未来肝試し
月白 貉
第1話
「同窓会だって言うから来たのにさ、ウルチとおれと神埼先生の三人だけ!?えっ、なんで??他の人はどうしたの?これじゃあ同窓会じゃなくてさ、ただの飲み会じゃない。」
ぼくのメールアドレス宛に、漆原と名乗る人物から「同窓会のお知らせ」という件名のEメールが届いたのは、同窓会が開催されると記された日時の一週間前だった。
猿白市立中央小学校1989年度卒業 六年三組同窓会のご案内
拝啓 梅の樹が蕾を膨らませる早春の候、皆様におかれましては益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。
さて、今年で中央小学校卒業から二十七年もの月日が過ぎ去り、私達もいよいよ四十路突入間近の三十九才となります。皆様も各方面でご活躍されていることとご拝察しておりますが、なにぶん地元を離れた皆様とは中々お会いできません。そこで今回の同窓会は、現在は地元にはいらっしゃらない皆様にも広くお声をかけさせていただきました。是非この機会に、懐かしき郷里で旧友と酒を酌み交わし、積もる昔話で盛り上がろうではありませんか。
また、毎年恒例ではありますが、私たちの活躍を影ながら見守り続けてくださっている担任の神埼先生もご出席頂く予定になっておりますので、皆様お誘い合わせの上ご出席くださいますようお願いたします。 敬具
万年同窓会幹事 漆原
平成二十八年三月吉日
記
1. 日時 三月十九日(土) 午後五時〜
2. 会場 酒亭うるち(貸切)
3. 会費 五千円 幹事 漆原
尚 準備の都合上、出欠の有無を三月十六日(水)までにご返信ください。
小学六年生の時のクラスメイトには、確かに当時仲のよかった漆原くんという友人がいて、アダ名で「ウルチ」と呼ばれていた。メールの内容から読み解ける情報からすれば、おそらくは現在、彼は地元で飲食店を経営しているのかもしれない。けれど地元を離れて久しいぼくはそのメールを読むや否や、新手の詐欺メールかスパムメールだとあまり深くは考えずに直感で判断してしまい、
しかしぼくはすぐにその行動に一抹の不安を覚える。いやまてよ、いくら個人情報の流出が著しいとは言え、担任の神埼先生の名前はともかくとしても、流石に小学校の同級生のアダ名まではわかるはずがないだろう。そう思い返したぼくは、メーラーのゴミ箱から再びそのメールを取り出して再度読み返してみた。
そこには確かに「うるち」という、ぼくの知る漆原くんを特定するかのような情報が含まれている。もちろん、それは用意周到な詐欺グループのカマかけかもしれない。漆原という名前にありがちなアダ名を想定し、間接的に個人を特定するかのように文中に記載することによって、リアリティのある巧妙で姑息な罠を仕掛けている可能性も十分に考えられる。地元を離れているぼくには漆原くんの近況などまったく知るところではないし、ましてや「酒亭うるち」などという店が実在するのかどうかもまったくわからない。
「まあいいや、ひとまずは明日また考えよう。」
ぼくはそう独り言をつぶやいて、再びそのメールをゴミ箱に投げ入れた。
メールを削除してから数分後、スマートフォンを食事中のテーブルの脇に置いてテレビの情報番組に何気なしに目を向けながら缶ビールを飲んでいると、テーブルを揺るがしながら電話の着信音が鳴り響いた。画面に表示されていたのはまったく心当たりのない携帯電話の電話番号だったので、ぼくはその着信を無視してポテトサラダをつまんでから再び缶ビールを口に運んだ。五回ほど鳴り響いた着信音が止んでしばらくすると、今度はピロリンという通知音とともに、留守番電話にメッセージがある旨を知らせる通知バナーが表示された。
どうせ何かの勧誘電話か間違い電話だろうと思い、缶ビールを片手に持ちながら、もう片方の手で通知バナーをタッチして留守番電話の録音を再生してみると、留守番電話を残した相手は、まず漆原と名乗った。
「もしもし、夜分にすみません、漆原と申します、白酒さんの携帯でよろしかったでしょうか?えっと、もしそうなら、ぼくです、ウルチです、覚えてるかなシロック?えっと、同窓会のお知らせをメールで送っているので、もしまだ見ていないなら確認してみてください。えっと、あともしこの留守電を聞いたら、連絡もらえると助かります、それとあと・・・ツーツーツーツー・・・・コノメッセージヲモウイチドサイセイスルバアイハイチヲ、ホゾンスルバアイハキューヲオシテクダサイ・・・」
未来肝試し 月白 貉 @geppakumujina
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