どのような仕事があるのかを知って、考えてみるとしよう。

 私は首をかしげた。

「どうした」

「ちゃんとした部屋じゃなくて、屋根裏の部屋でせまいから、早く出て行きたいの?」

 私はおどろいた。

「なにを言う。あの部屋は、私にちょうどいい。広い部屋など、落ち着かぬ。天井の高さも、陽光が入り過ぎぬのも、よいと思っている」

「それじゃあ、どうしてそんなに、早く仕事を見つけて、出て行きたがっているの」

 ミャイには、そう見えたのか。

「そうではない。このケージでは、働くことが必要なのだろう。働かなければ、必要なものを手に入れられぬ。――違うか」

「違わない」

 ふてくされたまま、ミャイが首を振った。

「ならば、私がこれから住まい、食すものは、ミャイやその両親が、働いた結果だろう。それを受け続けるわけにも、いくまい」

 それに、そのような状態で、ひまわりの種がほしい、などと申し出にくい。

「自分の欲するものは、自ら働いて手に入れる。それがこのケージのルールであれば、私もそれに従う。ミャイやその両親に提供されたものを、働いて返さねばならぬ。でなくば、心苦しい」

 ご主人に飼われている同胞であれば、立場は対等。ならば甘えるわけにはいかぬ。

「モケモフさんって、ちゃんとしているのね」

 それは、どういうことだ。

「ちょっと、どんな人なのかなって不安だったけど、安心したわ」

 そんな風には見えなかったが、そういう部分を表に出さぬようにしていたのだろう。

「でも、あせらなくっていいからね。ゆっくり、自分に合うものを選んで。うちは、ぜんぜんかまわないから」

「助かる」

 働いたことがないので、自分になにが合っているのか、なにができるのかが、わからぬ。あちらこちらと、ミャイに連れまわしてもらい、どのような仕事があるのかを知って、考えてみるとしよう。

「仕事が見つかり、お金を手に入れられたなら、ミャイにはリボンを礼として送ろう」

「ほんとに!」

 ミャイの声が跳ね上がる。

「あ。でも、無理はしないでね。あせらなくって、ほんとうにいから」

「うむ。あせらぬ。私も、なにができるかわからぬのでな。慎重に、選ぶとしよう。そのために、いろいろなことを、ミャイに教えてもらわねば」

「まかせといて! どんな仕事があるのか、まずは知るところから、だもんね」

「そういうことだ。ミャイの店の手伝いでも、できることがあらば、遠慮なく言ってくれ」

「うん。おとうさんと、おかあさんにも言っておく。――そろそろ、行こう。おとうさんから、おこづかいをもらったんだ」

「おこづかい?」

「モケモフさんを、おもてなししなさいって、お金をくれたの」

「なんと」

「だから、それでおいしいもの食べよう。おやつ、キライじゃなければだけど」

 おやつ。

 食事とは別に与えられる、あの美味なるものを味わえるのか。

「キライではない」

「よかった。それじゃあ……、そうだ。あのお店にしよう。モケモフさん、こっち」

 寝床を提供してくれたどころか、おやつまで馳走ちそうしてくれるとは。なんという気遣いか。

 これにむくいるため、早く仕事を見つけねばならんな。

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