目覚めれば、ここに。
「わからない?」
グレィが繰り返す。周囲がざわめき、私の言葉をそれぞれに推測しはじめた。
「わからない、とは、どういうことなのでしょう」
グレィが前にのめった。口調が、いやらしいくらい丁寧な響きにかわる。私を尊重しているふりをして、あわれんでいるのだろうか。
「わからぬものは、わからぬ。……では問うが、ここにいる誰かひとりでも、己がこの場にいる理由を、説明できるものはいるか」
見回しながら声をかければ、話し声は、ピタリと止んだ。誰もが考え深げな顔になる。
「私は、ご主人にこの場にて生きよと示されたのだ。それ以外に、私がこの場にいる理由は、わからぬ。ゆえに、どのようにして、この場に来たのか問われても、わからぬとしか、答えようがない」
グレィほか、犬らは衝撃を受けているようだ。しかし、なにをそのように驚くことが、あるのだろう。みな、そのようにして、この場に配されたのではないのか。
犬らの反応こそ、私には驚きだ。
「モケモフさん」
緊張した声音で呼ばれる。さきほどの、あわれみに似た気配は消えていた。
「あなたは、ご主人がどうの、とおっしゃった。……その、ご主人というのは?」
さきにも、それを問われた気がするが、答えるとしよう。
「ご主人は、ご主人だ。私のすべてを支配している。……そうだな。私がどのようにして、この場に来たのか、という質問には、ご主人が眠っている私を、移動させたと答えるのがよいだろう。いままで与えられたことのない、木の実を与えられ、それを食し、満足した私は眠りに落ちた。そして目覚めれば、あの場にいたのだ」
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