我が住まいとなるのだろう?
私がいたのは、建物の裏側だったようだ。角を曲がると、明るい光が目をさした。私が姿を現すのを、多くの影が見守っていた。はじめに私を見つけた者が、大騒ぎをしたのだろう。それで、これだけの数が集まったに違いない。
私は、ぐるりと見回した。しかし、いかんせん目が悪いので、ぼんやりと色と形がわかるのみだ。犬しかいないのか、犬のほかもいるのか、わからぬ。
「なんだ、あの巨大な毛玉は」
「まるっこくて、ふわふわねぇ」
「あんなに大きな毛玉、はじめて見たぞ」
そのような声に、耳を震わせる。背を丸めているので、毛玉に見えるのだろう。
私はゆっくりと、体を伸ばした。どよめきが、あたりを包む。
「私は毛玉ではない。ハムスターだ」
朗々と声を響かせると、周囲は静まりかえった。奇妙な沈黙が横たわる。
「この方は、ハムスターのモケモフさんだ。みな、心配はない。これから広場で、この方の話を聞くことにする。道を開けてくれ」
灰褐色の犬が言えば、人が分かれて道が出来た。そこを粛々と進む。
ハムスターとはなんだ、などの声が耳を打つ中を、犬らに取り囲まれたまま進めば、広い場所に出た。木の台が、いくつか置いてある。
「どうぞ。お座りになって」
そのうちのひとつを進められ、私は上にうずくまった。他の木の台に、私を取り囲んでいた犬らが座る。そして私たちを遠巻きに、多くの影がながめている。
「さて、モケモフさん。まずは、ここがどういうところなのかから、話をいたしましょうか。それとも、モケモフさんが、どうしてあの場所にいたのかを、聞く方がいいでしょうか」
「その前に、そちらの名を聞こう」
「ああ、そうですな。まずは、名乗りましょう。私の名は、グレィ。この街を取りしきっている者です」
灰褐色の犬の物腰に、さもあらんとうなずく。
「あらためて、私も言おう。ハムスターの、モケモフだ」
衆目にも聞こえるように、私は高らかに名乗った。
「では、モケモフさん。どちらの話題からが、よろしいですか」
「この場のことは、これから知らねばならぬこと。これから、住まねばならぬのだからな」
困惑した空気が、漂った。
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