しばらく待つのがおいしくなるコツだ。
にぎやかな声が遠い場所から届いてくる。
いや。
遠く感じているだけだ。
閉じた扉や壁に漉≪こ≫されているから、遠い場所の音に感じているだけだ。
「ごちそうさまでした」
ミャイが前足を合わせる。私も前足を合わせて、食後のあいさつをした。
「ミョミョルさんがくるのって、もうすぐかなぁ」
店のにぎわいに耳をかたむけるように、ミャイが扉に頭を向けた。私も、にぎわいの中に足音がまざらないかと、耳をすませる。
ミャイの家は、店の入り口とはべつの出入り口から居住区へ、直接に上がってくることができる。ミョミョルには、そちらから2階の居住空間へ来てもらうよう言ってあった。
ミャイが食器を片付け、洗っている間に、私は草の煮出し汁を用意する。
乾燥した草や葉、花などを数種類、組み合わせて鍋に入れて煮込むと、不思議な味わいのものができる。
食後には、これを飲むのがこのケージに入ってからの習慣になっていた。
ミョミョルのぶんも考えて、私の考えた配分で鍋に入れて火にかける。
ぐらぐらと煮立つ前に火を止めて、しばらく待つのがおいしくなるコツだ。
私はなかなか筋がいいと、ミャイの母に言われた。配分も、人によっていろいろらしい。そういうものを得意とするものが、喫茶店を開くのだと教えられた。
資金がたまれば、空き物件を手に入れて、店を開いてはどうかと勧められもした。
私はそのくらいの腕前、ということらしい。
このケージに来てから、私のできることが存外に多いような気がする。
いや。
いままでのケージでは、与えられるままに合わせて行動をしていたから、そのような感覚におちいっているだけかもしれない。
浮かれすぎては、後で痛い目に遭≪あ≫うというのは、ご主人が折々につぶやいている言葉だ。まれに、それで大きな損害を被≪こうむ≫っているようだ。
自戒をしつつ、実力を見極めなければならない。
そう考えれば、これはちょうどよい機会だ。
まったくの無関係者に、私の配合した煮出し汁を出せるのだから。
煮出され色のついた汁の中で動いていた葉や花びらなどが、動きを止める。漉し布をポットに乗せて、ゆっくりと注ぎ入れた。
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