「煮出し汁は、だれでもできるだろう」

「いい香り!」

 ミャイがうれしそうにする。

「昼間の、あの豆のプリンを思いながら配合した。合うはずだ」

 土産に、あれをもっていくとミョミョルが言っていたのだ。

「モケモフさんって、器用だよねぇ」

 感心したように言いながら、ミャイがカップを取り出した。

「そうか?」

「うん。きっと舌が敏感なのね。お昼間に食べたものに合いそうなお茶の調合ができるなんて」

「煮出し汁は、だれでもできるだろう」

「また、そういう言い方をする。煮出し汁じゃなくて、お茶って言ってよ」

 ぷっくとミャイが頬をふくらませた。

 茶……。

「どれもこれも、茶という名前になってしまうのは、妙な気がするな」

「なんでもかんでも煮出し汁と、そう変わらないでしょう」

 なるほど。

「そうだな」

「そうよ。なんか、煮出し汁だと苦い薬みたいなかんじがして、おしゃれじゃないし」

 おしゃれとか、おしゃれじゃないとかはどうでもいいが、まあ、茶のほうが言葉が短くていいな。

「これからは、茶というようにしよう」

「うん。そうして」

 にっこりとしたミャイが、ポットに鼻を近づけて湯気を吸う。

「ああ。ほんとうにいい香り。ミョミョルさん、はやく来ないかなぁ」

「そう急くな。もうそろそろだろう」

 こちらの夕食の時間は告げていたから、それを計算して訪れるはずだ。

 そう思っていると、ノック音がした。

「はーい」

 ミャイが弾む足取りで扉へ向かう。豆のプリンが相当に楽しみらしい。

 私が人数分のカップに茶を注いでいると、ミャイが固い顔つきにぎこちない笑みを張りつけたミョミョルを連れて入ってきた。

「こんばんは」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る