ご主人は、ご主人だ。
「これから、住まなければならないとは、どういうことかな」
戸惑いつつも、平常心を保とうとしながら問われる。
「ご主人が、私をここに入れたのだ。ならば私の住まいは、この場になる」
「ご主人……とは?」
「ご主人は、ご主人だ。私のすべてを受け持っている。私はご主人のするままに、移動し、適した行動をおこなう」
「すると、モケモフさんは、ご主人という者の命令で、ここに来たのか」
「命令もなにも、ご主人は思うままに、私を望む場所に配する。あらがう余地など、私にはない。……承服できかねることであってもな」
場がざわめく。ご主人のことを、犬らは認識をしておらぬのだろうか。それとも、私のようには、考えておらぬのだろうか。
そういえば、犬は人の役に立つため、さまざまな働きをすると、聞いたことがある。ならば私のように、ただ愛でられ、好きに移動させられる者とは、ご主人に対する感覚が、違うのだろう。
「モケモフさんのご主人は、どのような方なのですか」
「ただ、大きい。……私は手のひらほどの、大きさしかない。私はご主人の思うままの場所に行き、与えられるもののみを食べ、用意された場所に住まい、私なりに過ごすのみだ」
ほう、と不思議な息が、ほうぼうでこぼれる。それは、感心とも、哀れみとも、ただ言ってみただけともとれるものだった。
「すると、モケモフさんは、ご主人の意思で、ここに来たのですか」
「ほかに、私がいままでの住まいから出された理由は、わからぬ」
「どのようにして、ここに?」
「わからぬ」
「え」
グレィが、鼻の頭にシワを寄せた。
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