そういうものだと受け止めるよりほか、あるまい。

 ミャイに案内されながら進んでいるうちに、私は自分の変化に気付いた。

 2本足で歩くことが、まったく苦にならなくなっているのだ。むしろ4本足で歩くことが、不自然な気になっている。

 視力もそうだ。道行く間に目に映る看板の絵柄が、どれもハッキリと見えている。思えば、ミャイの家をでてすぐに見た看板の図柄が、クッキリと見えた時点で、おかしかったのだ。

 夜行性である私が、こうして日が明るいうちに快適に行動できていることも、妙な話だ。

 いつから、こんな変化が訪れていたのだろうか。

 いや。

 いつから、など考えてもしかたがない。それよりも、どうして、という部分に意識を向けるべきだろう。

 どうして……。

 わからぬ。

 さっぱり、わからぬ。

 そもそも、私がこのケージに移された理由もわからぬのだ。そういうものだと受け止めるよりほか、あるまい。

「どうしたの?」

 ミャイが不思議そうに、私を見る。

 そう。

 猫としか見えぬミャイが、私の胸のあたりまでしか体長がないことも、妙なのだ。はじめに私を見つけた成犬らの体長が、私と変わらぬことも。

「なぜ、ここにはハムスターがおらぬのだ」

 ミャイは小首をかしげた。

「んー。わかんない」

「そうか」

 ご主人がこのケージの管理者なのだから、ご主人の意向などミャイが知らなくても当然か。

 つまらぬ質問をしてしまった。

「あ。ここよ、モケモフさん」

 ミャイが私の前足をつかんで、前方にある店を指差す。3軒ほど先にある看板には、カップの絵が描かれていた。

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