「あの家が、宝物のある場所なのね」

 リボンは前のリボンが2本、見えるくらいの距離を置いて結ぶようにしていた。

 それでもたっぷりと残りがある状態で、地図にあったしるしの場所とおぼしき地点へ到達した。

「わぁ」

 ぽっかりと、木がよけて生えているかのような広場を前にして、ミャイは目を丸くした。私は木の根に足を取られないように、ミャイの隣に立って前を見た。

 そこには、古びた家が一軒、立っていた。

 その家を中心に、森は丸く削り取られていた。

 そうとしか言いようがない。

 日が昇り切るよりもずっと早い、明るい時間であるのに、ここまでの道は木の葉に遮られて光が届かず、薄暗くなるほど木々が密集し、蔦などが絡まったり垂れ下がったりしていたのだ。

 それなのに目の前にあるものは、さんさんと降り注ぐ日の光を浴びた広い敷地の真ん中に、でんと家が建っている。まるで木々が家に遠慮をしているようだ。

「あの家が、宝物のある場所なのね」

 抑えようとした興奮を鼻から漏らして、ミャイが言う。

「宝……」

 ミャイは地図のことを、宝のありかをしめすものだと信じて疑っていない。だが、あっさりとこれを手放したミョミョルの態度を思えば、そうとは考えられなかった。

 しかし、ミャイの気持ちをくじく必要もないので、否定をしないでおく。

 ミャイは足音をしのばせて、そろそろと家に向かった。

 さえぎるもののない、私の毛並みよりも短い草しか生えていない空間で、足音をしのばせても姿が丸見えなのだから、堂々と近づけばいいものを。

 とは、やはり口にはださずにミャイの後に続く。

 旅立つ前に、ミャイに釘を刺されていたのだ。

 こういうものは、雰囲気が大切なのだと。

 とすると、ミャイも本気で宝があるとは思っていないのだろうか。

 わからぬ。

 だが、まあ、いい。

 楽しみの一種として、ミャイは現実と想像を交えて行動をしているのだろう。

 そういえば主が、妄想は精神安定剤として人生に必要な行為だと言っていた。

 ミャイは主の言う精神安定剤としての”妄想”を現状とつなぎ合わせているのか。

 私はミャイを子どもとあなどっていたが、彼女はすこぶる頭がいいのかもしれない。

 そのミャイが、絶望的な悲鳴を上げた。

「どうした」

「見てよ、これぇ」

 頬をふくらませたミャイが示したのは、扉に打ちつけられた木の板だった。

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