ご主人はなぜ、私をここに配したのかーー?

 座の空気が変わる。

 私はなにか、妙なことでも言ったのだろうか。

 グレィは神妙な面持ちで、私の目を覗くように見た。

「モケモフさん。……眠っている間に、ご主人というものの手で、ここに連れてこられたから、これからここが自分の居場所だと、思っているーー?」

「さきほどから、そう申しておるではないか」

 なにを聞いていたのかと、私はあきれた。グレィが、そばにいた茶色い犬に、なにやら耳打ちをする。周囲のものらは、ヒソヒソとなにやら、話しあっている。

 グレィから「いいな」と言われた茶色い犬が、どこかへ駆けていく。グレィは、ゆったりと私に向き直った。

「ご主人というのは、モケモフさんのすべてを支配しているのですよね」

 念を押された。

「私がここに配されたは、ここが、ご主人の管轄下にあるからだろう。ゆえに、ここに住まうものすべてを、ご主人は支配している」

 どよめきが起こり、それをなだめるためか、グレィが咳払いをした。

「そのあたりは、おいおい理解していくことにしよう」

 私は首をひねった。犬らは、ご主人の存在を把握していないのか? ご主人は、犬らはには干渉をしていると、知られぬように飼っているのかもしれない。

 ならば私が、不用意にご主人の話をするのは、よくないだろう。

 しかし、ご主人はなぜ、私をここに配したのかーー?

 黙考をしていると、グレィになにごとかを言われた茶色い犬が、戻ってきた。

「問題ありません」

「そうか。ご苦労だった」

 ねぎらわれた茶色い犬が、グレィと私に会釈をする。

 グレィが、どこかホッとしたように、目尻を細めた。

「モケモフさんの住まいが、定まりました。とりあえずは、そこで寝起きをしてもらいましょう」

 慇懃だが、命令のような威圧感がある。

 まあ、いい。

 寝床ははやいうちに、定まっておくに、こしたことはない。

「案内します」

 茶色い犬が、私をうながす。

 私は従い、これからの住まいに導かれた。

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