ご注文は、何にいたしましょう

 私とミャイが席に着くと、好奇の視線が集まった。

「モケモフさんが可愛いから、みんな見てるのよ」

 コソコソと耳打ちされた。

 それは違うと言いかけて、ミャイの楽しそうな顔に口をつぐんだ。水を差す必要もあるまい。

「さて。何を食べようかなぁ。モケモフさんは、何がいい?」

 テーブルにあった薄い2冊の冊子のうち、1冊を渡される。開くと、それはメニュー表だった。

 ずらっと並んでいる中にクルミの文字を見つけ、迷わずにそれをミャイに示す。

「私は、これがいい」

「クルミのタルトね。私は、シャケのタルトにしようっと。飲み物は、ミルクでいいよね」

 うなずけば、ミャイが手を上げて叫んだ。

「すいませーん!」

 それを聞き、テーブルに寄ってきたのはツルリと短い毛をした、茶色の垂れ耳の犬だった。エプロンのポケットから、メモを取り出した犬が愛想のいい笑みを浮かべて言う。

「ご注文は、何にいたしましょう」

「クルミのタルトと、シャケのタルト。あと、ミルクふたつで」

 それを聞いた犬が、顔を曇らせた。

「もうしわけございません。クルミのタルトは、しばらく休ませていただいているんですよ」

「えっ」

 ミャイがメニューに目を落とす。

「あ。ほんとだ。値段のところに、紙が貼ってある」

 ほら、と見せられ確認すると、値段が隠されていた。

「もうしわけございません。他のメニューならご用意できるのですが」

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