ミャイは板に爪痕をつけた。
ミャイは腰に手を当てて、頬を膨らませる。
「せっかく鍵があるのに、これじゃあ開けられないじゃない!」
私は木の板に手を乗せて軽く引いてみた。
びくともしない。
木の枝の交差する間に体が入らないかと頭を寄せてみたが、どうにも無理そうだ。鼻先が通ったところでつかえてしまうほどの隙間しかない。
「あーあ」
ミャイが板に爪をたてて、カリカリとひっかいた。
「こんなのがあるって知ってたら、ちゃんと道具をそろえてきたのに」
私たちの荷物は、大量のリボンと水筒、弁当だけだった。木の板をはがせるようなものは、なにひとつない。
「夕方まで、このあたりを探索してみるか」
私は周囲をぐるりと見回した。せっかくここまで来たのだから、森というものを知るのもいいだろう。さいわい、道しるべとして用意したリボンは、まだたっぷりと残っている。
「ううー」
ミャイが不満をうなりに変えて、うらめしそうな視線を鍵穴に注いだ。
「せっかく、鍵があるのに」
その鍵は、ミャイの首にぶら下がっている。万が一にもなくしてはならないと、皮ひもを通して首にかけているのだ。
「爪で研いでも、夕方までに割れそうにないから、しかたないわね」
むすっとして、ミャイは板に爪痕をつけた。
爪で研いで、割る――?
「なるほど」
私はニヤリとした。
「モケモフさん、どうしたの。なんだか、すっごく悪い顔になってるよ」
入るなと示されている家に入ろうとしているのだから、悪い顔になるのは必定。私はますます、口の端を持ち上げた。
「ええっ?」
ミャイがけげんに後ずさる。
「どうしたのよ、モケモフさん」
「入れるぞ、ミャイ」
「えっ」
私は前歯をキラリと見せた。
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