想家たちの中で人のために行動を起こした者たちがそう呼ばれた。


かみ

言わずともわかろう、日本の象徴。

悪という方もいる、正義という方もいる。


それこそ、この時代が大言、嘘捏造の歴史が多すぎてあまり判断がつかない。

白人至上主義だった時代に翻弄され戦争起こした感がある。


そもそも日本が遅れて出遅れたの鎖国した徳川のせいだよね、織田が勝っていたら世界をまたにかける、海洋国家になる可能性もあった(逆の可能性もあったけど)。戦国当時は世界最大の銃保有国家だったし、虎口とか包囲殲滅射撃とか銃の使い方だって進んでいた。


<ある先人>

孔子、論語でこの言葉を語った。

君主、主君、礼儀礼法作法、を語るが、偶に自分が言った事を棚に上げて行動することもあった人。

男性を立てる考えが多い、現代まで多くが礼儀として残され使用されている。




△おまけ▼




『我が騎士よ、この剣を受け取れ』



 王の声により、膝まづく騎士は顔をあげた、そして目の前にある剣を見、驚いた。その剣が王の親愛なる弟君の遺品であるからだ。彼の剣は王自身が名工に頼み込、弟君が無事に帰られるようにと送られた剣あったからである。

その剣は聖剣に劣らぬ素材で作られ、その刀身の曲線、見目が美しく、全てを切り裂く鋭利さを持っていた。試し切りの際には騎士の装備する甲冑と同じものが一刀にされたと聞く。王の思い虚しく、奇しくも意味はなさなかった剣である。



『守り刀である、一度は役をなさなかったが、此度は我願い叶うように貴様にこれを預けよう、勝て我が騎士よ』



 弟君が変わり果てた姿で帰ってきたときにも、大事そうにそれは握られたままであったという。弟君は消えゆく意識の中でも姉王の贈り物を絶対に手放さなかったのだ。王もその姿を見て、ただ一言だけ呟かれ立ち去られたと。王はこの剣等よりも弟君が無事に帰られることを切に願ったはずである。そしてそれでも大事にしていた剣を今ここで授けて下さったのだ。



『燃えるな、砦が。王に伝えよ、命を違え申し訳ないと』



 魔法により崩れ落ちる門扉、矢に貫かれる勇者、燃える兵舎。4日である、11万に対し、3千で砦に篭った、とはいえ四日持ったのである。一日目で外城壁が落とされ、二日目で内城壁が落とされた。三日目で積み上げた土塁を突破され、四日目は一日中砦の内部でどこからでも沸く敵を切り続けた。後わずかで全てが敵が手に落ちよう。だが、満足などできようはずもない。王は我らが死地に行くことを理解されながらも気丈に命じられ、そして3千の勇者に一人一人声をかけられた。なれば、無念である、王が敵の首魁の骸を見れぬは。



『王よ、法術球にて砦より報告がありました』

『……終わりか、いや何もない、聞こう』



 焼けた砦、最後の報告であった。今はもう既に剣を与えた騎士もその身を地に横たえているのであろう。これで、王を守る軍の全てが敗れたのだ。残すは王都、奪われ焼かれぬために民を逃す時間は出来た。ならばこれは上出来であったのだろう。なれど消えたのだ、王を守るとりでの最後が、身につけるしろでは全ては防げない。あとは去った王都の民たちが安穏の地を得ること望むばかりである。



『奮戦虚しくも、砦落つる、命を違えて申し訳ない、とあります』

『騎士らは役を果たし最後まで良くやった、かも大き兵に5日も持ったのだ。

 我は嬉しく思うと伝えよ』

『はっ?いや、しかし砦は既に落ち、法術球は敵の手にありますが』

『それでもだ、騎士等は一死にて一矢酬いたのだ、伝えるがよい』



 新たな砦に主となった者は笑った、敵の首魁おうからの伝があったからである。戦の尊さを語らぬ者達に伝われば、王もこうなる事は分かっていよう。なれど王は王都たみを守った勇者たちを称えずにはいられなかったのだ。おそらく此度は、あの剣も帰ってきまい。騎士もそう分かっていたので、敵の手に渡るのならばと王の授けられた剣をその刀身半ばより折り、砦の堀に沈めた。



『我が騎士ゆうしゃらの最後の忠義、忘れ得まい』




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題 ゆうじゃとせいじゃ(詩集『教えより遥かに』より、児童学習書)



ゆうじゃの剣はかがやいて

せいじゃの心はかがやいて


ゆうじゃの命は燃えつきて

せいじゃの言の葉届かない


竜を倒すはゆうじゃの心

悪を倒すはせいじゃの心


人を守るはゆうじゃの心

人を守るはせいじゃの心


心を守るはゆうじゃの剣

心を守るはせいじゃの言


ゆうじゃを守るはだれなのか

せいじゃを守るはだれなのか


答えは全て人の中

答えぬ全ては人の外




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 どうみても規模的に三倍以上になった、王都。もうこれは王都と呼ばず、超時空王都と呼ぶしか……いやなんでもない。しかし、いくら簡易執務室の高さが城壁よりも高いとは言え、城壁に隠れて王都の端に近い場所しか見えていなかったはずである。王城の各塔には劣るが、それと比べてもそこそこ大きな建築物もできているのだ。さて、詳しいことは街に繰り出さないとわからないのか。動く気配もなし、我が眠る以前の王都を囲むように街が出来ているようである。これは目覚めた時の予想があたっているのかもしれない、つまり、先祖返りする条件、角が生え出す、500年以上の時をそのままの姿で眠り過ごしてきたということ。もしそうならば、直接的な勢力は既にココには存在しまい。このまま王都に降り、散策する事も可能であろう、街に人がいなければであるが。まあ、それに関してはあまり心配していないのだが。どうみても、後からできたはずの街の方が王城よりボロい、もとい年季を感じさせる、というか直接的に言えば廃都である。


「準備はせねばなるまいか」


 こういった場所、滅びた都市などでは時折、悪魔憑き、スケルトンや生きた死体等が湧くことがある。人がいなくなると、集合墓地などから燃やさずに埋めた亡骸が復活するからだ。なぜ人がいる間は墓地から悪魔付きが増えないのか、それは祈りを捧げるものがいるからと聞く。戦闘が起こる可能性は高い、確か王庫には何かしらの便利道具、ご都合主義全開の秘宝があった気がする。アイテムボックスまがいの指輪や多種多様の酒が湧き出る万酒の筒やら、泉封じの小瓶やら。その他にも王家専用アイテム的な王紋のローブ、なんでもとにかくすごい素材(古代先祖の龍のヒゲだった気がする)で出来ており、雨露、風に火まで通さぬが謳い文句である。素材が素材であるので刃も通さない素晴らしいものであるのだが、これを制作させた王以外身にまとった者はいなかった。龍の許可を得られなかったからだと聞くが、どうやって死んだ龍より許可を得るのかまでは知らない。羽織ってみればわかるだろう。ちなみにこれら全ても使い道があまり無かった(酒の筒は最後の晩餐時に騎士たちに使わせたが)ので売ろうとしたのだが、あーてぃふぇくと?なるものだから、単品価格がひどすぎるとかで売れなかったのだ。売りつけようとした商人によれば、この中のひとつで国が買えますだとか。でも売れない、売れなかったのだ、売れていたなら勝てた、口惜しすぎる。


「我、今寝坊のし過ぎですんごいボッチだし、誰も我のこと知っている人居ないんじゃない?元々ファンタジーだし、龍だってモンスターだって普通に居るし、外に出てみたかった、生まれてみてから憧れていたし、我を止めるのも居なくなったし、自由にファンタジれる絶好の機会?あれか、あの道具が売れかったのは物語の進行に必要なきーあいてむ?だったからか?我、すんごく強くてニューゲームじゃね?」


 聖剣、龍の牙を溶かし込み作られたとにかく何でも切れる剣持ってるし、これまたご先祖の遺骸を溶かし込んだ魔法の鎧装備しているし、とにかくよくわからんが強いらしい装備。全部売ろうとして売れなかったが、こうやって後から動くために必要だったのか。ふむ、それなら我、超納得。きーあいてむ無かったら進めないもんね。でもぶっちゃけ、売れたほうが我的に嬉しかったんですけど。買えよ、商人、意気地無しめ。冒険憧れてたけど、それ子供の頃だけだからね。確かに、少しだけ今も嬉しいけど、今更だからね。どちらかというと失った物が多すぎて、悲しさ虚しさ遣る瀬無さと釣り合いとれていないから。だってボッチじゃん、一人旅じゃん。我、冒険の知識皆無だよ、そんな都合良くできるわけないじゃん。かといってお城に残っても、食料二日分も残ってないから飢えて死ぬじゃん。数百年物の食料、黒く汚い名状しがたいモノになっていそうだけど、我もナマモノだけど普通に腐っていなかったから大丈夫だよね。これで食べ物もヒゲヅラみたいアメジストになってたら泣けそう、というか速攻餓死する。


「王庫、食料庫、その順番で行くか」


 簡易執務室を出、玉座の間へと舞い戻る、少々開くのは面倒だが王室経由よりも遥かに王庫に近いのだ。身長の二倍はあろうかという扉を両手で押し開ける。いつもは衛兵が開けている、というよりも臣下がいるときはこちら側を通ることなんて一度もなかったので、この重さは知らなかった。あまりにも重く少ししか開かないので、片側だけを開こうとしたら、今度はぴくりと動かない。つまり両方を同時に開けなければならないということか。気合をいれ、魔法による身体強化もどきを行う、何か無駄に頑張っている気がしないでもないが、今更元他のルートに行くのも、何か負けた気がするのだ。なんというか、衛兵の腕力の凄まじさを知った。ギギギ、という開くときにする音が伊達ではなかったのだ、偉そうな感じの演出効果のために軋み音だけが出る様に細工しているものだと思っていた。外に出ると兵士の水晶が何体も立っていた。


 正直、遠回りしたほうが疲れなかった気がする、急がば回れとは過去の人は上手く言ったものである。まあ、王の威厳なんて知らない我は過去のいいこと言った人のセリフをモロパクリしているが、さすがは名言、万国ならぬ、万世界共通で通じる。特に昭和天皇の言葉をほぼそのまま言った時は感動で、数少ない王派の名誉(領地なし)貴族は泣き崩れた程である。さすがは2000年、我とは違って頼りになる。その後の国外退避が滅茶苦茶上手く行き過ぎた、『時運ノ趨ク所堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ以テ萬世ノ爲ニ太平ヲ開カムト欲』」。これを我風にすこしだけ言い換えて「我らは時の運に負けたのだ、ならば貴公等は我が姉妹を救ってはくれぬか。今この耐え難きを耐え、その忍び難きを忍び、我らの先祖が残した栄誉を、我が望む太平を為すために彼の地に落ちよ」であったか?まあ、こんな感じのことを言ったのだ。日本国民が泣いて連合国を受け入れた玉音放送強し。


「我が命ず、王が神秘の藏よ、その身を晒すがよい」


 少し歩くと姿を見せる鉄扉、ここにも水晶兵士が群がっている。ホントに鉄なのか非常に疑わしいが、その前で呪文を唱える。……言うな、解っておるのだ。黒歴史が蘇りそうな呪文、これを王庫の鉄扉に手を当て毎回言わなければ開かんのだ。何せ、一度弟に耳元で、「リーンランド言いにくいのだが」とこっそり囁いて(バレると他の臣が怖い)あの忌々しき鉄扉を破壊してもらい普通のに取替え用としたが、無傷だったのだ。普通ちゅうぞうの剣で防刃の強化がつけられたフルプレートアーマーをぶった切る、あの弟で無理だったのだ、潔く諦めた。時折、無駄に頑張る先祖、どうにかして欲しい。


「さて、指輪は、……ふむこれか」


 お宝の蔵と聞くと、イメージ的にそのまま適当に置かれていそうだが、もちろん、そのような事恐ろしくてできないし、させない、させるわけがない。価値が下がったらどうするのだ。無駄に綺麗な使えない黄金の剣もこれはこれで儀式剣として価値があるのだ、値段的な意味で(売れないけど)。指輪を唯一、指当て(フィンガーガード?)が付いていない、左手の薬指に通す。他の場所は全て包まれているのになぜかこの場所だけない、装備しないと効果を表さないのでそこに装備するが、もしかして女性用の鎧だからなのだろうか?二代前の王の妻、姫騎士なんぞ大層な呼ばれ方をされていた方が身につけていたらしい、その他にも先祖代々戦場に立つ王族の方々が身につけていたらしいしな。蔵出ししてすぐ磨き、拭き上げる前は、なんだろう、栗の花の匂い?がした。あまり前は女性に縁がなかったから知らないが、もしかしてこれが女性の汗特有の匂いなのか?どこかで嗅いだ事がある気もするが……、前世?ではすごく身近にあった気がするが既に忘れている、あまりにこちらでの生が体感時間で長かったからであろう。拭き上げる前に試着して、ルーンキスタンに似合うかと聞いたら答えが帰ってこず、「王よ、すぐにお脱ぎください」なぞ真っ赤になっていったから殴って気絶させた。馬鹿め、堂々とほざく、貴様の前で脱ぐわけなかろう。その後リーンランドに「似合うか?」と聞いてみても「姉様、相手は誰です!そ奴の首をもいでやる!」と返すばかり。他の騎士も顔を赤くするか、「ルーンキスタンがな」と言った瞬間に泣いてお似合いですというばかり。なにを言っているのだ、貴様らは。目をそらしたり少し考えるようにしたり、そこまで似合わんのか?


「今思い出せば、なかなかに腹が立つ、奴らだ、我的には我が髪と鎧の色も合って似合うと思うのだがな。

 磨いたあとにもう一度、姉様に見せても褒められたものであるから、変ではないはずなのだが」


 妹からは「70年物の熟成の匂いが消えましたね」と言われただけである。え?汗の香りのこと?そこまで臭くはなかったと思うぞ?葡萄酒じゃあるまいし、熟成はせぬと思うのだが、王庫には現し世より隔離する魔法がかかっておるので、手に触れなければその時のままで保存されるらしい、汗もそこまで染み付かんだろう。確か魔法術士Aがそのようなことを偉そうに言ってた。


 必要なものを次々と手に取り指輪に封じていく、超便利。でも商人よ、これって貴様が買えばすごく役に立ったのではないか?馬車の行列を作らなくても、相当運べるようになる。その時は赤字でも国一つ分の予算などすぐに取り戻せるだろうに、どれだけ儲かっているかとか、あいつらが行う商法なんて詳しくはしらんけど。挑戦者魂が足りないと思う、いろいろ売りつけようとする商魂魂はその分すごかったけど、我が国の国庫は空であるので退散してもらった。あいつ等、尻の毛まで抜くつもりなのだろうか、と騎士に愚痴れば怒られたし、何故に?


「あらかたスッキリしたな、まさしく何も残っていない」


 根こそぎ、龍の牙と呼ばれる聖剣以外にも無駄に多く残っている魔剣などの類。これでも騎士たちに何本か与え、減らしたはずなのだ。それでも30~40本近くあった、先祖に収集家でもいたのだろう。本当なら売れなかった時点で、我の考えた最強の騎士団にしようとしたのに装備レベルが足りませんといった感じ持てない者の方が多かった。ちなみに何故か、我は全部持てた。ふとレベルが上がるのは早いけど、ステータスの上がりは低く最終的には雑魚扱いされそうだと思った、代わりにどんな物でも装備できるけど結局弱いのだろう、激しく微妙である。


 次は、食料庫である、最後の晩餐以降は調理する者が城より居なくなったので、保存食で賄うつもりだった。つまり、湯で戻さねば硬すぎて食えたものじゃないものばかりである。結構な数が備蓄してあり、騎士500人が三日は優に食べれる数だ。なぜ三日分なのかは分かろう、どんなに頑張っても万の数で攻められれば一日ですら持つか非常に怪しく、もたない可能性が高すぎたのだ、それでも三日分用意されていたのは、それが騎士団長の意気込みなのか。奴らわがきしは死ぬまで戦い続けるつもりであったのだ。結局泣き落しに近い形で阻止したことになるのだが、今となっては満足している。人死が出ないのなら出ない方がはるかに嬉しい、こちとら処刑台の前に立った者、大貴族の遺言も聞いてきたのだ。遺言とは名ばかりの罵声と呪詛の念であったが、立場的には死が身近にありすぎた。人は誰かの死に確かに慣れていくのだろう、最初ほどの忌避感は薄れても、多くの者が我命一つに笑いながら死に走るのを見るのに我慢はできないのだ。騎士等は全てを捨ててくれる、それが悲しく、どうしようもなく嬉しく、結局それが我が王であり、恩を感じているが故だからと思うと虚しくなる。此度は一人の親友ともも得られずして全てをなくした。もし世界に繰り出せば何かこの身を満たすものを得られるだろうか、我が知らぬだけで世界は優しく簡単なものなのだろうか。


「ここか、そう言えば禁書庫に行って本も手に入れていたほうが良いな、魔法術の書は我には知らぬが多いからに役に立つだろう」


 吊り下げられた、ベーコンその他燻製(これがあるのは予想外であった)、干肉を油紙に包んでいく。幸い腐ってはいないようなので、包んだものから麻袋そして指輪に入れていく。結構な数があるのだが、これ以降食料を手に入れる術がないのだ、正直狩りなんぞ、できん自信の方が強い。時間は異様にかかるが全てを持っていくべきだろう。野菜をオイルに漬けた保存食も油を切り、紙に幾重かに包む。消費するのは腐りそうなモノからで野菜系、肉の燻製系、干肉の順番であろうな。指輪の中に入れて置いたら時間経過がどうなるかわからん。王庫と同じ最適な状態で保存であるのなら良いのだが、温度湿度も外気依存であり、腐る可能性も捨てきれないからだ。


 そのままに禁書庫へ向かう、たどり着いた瞬間棚の端から順に本を突っ込んでいく。この中からより優より、指輪の中に入れて、念じたほうが楽だからである。本を選ぶならば一冊一冊内容を確認せねばならないのだが、指輪は念じれば、指輪の中でより近いものを勝手に選択してくれる、なければ出てこない。そもそも王家の禁書庫の割に本棚の数も本の数も少ない。この数はおかしい、流石に隠し部屋でもあるのかと無駄に勘ぐって、魔法術士に探らせても、それっぽい呪文(王庫と似たような呪文)を唱えても何も反応はなかった。先王の書記にもなにも残っていなかったので、本当に何もなかったのだろう。でも案外納得である、どちらかと言えば脳筋な王族で有名だからだ。剣や武器は集めても本は集めなかったのだろう。


 時間にして準備に(起きている時間を一日として)半日かかった、朝日が昇る寸前の早朝より始めたので、まだ昼少し前であるが。調理場に向かい、水瓶より水を拝借する、そのまま搬入用の小さな勝手口から城の外へと向かう。正面の馬鹿でかい門扉を開けれるはずもないからだ。他にも王都に屋敷を持っていた文官武官用の出勤用の出入り口もあるのだが、離れにあるのであまり足を伸ばしたくない。そのまま城壁の門まで向かい、通用門から出ようとしたのだが、城門は全開であった。まあ、そうだと思ったが。ので、ありがたく通らせていただく。城壁全てを囲う様に配置された水晶兵士、違いは街と一体化している事であろうか。そして城門より出てすぐに見知った顔を見つける。


「その顔、忘れるはずもない」


 そこにあるは石畳より水晶の根を生やし動かなくなった。味方であると宣言しながら堂々と裏切った公爵である、こいつが裏切らなかったら4万の兵がこちらにいるはずだった。公爵とその類縁の貴族の兵の数である。もちろん公爵が裏切るのならば類縁の貴族もこちらにつくはずもない。結局残ったのは王軍の残党といってもいいぐらいの数4000と直属の騎士500のみ。


「あれだけ愛を囁いておきながらの、これである」


 やつの側まで歩き正面少し前で止まる。奴はなんと言ったのだ、あなたに全てを捧げましょうといったのだ、だが奴が捧げたものはお味方の死と裏切りだけである。欲しいものなど一つもくれやしなかった、結局のところ美姫と呼ばれた、この身が欲しかっただけであったのだ。そっと近寄り頬に触れる、逆恨みに近いものであることは分かっている。こ奴に何も、こ奴が欲したこの体も情愛もそれこそ本当に何も与えていないのだ、こ奴は裏切るべくして裏切った。それは分かっているのだ、だが、それでも一瞬でも期待していたから故に、この怒りも深い。


「貴様はあちらにつくことで我を手に入れようとしたのだな、そして奴らはそれを受け入れた」


 貴族軍は戦上手が少ない、有能な指揮者武官はこちらにおり、全てが砦で死に絶えた。公爵はその中でも王家に近く他の貴族と比べ軍の指揮も手馴れたものであった。奴らはそれを恐れ、この目の前にいる公爵の取り込みを謀った、この我を公爵に丸渡しすることを条件にである、そして成功した。それほどまでにこの身が欲しかったか。


「そのような事しても、一時の満足感だけであったろうに」


 怪しげな薬に頼ろうとも肉欲を得るだけで、汚し犯し嬲ろうとも、本当に欲した心は手に入らない。もし手に入るのならば恐怖心それに連なる心だけであったろう。こちらとしては心を壊されるのだ、この身を思う心なければ絞首台やギロチンに架けられると大差ない、いや、前者に比べるとほぼ一瞬でケリがつくのだ、遥かにマシであろう。自分が自分である死と自分が自分で無くなる死、どちらもそういなく死であろう、だがそこには大きな差異はあるのだ。


「手向けである、何か言いたいことはあるか公爵よ、我は寛大である、その言聞き届けよう」


 もちろん、言葉など帰ってくるはずもなく。そして、腰にある剣の柄へと手をかける。抜いた剣を首元に近づけ1振り、あれだけ頑丈だった水晶は簡単に切れ、公爵のその首を地面へと転がした。するとどうだろう、一瞬にして、水晶だったその体その首は崩れ細かい、砂のような破片となる。これが彼らの死なのであろうか。辺りを見回すがまだ、多くの怨敵が残っている。


「だが時間がない、今回は見逃そう。いずれかの将来、この地に戻ってくる事もあるだろう、その時一人一人その首を叩き切ってやる、覚悟して待つが良い」


 王都、そして街の外まで歩いていく、当初は城より見えた塔にでも向かおうと思ったが、早く人がいる場所まで行かねば生きられない。誰も生きていなくとも、形を残す王都、そしてそれらを囲む巨大な廃都をそのまま一直線に後にした。



「騎士等の忠義、其方等の怨、全てを覚えていようではないか。

 それがわずかの時間であったろうが、ともに貴公等の王であった我の残された唯一の誓である」


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