「すべてを割る必要は、ないだろう」

「私の仕事はなんだ、ミャイ」

「……木の実の殻を割る仕事よ」

 おそるおそる、私の顔色をうかがうようにミャイが答える。

「そうだ。そして、この場所の地図や鍵をどうやって、手に入れた」

「それは、木の箱を割って……、あっ!」

 気づいたミャイが、目をまんまるにした。

「そうだ」

「ああっ、すごい!」

 きらきらした目で、ミャイが私の首にしがみつく。

「まだだ、ミャイ。成功もしていないのに、すごいもなにもないぞ」

「可能性がでてきたってだけでも、すごいわよ! すごいすごい」

 私の首に前足をかけたまま、ミャイが幾度も飛び跳ねる。私はミャイが落ち着くまで待った。

 ようやく落ち着いたミャイが、ふっと顔を曇らせる。

「でも、大丈夫?」

「なにがだ」

「木の実の殻と、木の板は別物でしょう? それに、これを全部、かじって割ったら前歯がなくなっちゃいそう」

 想像したのか、ミャイがぶるっと震えた。

「すべてを割る必要は、ないだろう」

「えっ?」

「私とミャイが、くぐれる程度に板を外せばいい。――扉が内向きに開くのであれば、の話だがな」

「もしも外向きに開く扉だったら、どうするの?」

「しかたがない。すべての板をはがすしかなかろう」

「うーん」

 ミャイが顔の中心に目と口を寄せる。

「とにかく、やってみればいいだろう。それとも、今日のところはあきらめて森を探索し、後日、出直すか?」

「ううーん」

 ミャイは私の口と扉を幾度も見比べてから、そうだと言った。

「とりあえず鍵を開けて、扉がどっち向きなのかを確かめましょう」

 ミャイは鍵を首から外し、鍵穴に差した。

 カチリと軽い音がする。ドアノブを握ったミャイが奥に扉を押すと、なめらかに扉は開いた。

「わっ」

 扉はミャイの手を離れて、大きく開く。

「さびついてるかと思って、思いっきり押したの」

 言い訳のように早口になりながら振り向いたミャイの横に立ち、私はまたニヤリとした。

「さあ、板を割ろうか」

 目の前の板に向けて、私は前歯を剥きだした。

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