人は人ではないが、人だった。

 私の視力は、それほどよくはない。

 それほど、というか、あまりよくない。

 ゆえに、近づかなければ相手が見えない。

 私は固まっている人々に、体を折って顔を近づけた。鼻をうごめかせ、違和感に気づく。

「ぬしら、人ではないのか」

「は?」

 身を寄せ合っていた連中のひとりが、声を出す。そうだ。こうして人と会話をしていることが、そもそもおかしいのだ。

 私はさらに顔を近づけ、相手をよく見た。薄い毛に覆われた奴等は、獣だった。私とおなじ、獣なのだが、なにかが違う。

「立て」

 私が言えば、おそるおそる、ひとりが立った。体長は我とおなじほどだ。全身を毛に包まれている。その上に、人の着る服を着ている。ご主人が、獣用の服があると言っていた。私も、リボンなりなんなりと、つけられたことがある。

 これは、人のような服を着させられた、獣であるのか。

 私は納得した。

「貴様は、なんだ」

 問われる。

「私は、ハムスターだ」

 とりあえず、種族を答えた。

「我々は、犬だ」

 獣のひとりが、警戒をしたまま言う。

「犬?」

 犬とは、私よりもずっと、大きな獣ではなかったろうか。

「ハムスターという人種には、はじめてあった」

「人……だと?」

 私は、二本足で立っている犬を、まじまじと見た。犬は四本足で歩くものだ。しかし、この犬は二本足で行動をしなれているように見える。

「ハムスターの住む場所には、犬はいないのか」

 相手が、けげんな顔をした。

 私も、おなじ顔をする。

 どうやら、彼等は人のような獣であり、獣のような人であるようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る