クルミ割り師?
「残念。ねえ、モケモフさん」
「うむ。だが、できぬのならば、致し方あるまい」
「本当に、申し訳ございません」
「でも、どうしてクルミのタルトだけ、できないんだろう」
ミャイがメニューをながめつつ、つぶやく。
「ほかはどれも、値段は隠れていないのに」
たしかに、クルミのタルトのほかはすべて、値段表記が見えていた。
「クルミ割り師が、腰を痛めてしまいまして。殻が割れないんですよ」
本当にすみません、と店員犬が言う。
「クルミ割り師?」
私がけげんに復唱すると、店員犬はうなずいた。
「そうなんです」
「腰が悪くなったのなら、仕方ないわね」
訳知り顔で、ミャイがうなずく。
「うちも、おとうさんがクルミの殻を割っているけど、本当に大変そうだもの」
「そう。槌でこう、ガツンとやって、殻を割らなきゃならないですからね。腰が悪いと、槌を振るえない」
ため息をつきながら、店員犬が首を振った。
「ピーナッツくらい、殻が割りやすければいいんですけどねぇ。……クルミのタルトの変わりに、ピーナツパイはいかがです?」
「どう? モケモフさん」
私はうなずいた。
「じゃあ、それで」
「かしこまりました」
店員犬がメモに書きこみ、去っていく。その背を見ながら、私はミャイと彼の会話を脳裏で繰り返していた。
槌で、クルミの殻を割っている――?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます