エピローグ 「ようこそ。アカシック・クロニクルへ」
空を見上げると、紺碧の夜空に数多の星が散りばめられていた。どこか、それが星ではないような気もしたが、それ以外の表現をエリクスは知らない。周りを包んでいた森の木々は消え失せ、紺碧の空はエリクスを包むように広がっている。
「ここは――」
唯一、足元の道だけがそれらとは違っていて。
「光だ……」
地面は光り輝いて、どこまでも一直線に続いている。まるで、光の橋だった。エリクスの目の前にすっと現れたリピカは微笑んで、
「ビウロストだよ」
少女の口から紡がれたその言葉は、以前エリクスが固執したもののひとつだった。宇宙の記憶――アカシック・クロニクルに続くと言われる世界一の橋。
「これが、ビウロスト……?」
あまりの出来事に、驚く事さえ忘れたようなエリクスの声が木霊する。広大な空間は音を反響させる術を知っているようだった。
「驚くのはまだ早いんだから。ほら、行こ」
そう言って、リピカはエリクスの手を取る。すると、ビウロストの光がどんどん増していって、ついには二人の姿を包み込んだ。冷たいけれど、優しい光。今までに味わった事のない不思議な感触が、ぱっと泡のように弾けて消えた。その時には――
「うわぁ……」
エリクスは巨大な筒の中にいた。
弧を描く左右の壁は銀色に神々しく光り輝き、天井は手を伸ばしても到底届かないほどに高い。その筒は先が見渡せないほど前後に、ずっとはるか彼方まで伸びていた。足を踏み出すと、かんっきんっと金属製の打楽器を鳴らしたような不思議な音がする。金属のようには見えるが、金属ではないような。エリクスには知りようもない材質。
「ようこそ。アカシック・クロニクルへ」
リピカはそう言った。
次の瞬間、エリクスは弾かれたようにリピカの肩を揺さぶる。
「ここが……ここがそうなのか?」
「うん、そう」
すっとしゃがみ込んだ彼女は地面に手を当てて、静かに引き上げた。すると、その手に引かれるようにして、地面の一部――立方体が浮かび上がる。その中には、びっしりと細やかな本が並んでいた。
「ほらね。これが世界の記録の一部。本のようだけど、紙じゃないんだよ、これ。こんな感じの引き出しが、この筒の中一面に収められているの。アカシック・クロニクルは、それ自体が巨大な図書館なんだ」
「ここが……アカシック・クロニクル……!」
無意識に呟いてしまった言葉を自分で認めた時、エリクスは再びリピカに掴み掛かっていた。
「お前、やっぱりアカシック・クロニクルを知っていたんだな」
ところが、リピカはゆっくりと首を横に振った。
「うぅん。あの時のあたしは知らなかったの――もっと正確に言えば、忘れていたの」
「忘れていた?」
まるで懺悔でもするかのように、リピカの声音が低く、沈んでいく。
「そう。忘れてた。アカシック・クロニクルに記録される世界達。あたしはその世界をいくつも見てきた。創られたばかりの世界であったり、終末を迎えた滅びの世界であったり。そこの住む人々の始まる夢も、終わる夢も。楽しい事もあった。優しい人にもたくさん出会った。けど、それだけじゃなかったんだよね。それら以上に辛い事や悲しい事がたくさんあって……あたしは、逃げ出したの」
きんっ、かんっ、きんっ。
不思議な金属音を響かせて、リピカはアカシック・クロニクルの中をゆっくり歩いていく。その彼女につられて――筒の中の引き出しが次々と引き出されていった。
「見て、こんなにも膨大な量。これでもまだほんの一部なんだよ。あたしはウィッチ・クイーン――母親からこのアカシック・クロニクルを受け継いだ。ここで予言されている世界の出来事を確認して、足りない部分は補足し、管理するのがあたしの役目。生まれた瞬間に与えられた使命なの。馬鹿げていると思わない? そりゃ確かに歴史を残す意味で重要な事かもしれないけど、細大漏らさずその全てを残していくなんて、あたしはそのうち世界の事実で押し潰されちゃうわよ」
「そりゃあ……来る日も来る日もこんな場所にこもってたら気が狂うな。俺だったら」
「でしょ?」
同意を得られた事で、リピカは嬉しそうに撥ねた。故意に床を鳴らしているとも取れる。
「でさ。ある時、何もかも嫌んなって、あたしはあたしの中からビウロストとアカシック・クロニクルの記憶をぽいっと捨てちゃったわけ」
「捨てたって……」
その言葉は、かつて彼がぼそりと言った言葉とダブって聞こえた。何故それだったのかは分からないけれど、エリクスは直感的に悟る。
「――お前、まさかっ!」
「そう、それがシャロウ・ヴィン。人間世界で伝説の英雄と呼ばれてた人物は、実はあたしの記憶の一部を埋め込んだ人形だったんだよ……」
エリクスは何も言えなかった。何を言えば良いのかも分からなかった。シャロウがリピカの生み出した人形だったという事もそうだが、彼女が背負ったもの、彼女がしでかした事、その大きさに。
「……やっぱ、軽蔑するよね。こんな奴」
ぺたんと座り込んだリピカは、膝の中に顔を埋めてしまう。
「じゃあ、なんで、今になってこれを思い出そうとしたんだ?」
「エリクスの……弟君に、教えられたから」
「ヘリオトに?」
表情は見せずに、膝の上で頷くリピカ。
「自分にしか出来ない事。自分の成すべき事。嫌だからってそういうのを簡単に投げ出して、自分の好きなように生きるのは、逃げてるだけなんだろうなって。ヘリオト君を見て、そう思ったの」
「……だったらいいんじゃないか」
「え?」
リピカは既に涙で濡れていた顔を上げる。女の涙は苦手だったので、なるべくそれを視界に入れないようにして、
「シャロウも口ではああ言ってたけど、ちゃんとお前の事を思ってたと思うんだよな。だから、お前がそう今思うのなら、奴も無駄じゃなかっただろうし」
エリクスの言葉が嬉しかったのかどうかは知らないが、泣いている上に喜びが混じったような複雑で――悪く言えば、ぐしゃぐしゃになった顔で、
「や、優しくしてくれたって、何もでないんだからね」
別に何も期待なんかしてねーよ。とエリクスは舌打ち混じりに呟いた。それから、ふと思いついた事を口にしてみる。
「……お前、最初からヘリオトの死期も知ってたんだろ」
「だいたいはね」
リピカはすっと立ち上がって、ぐいっと目元を拭う。そして、少しの間があって、
「これは言おうかどうしようか、迷ってたんだけど……」
重そうに、その口を開く。
「ん?」
「でも、エリクスには、知る権利があると思うから」
「何の事だ?」
「弟君の――記憶障害の原因」
体が震えた。ヘリオトが亡くなって、もう一年以上。今更そんな事実を知る事に、体が拒否反応を示したのか。ばっくりと大きく開いて、止め処もなく血を流していた傷口はようやく塞がり始めた頃。血だって、そろそろ止まった。なのに、それを自分から開くような真似をしてもいいのか。
視界が揺れる。ふいにぐらりと大きく傾いて、それでもエリクスは踏み止まった。意を固める。あとは勇気を出すだけだ。
「……教えてくれ」
リピカが表情で、もう一度、いいの?――と尋ねてくる。迷いはあったけれど、エリクスは頷いた。
「ヘリオトが重度の記憶障害を患ったのは、今から三年と八ヶ月、二十三日前――アカシック・クロニクルの記録によれば、ね。でも、それより前から彼は体が弱くて、ほとんどが家にこもり切りの毎日だったよね」
「ああ」
「そこをアル・アジフに付け狙われたの。アイツは人の心の闇を見つけ出して、寄生するのが得意だから」
「じゃあ、何か。ヘリオトの記憶障害は、既にアル・アジフに取り憑かれていたからって事なのか」
「そうだよ」
がきんっ!
エリクスが怒りに身を任せて地面を踏み抜いた為、筒の中に一際大きな金属音が鳴り響く。
「でも、心の闇って! ヘリオトがなんで――!」
それの返答が帰ってくるまで、先程よりも更に長い時間を費やした。一度、口を開いては、決心がつかず――また、どう言葉にすればいいのか迷ったのだろう。リピカが何度も口をぱくぱくさせていたせいだ。
やがて、
「ヘリオト君はね。兄であるアンタに感謝するのと同時に、妬みや嫉妬、後ろ暗い気持ちを抱いていたみたい。……彼は自分でもその気持ちには、気付いていたみたいだったけれど」
なによりも――
なによりも、ショックを受けた言葉だった。
リピカの口を離れた声が、空気中の振動としてこちらに届くまでにもすごく時間が掛かったような気がするし、こちらの耳に届いたら届いたで、脳が理解を拒否したようにも思えた。目の前は真っ白で、何も見えない。頭は熱に浮かされたように、じんじんと痛みを返してくる。
「なん、で……」
「やりたい事が出来る兄。何も出来ずに寝込んでばかりの自分。羨ましさや劣等感が募って、いつしかそうなってしまったんだと思うよ」
「アイツだって……俺に出来ない事、いっぱい持ってたのにな」
振り返ってみれば、そう。いつだって。
例えば、絵。
本人は忘れてしまったみたいだが、いつか街の風景画コンクールの子供の部で優勝した事があった。壇上で、髭のおじさん――後から知った事だが、あれは市長だったらしい――から、素晴らしい誉め言葉と、周りの群集から盛大な拍手を貰ったヘリオトの姿を見て、下から見物していたエリクスは、弟の晴れの姿を誇らしげに思った記憶がある。
例えば、読み書き。
大が付くほどの勉強嫌いだったエリクスは、どう逆立ちしてもヘリオトに敵わなかった。ヘリオトはいつの間に覚えたのか知らないが、エリクスはヘリオトに読み書き教わったほどだ。今、エリクスが新聞を読めるのは、最低限の事を彼から学んだおかげでもある。
「尊敬と妬み。好きと嫌い。そういうものはみんな表裏一体なんだよ。エリクスはその時から、自分にしか出来ない事をひたすら頑張ってきたんだもの。結果として、ヘリオト君はそう思っちゃったけれど。でも、本当に憎んでいたかどうかは、ずっと一緒に暮らしてたエリクスが一番良く分かってるよね」
「優しくしてくれても、なーんも出ねーぞ」
「あ、期待してないから」
あっけらかんと言い放つリピカに、ようやく笑えた。
「だから、か……?」
「え」
「お前がヘリオトを殺したのは。アル・アジフが現れないようにする為に」
「言い訳みたいになっちゃったけれど、そうだね。弟君がリュリアーサにアル・アジフを呼び寄せたようなものだから……」
「そう、だったのか」
エリクスだけが知る事だが、アル・アジフに飲み込まれた後、老獪な声に重なって、確かにヘリオトの声がした。あれは、そういう事だったのだろう。それにあの中から助けてくれたのもヘリオトだったと、エリクスは信じている。
「でも、きっとまたどこかで現れると思う。永久に、誰も彼もの記憶から忘れ去られるというのは、本当に寂しい事だと思うから」
「なんだそれ」
「アル・アジフは言ったでしょ。自分の望みは、アカシック・クロニクルに組み込まれる事だって。『彼ら』はみんな、忘れ去られたくないんだと思う。だから、人を襲い、人の心の隙間に入り込むんだよ」
「ちっ! ふざけんなよ、そんな事で!」
「……エリクスの記憶の中に、アル・アジフという名前は残ったでしょ?」
舌打ちをして、無造作に後ろ髪を掻き毟る。
「そう。大切なのは、忘れない事。エリクスは、弟君の事を。あたしは、シャロウの事を。ずっと忘れなければ――きっと彼らはまたあたし達の前に現われるから。もちろん、このあたしも」
「……俺、今思ったんだけど。俺は――俺達人間は、リピカほど何もかも知っている訳じゃないんだ。俺達は何も知らないが故に、真っ直ぐ自分が思う道を生きていくしかないんだ。自分にしか出来ない事を。考え方を引っくり返せと言われても、急には無理ってもんだよ」
そう言って、笑う。つられて、リピカも笑ってくれた。
「まぁ人間には無理だよ。当然だね」
「魔女め。ていうか、『このあたしも』――?」
ふと、リピカの言い回しが気になった。
見えない何かを抱くように、胸に両手を重ねる彼女。錯覚だろうか、元々色素が薄い真っ白な肌が更に白く――いや、透明になって、
「おい?」
リピカの体がアカシック・クロニクルの銀色を透過し始める。笑っていた彼女は波が引くように素面に戻った。平静を保とうと考えたのか、しかしそれは徒労に終わり、リピカは複雑な泣き笑いを見せた。
「エリクスは、いつまでもあたしを覚えててくれる……?」
「何を言ってるんだ。お前。まさか」
「また、いつか、ね」
限界まで風景に溶け込んだ体は次の瞬間にぱんっと弾けて、そして消え失せる。リピカだった光の欠片が雪のようにアカシック・クロニクルの円筒の中を舞い、やがてそれもすぅっと染み入るように消えた。
「どういう、事だ」
広大な無機質の中で、独りになったエリクスは呆然と呟く。
きんっ、かんっ、きんっ。例の金属音が鳴り響いて、エリクスの背後から誰かが近付いて来た。なんだ、リピカの悪い冗談かと思い、何を言ってやろうかと色々巡らせながら振り返ると、そこに立っていたのはリピカではなく、赤い少女。
「お前……サシャ」
「遺言は、終わりましたか」
いつも唐突な娘だ。平坦な表情で問い掛けて来る。
遺言――?
「演技の悪い事言うな。何が遺言だ」
「リピカの遺言です」
「リピカの、って、リピカはさっきまでそこに――」
「あれは幻です。亡霊です。残りカスです」
歯に衣着せぬサシャの言葉に顔を顰めていると、彼女は更に続けた。
「既にリュリアーサの街――十四番目の世界は何事も無かったかのように機能し始めています。無論リピカが掛けたリンカネーションも解け、正常な時の輪の中に戻りました。それがどういう事か、全てを語らずともお分かりになりますわよね」
「え……」
「お忘れですか――」
壊された街を巻き戻すリンカネーションは既に十二回も行われて、その反動は確実に貴女の蝕んでいます。
わたくしの見立てでは、あと一回です。それはわたくしが言わずとも、貴女自身がよくご存知でしょう。ご自分の体なのですから。
リュリアーサはこのまま滅びたままにしておくべきです。でなければ、次のリンカネーションで貴女が死にますよ。
エリクスの脳裏に次々とそれらの言葉が蘇る。
蘇りはしたが――それらが、今自分の置かれた現実と何一つ結びつかない。それはリピカの死を認める事になるから。
「わたくしの忠告を聞かないで、十三回目のリンカネーションを行うからです。ウィッチ・クィーンに与えられた永遠の命も無駄にして、愚かなリピカ」
一瞬で怒りが湧き上がったエリクスだったが、それが静まるのも一瞬だった。
表情は何も変わっていないのに、サシャの左の目から流れた一筋の涙が頬を滑り落ちたのだ。ただそれだけだったのだが、何か見てはいけないようなものを見てしまった、そんな思いがエリクスを支配する。
「さぁ、貴方も元の世界にお帰りなさいな。恐れ多くもこのわたくしが送って差し上げますわ。ここはアカシック・クロニクル、魔女リピカが管理する大きな記憶の住み処です。貴方の場所ではありませんから」
「アカシック・クロニクル……」
「貴方に全てを伝えたい――それがリピカの最後の望みでした。わたくしはそれを叶えたまでです」
この銀色の円筒が彼女の世界。無機質で、無愛想で、返してくれるのは甲高い足音ばかり。そして、おそらくはいずれ嫌になるであろう世界の事実。人間の一生よりも遥かに長い時間を彼女はここで過ごした――
「……ヘリオトはさ。リピカの事が好きだったんだよ」
何だろう。自分で何が言いたかったのか、よく分からないが。
サシャもまた一瞬きょとんとして、おもむろに口を開く。
「そんな事、見ていて分かりましたわ。リピカは貴方が好きだった事もです」
虚を突かれた訳ではないが、それでも一瞬以上きょとんとしてしまうエリクス。はっきりと言葉にされて、こみ上げてくるものが一層多くなる。
「けど、二人とも居なくなっちまった……」
「リピカが繋げた世界の上で貴方がどう過ごそうと勝手ですが――少なくとも、貴方にはまだ待っている人が居るでしょう」
「アリア……」
「そう、そんな庶民くさい名前の街娘でしたわね。それともこの銀筒の中でふさぎ込んで、幻に取り込まれるのを待つというのであれば、わたくしも超絶バックアップいたしますが。いかがなされます?」
赤い少女はまるで銀筒と同じ無愛想な表情で、エリクスの答えを待っていた。
それから太陽と月がいくつも中天を廻る。
たとえ、大切な人が居なくなっても世界は廻るのだと、嫌でも教えられる。
時間の流れが人の心を癒していく。
エリクスはアリアドネの献身的な態度に随分と助けられ、改めて彼女と人生を共に歩む事になる。
「永久に、誰も彼もの記憶から忘れ去られるというのは、本当に寂しい事だと思うから」
――リピカはそう言ったけれど、それは本当なのだろうか。
居なくなった者が忘れないで欲しいと望むのは、残された者を呪縛する事になる。
残された者が忘れられないという事は、自ら歩みを止める事になる。
忘れたいわけじゃない。でもずっと背負っていくには重すぎる。
そんな疑問を持ち続けて、また幾星霜。
愛する人が傍に居て、愛する子供達が出来て、ゆるやかに穏やかに流れていく日常。
辛かったあの一年。短かったけれど、非現実的な戦いの記憶も薄れていく。
そして。
夢を見ていた。
登場人物は自分と、そして何故かあのサシャという魔女だけ。
「なぁ、このアカシック・クロニクルさ。俺でも使えるか?」
「使える使えないの話であれば、使えますわよ。ただ、ウィッチクィーンに知れた場合、どうなるか分かりませんね」
「じゃあ、これで――!」
「そこまで能天気ですと、厭きれを通して笑えますわね。アカシック・クロニクルは貴方の問いに答えてはくれませんよ。この中にある膨大な知識は、ただの人間である貴方に扱い切れる代物ではありません。貴方の寿命と引き換えにしても、です」
彼女は本気で怒っていた。
「とんだ甘ちゃんですわ。リピカがその命と引き換えに救った貴方と、貴方の世界を無下にしようだなんて。ちゃんちゃらおかしいですわね」
夢というよりは、走馬灯に近いものだったかもしれない。
次、生まれ変わったとしたら、今度はリピカと、ヘリオトと、アリアと。ああ、それからアイツ、シャロウ・ヴィンも。みんなで――
無愛想な銀色の中。
アカシック・クロニクルは中を歩く赤い少女の姿と足音を幾重にも反射させていた。
「やれやれですわ。わたくしもとんだ甘ちゃんですこと」
自嘲しながら赤い少女――サシャは膝を折って、ようやく探し当てたその銀色の立方体を引き出す。その中に刻まれているのは、何十年も昔にある街を強引な手法で救った清廉なる魔女の物語。
いくら同じ魔女とはいえ、自分のものではないこれを扱うのは、随分と骨が折れた。
「せめて、安寧たる過去への旅路を」
一際高くアカシック・クロニクルに響くその声。
エリクスを呼ぶ、たくさんの懐かしい声がした。
十五番目の世界が今、始まる。
(了)
十五番目の世界にて しび @sivi
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