悪夢 × 青春 =
竜造寺。
第1話
ある日、空から一つの落し物が落とされる。
中には、“ある人”に向けられた“プレゼント”が入っている。
“ある人”が一体誰なのかは、誰も知らない。同時に、“プレゼント”の中身が何だったのか、それさえも誰も知らない。
理由はと言えば、簡単だ。
その“プレゼント”は既に回収された後であり、“プレゼント”の箱だけが残されていたから。当然、中の“プレゼント”を持ち去ったのは“ある人”、である。
はてさて、“ある人”とは何者なのか。
“プレゼント”の正体とは誰なのか。
物語を解くのは、君だッ!
じゃんじゃがじゃがじゃが、じゃんじゃがじゃがじゃが……じゃーーーーん!
***
「誰に向けて話してやがる」
「グハッ」
思いっきりカメラ目線──と言ってもカメラなど存在していないが──で話している人物を、ガタイの良い男が殴りつける。
場所は校内、人通りの少ない渡り廊下である。
二人の年齢は共に十五。高校に入ってまだ数ヶ月の者達である。
カメラ目線男(仮)の容貌はというと、筋肉はなく、背はそこまで高くなく、ひょろひょろの男である。顔は────……まぁ、うん。
その男を殴りつけた男はというと、筋肉は有り余るほどあり、背は高く、ムキムキとまではいかないが中々に綺麗な筋肉を纏った男である。顔はと言うと、十中八九、九割九分九厘、ほぼ確実に、イケメンだと言われるだろう。
そんな男に殴られたカメラ目線男がどうなったかなど、簡単に想像できるだろう。
ぽぽぽ○ーーーーん。
……で、ある。
さぁ、同情してくれたまえ。
「誰が同情するか阿保。てかほんとお前どこ見て話してんだよ」
「カメラ」
「いやだから」
「読者に向けて」
「だからどこだっつってんだろうがッ」
「グペッ」
またも、カメラ目線男が殴られた。ちなみに、今回から地の文担当となりました、佐藤と言います。どうぞよろしく。ちなみに、先程までの地の文はカメラ目線男の提供でお送りしました。
「ぐぁ……佐藤さん、よろしく、です」
どうぞよろしく。
「佐藤さんって誰?! まてオイ佐藤さんって誰?! ねぇマジで?!」
混乱するガタイの良い男──改め、
カメラ目線男の名は……あー、えっとなんだっけ忘れた。
「
「誰に向けてんの?! 今どこ向いて喋ったの?!」
「……森羅万象の先?」
「何処?!」
また、臨海は太郎を殴った。
「はぁぁ……もっと殴っ……」
太郎の頬が赤い。嗚呼これはもしや?!
恋?!
「うざい」
あ────!
臨海が太郎を窓から投げ落とした────!
……なんですと?!
太郎は校舎から突き落とされたのにも関わらず、無傷! 遂には両手を抱き、体をくねらせている! それはまるで芋虫の如く!
────いや、それは芋虫すら凌駕するくねくねっぷり。何故こんなにもくねくねするんだとツッコミたくなってしまう程にくねくねしている!
世界全ての芋虫よ! これこそが本物だ!
芋虫よ、ミナラエェ! あぁー、もう自分でも何言っているか分かりませんッ。
あぁ辛い! これは辛い!
気持ち悪い、気持ち悪過ぎます!
我ながら最悪の地の文であることを自覚しております!
吐きそうです!
「キ"モ"イ"……ォブェエェ」
臨海、余りの気持ち悪さに吐血ッ。
しょうがないことであります! これ程までに気持ち悪いとは、
「ちょ、たんま……まって、トイレ……」
臨海、トイレを探す旅に出る。
現在臨海は余りの気持ち悪さに膝を落とし、遂には立ち上がることすら出来ずにいる。だが、ここから離れたいと思う心が突き動かすのだろう。力の入らなかった腕には自然に力が込められる。
一歩ずつ。一歩ずつ前に突き進む。
その先にはきっと。
きっと、トイレがあることを祈って────(by.佐藤)
「はぁぁぁぁぁああああん! もっと、もっと殴ってぇぇぇぇ!」
「ゥゥゥゥゥブォボベェグホォォォ!!」
吐いたぁ────────────ッ!!
臨海、外からの声だけで心が折れた模様!!
唯一力の込められた右腕にが痙攣している! 更には、蕁麻疹すら起こっている!?
「ぁぁああ! みぃぃぃ────────……つけたぁぁぁぁ! 臨海ちゃぁぁぁぁぁん!」
なんとここで!
突き落とされた太郎がいつの間にやら臨海の目の前に!?
どうする臨海!?
……嗚呼っと。
臨海は少し顔を上げ、そこで硬直している……。その視線の先には当然、太郎がいる……。
「みじけぇ……人生だったなぁ……」
臨海が生きる事を諦めた──!
「あぁん! 臨海ちゃんのいけずぅ」
臨海に覆いかぶさる太郎────!
酷い追い打ちだぁぁぁ! 何か恨みでもあるのか太郎ゥゥ────!
臨海、遂に全身痙攣している! 更には、ゲロと血液を絶え間無く照射し続けている────!
酷い、酷すぎるゥゥ────!!
「あらやだ、倒れちゃった。うもぅ、しょうがないのねぇ臨海ちゅわぁぁぁん。目覚めの、キ・ス・よ?」
更に追い打ちィィィィ────!
もう許してやってくれ太郎さぁぁん!!
◇◆◇
「……っていう夢をみたんだ」
「なんで俺に話すんだよ」
そこは、なんの変哲も無い教室だった。わいわいがやがやと誰もが話す、朝の時間帯。まだ先生はおらず、誰もが好き勝手に動き回り、好き勝手にはなしているのだ。
時刻は八時を回る。だがそれでもまだ時間はある。
まだまだ、話し声は消えそうに無い。
「けどよぉ、これ、現実になったら怖いだろ?」
「そりゃあな。ぞっとするわ、聞いてただけでも」
友人に夢の話をする者の名こそ、臨海。櫟 臨海である。容貌は、既に説明した通りだ。
そして友人の名は、
臨海はゴツい体。
辰木は細いムキムキ体。
その人気はどちらも負けず劣らずの人気っぷりである。
人気は高校三年まで響き渡るが、臨海と辰木はまだ高校一年である。
「おっ、おい臨海、姫様のご登場だぜ?」
「おぉ、やはり美しい。あー、夢のことなんかわーすれた!」
「それが一番さ!」
「ああ、普通って、いいことだなー」
臨海とその友人は顔を合わせて笑った。
「臨海くん、辰木くん、おはよう」
「おー、姫様! おはよー!」
「姫様、おはようございます!」
「もー、姫様なんて……」
臨海と辰木が姫様と呼んだ人物は、
その人気は、臨海と辰木すら凌駕する。凛祢はまだ臨海、辰木と同じ高校一年であるが、その人気は校内には止まらない。最早、ここから近い場所にある男子校が一つ丸ごと凛祢のファンクラブ化している程だ。
「姫様は、めっ!」
「じゃあぁぁ」
「そーだなー」
二人は数秒黙り込み、そしてある時突然顔を合わせてニカッと笑い、こういった。
「「凛祢様!」」
「それもだめー! 恥ずかしいよぅ!」
むー、と凛祢は上目遣いで唸る。それを見る二人は、一瞬キョトンとした後、栓が抜けた様に笑い始めた。
「えっ、なんで笑うのぉ!」
「はひ……だって、あの凛祢様が恥ずかしいって……」
「ぷくくっ、凛祢様、いつも姫様って沢山の男子から呼ばれてるのに……普通姫様って呼ばれた方が恥ずかしいだろぅ!」
「なっ、慣れちゃったのぉ! それに、姫様って呼び始めたのはあなたたち二人……っ」
凛祢が慌て始めるのをみた臨海と辰木は、凛祢の目を盗み、いつの間にやら静まり返った教室の人達にアイコンタクトを送る。
り、ん、ね、さ、ま、っ、て、さ、け、べ。
それを教室の察しの良い男子が受信。すぐさまその考えは教室全土に広まり、二人のアイコンタクトから僅か三秒後、教室の生徒全員が「凛祢様」と言い始めた。
「きゃー! もー! やーめーてーよー! もー! …………ぷっ、あっはははははははははは!」
結局、凛祢も大笑い。
最終的には教室にいたほぼ全員が、そのやり取りを見て笑っていた。
数十分。笑っていたのだろうか。
教室の誰もが机に突っ伏し、息を整える。そして、一頻りの流れが終わると、他の生徒たちはまた自分の会話に戻っていった。
それと同時に、凛祢はある事を思い出したかの様に話しだす。
「そういえば、今日転校生来るって知ってる?」
「え、そなの?」
「うん、そーみたい。けどね、その転校生……すっごい不良らしいんだ」
「「不良ぅ?」」
臨海と辰木は顔を見合わせた。
「うん、この学校に来た理由がね、前の学校で相当やらかしちゃったかららしいんだ。沢山の人を怪我させちゃったらしくって……」
二人は凛祢の不安そうな表情を見て、先程までのやんちゃそうだった顔から一変する。
とても、優しい顔だった。
「心配すんなって、もしも本当にそうなら、俺たちがなんとかするからよ。守ってやっから」
「そーそー、臨海に任せとけばなんとかなるって」
「辰木、お前もなっ」
臨海が人よりも大きな、逞しい拳を、どんな人よりも優しい勢いで、コツンと辰木の額を小突いた。
「あだっ」
わざとらしく、額を抑える辰木。
そんな二人を見ていた凛祢はというと。……とても、安心していた。同時に、心臓の鼓動が高鳴り、微かに頬が暖かくなる。自分の胸に手を当て、ほっと小さく息を吐いた。
それを見た臨海と辰木は、顔を見合わせ、ニカッと笑う。
いつの間にやら時間は過ぎ、時刻は八時半。
ガララッ、と教室の扉が開き、先生が入ってくる。それを機に、生徒全員が自分の席に戻っていく。凛祢も小さく「またねっ」といい、手を控えめに振ってから自分の席に戻った。
「さーて、今日は転校生がいるぞー。入れー」
静まり返る教室。
一体どんな人物なのか。
その者が、顔を出す。
だが、誰もが思っていた顔とは違っていた。
いかにもケンカなどはしそうにない、ひょろひょろの男だった。
誰もがほっと一息吐いた頃、たった一人の男は、それとは正反対の心情だった。
────なんであいつがここに?!
────まさか、正夢だったとでもいうのか?!
────嘘だ、嘘だと言ってくれ!
たらりと、冷や汗が背中を流れ、目が見開かれ、瞳孔が引き絞られる。
バグバグと心臓ははち切れんばかりに動く。
膝の上にあった手が意図せず握り締められる。
空には、太陽がある。
僕らを照らす、太陽はそこにある。
青空が、広がる。
草原の如く広がる青空。だが、その青空はゆっくりと白に染められていく。
遠くで、雷がなった様な音が聞こえる。
水滴が、窓に一滴、ぶつかって、弾ける。
同時に、臨海の頭から流れた汗が、机に落ちる。
「嘘だろ────…………」
小さく、臨海は弱音をはいた。
太陽の光が雨雲に覆われ、教室を照らしていた太陽の光が突然無くなり、教室が暗く感じる。
一瞬、臨海の真上の蛍光灯が、パチンと点滅した。
転校生は、口を開く。
「どうも、四ノ宮 太郎です。これからよろしく」
太郎は臨海を見つけると、ニヤッと笑った。(by.佐藤)
***
数日前。
四ノ宮 太郎の元に、一つの箱が落ちてきた。
その箱は空から落ちてきたものだった。
太郎は箱を開けると、そこには一枚の写真が入っていた。
写真の裏には、“櫟 臨海”の名前。
……その写真には、臨海の顔写真があった。
太郎は、ニッコリと微笑んだ。
ある日、空から一つの落し物が落とされる。
中には、“ある人”に向けられた“プレゼント”が入っている。
“ある人”が一体誰なのかは、誰も知らない。同時に、“プレゼント”の中身が何だったのか、それさえも誰も知らない。
誰も、知らない。
悪夢 × 青春 = 竜造寺。 @ryuzouzi
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