打ち合わせ
「えぇっと……それじゃあ、作る料理を決めようか」
「は、はい」
緊張して、ちゃんと喋れてるか分からない。
「お、小野宮さんは、何を作りたい?」
「ふぇ!? え、えっと……」
彼女はどうしようかと悩み込んだ。
普段は内気で、恥ずかしがり屋の彼女は、真剣に悩んだことに驚いた。
眼差しは真剣そのものであり、凛とした顔付きに変わる。
「ぁ……」
言葉が出なかった。
そんな彼女の姿に見惚れてしまうのも、しょうがないと思う。
「や、八雲くんは、好きな食べ物とかある?」
「え? …………あ、ああ。あるよ」
小野宮さんに声を掛けられ、思考が停止しかけたが、直ぐに返答する。
「何が好きなの?」
「結構好きだからなぁ……ハンバーグ・オムライス・野菜炒め・麺類とか」
「……なるほど。なら、カロリー控えめでお腹に溜まる料理──豆腐ハンバーグでいい?」
「え、なにそれ」
初めて聞いた料理名に、緊張感とか何も思わずに返す。
「ハンバーグの中に豆腐があって……」
それから、小野宮さんと料理のことで話が弾んだ。
他の料理で何がいいとか、料理するときにはこんなことをコツにするといいとか。
日頃意識していた、『相手に対する質問』ということが役に立ったときと感じた時だった。
そんな中、どこからか声が聞こえた。
「……なんだ、結構大丈夫じゃん」
☆
あれから、小野宮さんと楽しく会話をしていたら、授業が終わり帰りの
レシートさえ持って来れば、使った金額は返してくれるとも教えてくれた。
「さてと、材料か……」
今思い出すと、作る料理を決めてから違うことで話していた気がする。
「小野宮さん」
「どうしたの?」
「豆腐ハンバーグ作るのは分かったけど、材料とかどうする?」
「必要なものは私が分かってるし……明日と明後日の二日間を使って、私が集めておくね」
「いやいやいやいや」
なんでそんな役を自分から引き受けようとするんだろうか。
罪悪感で俺が押しつぶされそうだ。
「俺にも教えてよ。俺も買うから」
「え? で、でも……」
申し訳無さそうな声を出す小野宮さん。
なぜこんな声を出すのかは分からず、素直に聞く。
「どうかした?」
「や、八雲くんは……交友関係とか広いし、こんなことで貴重な時間をつぶすしたら、色々と大変なんじゃないかな、って……」
語尾が近付くに連れ、声音が弱くなっていった。
「いやまあ、確かに交友関係は広いけど、そんな休日まで遊ぶ相手は結構決まってるよ。それに、学校行事なんだし、そっちを優先しないとだし、ね?」
「……うん。それなら、頼んでいい?」
「分かった」
小野宮さんはメモ帳を取り出し、そこに記入していく。
書き終えたのか、もう一枚メモ帳に書いていく。
「八雲くんは、この材料をお願い」
渡されたメモ帳には、字は丸く
内容を読むと、幾つかの材料が書いてあった。
「あれ、結構少ないんだね」
「うん。少なくても済むから」
そこで俺は、多少乱暴だと思いながらも、小野宮さんが自分用に書いたメモ帳を奪い取る。
「~~っ!?」
「……やっぱり」
彼女のノートには、俺よりも多く書いてあった。
笑顔で嘘を吐くとは、なかなか隅に置けない子である。
「ぅぅ……」
「ねえ、小野宮さん」
そこで俺は、一つの提案を出した。
正直、この考えは俺の人生の中で、かなりの勇気を費すほどのものだ。
「どうせなら、一緒に買いに行こうよ」
「ふぇ……?」
一瞬、困ったような顔した。
図々しかったか、俺なんかと行きくないのか。
嫌だからこそ、自分ひとりでやろうとしたのかもしない。
女なら誰でもいい節操なしだとか、異性の相手を簡単に誘う女たらしだとか。
そんな表情をした彼女を見て、思考がネガティブに変わっていく。
「あ、ううん。何でもない。一人で買いに行くよ」
「……ぁ。ま、待って!」
引き下がろうとした時、小野宮さんは今までに聞いたことのない大声を出した。
大声と言っても、クラスの女子どもが出す程の大きさではない。
「……い」
「え?」
「行きたい……一緒に、行きたいっ」
「え? あ……う、うん」
チャンスだと、今の俺は心からそう思った。
「ならさ、連絡先とか教えてくれないかな?」
「少し待ってね。携帯出すから」
俺たちは授業中だということを忘れて、お互いの連絡先を交換した。
心の中ではガッツポーズである。
今日の夜、ちゃんと寝れるかどうか心配になる。
「それじゃ、この時間もあと少しだし、決められるところまで決めようか」
「うんっ!」
彼女は、心から嬉しそうな顔を見せてくれた。
少年少女の恋物語〜好きな人出来たから本気出す〜 @0023_30
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