私の心が見えているかのように、ミャイは得意げに鼻を鳴らした。

 部屋に戻ると、ミャイがケーキとお茶を持ってやってきた。

「今日は、おつかれさま! なんにも見つけられなかったけど、おもしろかったね」

 上機嫌で私に勧めるでもなくお茶をはじめたミャイに近づき、カップに手を伸ばす。

 おもしろいといえばおもしろかった。収穫はなにもなかったが……。

 そう思う私の脳裏に、二階への階段が浮かぶ。

「ね。今度はいつ行く?」

「え」

「二階に上がる準備をして、再チャレンジするんでしょ」

 ミャイもおなじことを考えていたのかと苦笑し、そうだなぁと茶をすすった。

「ミャイの両親がいつ許可をくれるか、だな……」

「もう、そんなの!」

 ぷんっと頬をふくらませて、ミャイはケーキを口に放り込む。咀嚼し終えて茶を飲んでから、ミャイは口を開いた。

「いつでも許可をもらえるように、がんばればいいだけじゃない」

 なるほど。たしかにそうだ。黙って待っていても、察して用意をしてくれるなんてことはない。

「でね、準備のことなんだけど、誰に相談すればいいかなぁ。やっぱり大工さんとか、冒険家さんとか、そういう職業の人に相談をしたほうがいいと思う?」

 職業か。

「ミャイ」

「ん?」

「なぜ、あの犬たちの誘いに怒ったんだ」

「ええ?! その話? それは終わった話でしょ」

「私が多く稼げば、必要な品も手に入れやすくなるぞ。準備には金が必要だろう」

 うーん、とミャイがうなる。鼻の頭にシワを寄せたミャイは、不機嫌な顔で私のケーキにフォークを突き立て、ムシャムシャと食べてしまった。

 どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。

 私はなにか、悪いことでも言っただろうか。

 ケーキを食べ終えたミャイは、ふうっと不機嫌を吐き出すように肩を上下させると、私をにらんだ。

「だから、それで時間がいっぱいとられて、自由な時間が減っちゃうでしょう?」

「それは、うまく調整すればいいんじゃないのか」

「でも、仕事の時間は増えるじゃない」

「まあ、そうだな」

 おそらく増えるだろう。報酬を増やそうと思えば、数を増やさなければならなくなるのだから。

「それで、すんごく疲れちゃったら、休憩しなくっちゃいけない時間も増えちゃうでしょ」

「まあ……」

 確かに。

 ずっと殻を割り続ければ疲れるし、歯も削れていく。作業が増えた分、休憩も増やさざるを得なくなる、ということか。もしも増やさなければ、私の身に危険が及ぶ。

「だからつまり、そういうことよ」

 私の心が見えているかのように、ミャイは得意げに鼻を鳴らした。

「たしかに、自由時間が減るな」

 確認のためにつぶやくと、フフンとミャイが胸をそらす。

「それにね、それだけじゃないの」

「うん?」

「モケモフさんが仕事を取っちゃったら、そのぶんの仕事をしていた人は、ヒマになるでしょ」

 物理的な問題として、そうなる可能性はあるな。割らねばならぬクルミの数が増えない限りは。

「そうしたら、その人の自由時間は増えるけど、お金は減っちゃう」

 誰にだってわかる計算だ。仕事の分量が賃金の量なのだから。

「いままでは、それでご飯を食べられたのに、食べられなくなっちゃう。そしたら、その人は別の仕事もしなくちゃいけなくなるでしょう。それで、別の仕事をしたら、その別の仕事をしている人も、その人みたいに違う仕事を探さなくっちゃいけなくなるわ」

 まことにもって、そのとおりだ。

「そして、その仕事が自分に合ったものかどうかもわからない。いまは自分にあった仕事をしているけれど、そうじゃない仕事を無理にするのは、すっごく大変」

 うむ、と私はうなずく。私にミャイの両親のような仕事をしろと言われても無理だ。できないことはないだろうが、とてつもなく疲労をすることは想像に難くない。

「だから、そういうことよ」

 ミャイはまた、得意げに鼻を鳴らした。

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