相伴にあずかるのが、楽しみだ。
「ああ、モケモフさ……」
奥から顔をのぞかせた、ミャイの母親が私を見て硬直する。ミャイがうれしそうに、母親の傍へ寄った。
「モケモフさん。すっごくかわいくなったでしょう」
「え、ええ。そうね、ミャイ」
母親はひきつった笑みを浮かべて、もうしわけなさそうに私に向けて、そっと目を伏せた。私は前足を片方、軽く持ち上げて返事をする。
「おう、ミャイ。モケモフさんを案内するのはいいが、夕食までには帰ってこいよ」
ミャイの父親の声だけが、こちらへ届いた。なにやら、おいしそうな香りが漂ってくる。私が鼻をひくつかせていると、ミャイがニッコリとした。
「おとうさんの料理は、すっごくおいしいんだから。期待しててね」
「そのようだ」
匂いだけで、そそられる。
ミャイが飛びはねながら、外に向かう。私は広い部屋に目を向けた。いくつものテーブルとイスが並んでいる。外に出て、扉の上を見れば、骨付き肉の絵が描かれた板が、ぶらさがっていた。
私は隣の家を見る。そこには、寝床の絵が描かれた板がある。反対の家には、炎の絵を描いた板があった。
「うちが食堂で、隣が宿屋さん。こっちはランプ屋さんよ」
「ランプ屋?」
「ランプそのものと、そのための油を売っているの」
ふむ、と私はうなずいた。しかし、わかってうなずいたわけではない。ランプと言うものが、そもそもわからないのだ。
「あそこの街灯の油も、ここが差しているの」
ミャイが指差したのは、屋根の上からぶらさがっている、小さな透明の小屋だった。鉄の皿のようなものが、床になっている。あれに油を差し、どうなるというのか。
私は記憶の中をさぐり、ご主人が糸に火をつければ、ゆらゆらと部屋が明るくなるロウソクというものを、思い出した。
ランプとは、ロウソクに似たものなのだろう。
「宿屋とは」
「旅人とかが、泊まるのよ」
「旅人とは、なんだ」
「よその土地から、やってくるの」
ほかのケージ、というほどの意味だろう。
「ならば、私は宿屋に泊まるのが筋ではないのか」
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