フルダイブ型VRMMORPGの実現可能性をさらに考える。

阿井上夫

フルダイブ型VRMMORPGの実現可能性をさらに考える。

 前作で「VRMMORPGを論理的に説明した作品を読んだことがない」と言及した手前、自分の作品の中では以下の通り処理した。

 なお、視覚に関しては読者のアイデアで、私のものではない。


 ①機器の構成


 ・頭部に網目状の脳波計測及び刺激入力用の機器を巻く。

 ・目の上に視覚情報入力用のディスプレイを置く。

 ・首筋にバンドを巻く。


 ②五感の調節


 ・視覚は疑似網膜情報信号を網膜から直接取り込む。

 ・聴覚はイヤーフォンによって提供される。

  外部の音はノイズ・キャンセリング。

 ・触覚、嗅覚、味覚は、電気的な刺激で送り込む。


 ③視覚に対する運動の反映


 ・脳からの運動信号を首のバンドが脊髄の手前で読み取る。

  同時に対信号を発生させて末端筋組織への伝達を相殺する。

 ・検出された運動信号は解析され、視覚情報に反映される。

 ・脳内の電位差と伝達物質の濃度変化で、信号の目的を推測する。

  (何がしたいのか、が分かる)


「よし、これで完璧だ」


 そんな自画自賛をしていたが、甘かった。

 しばらくしてから、更に大きな問題が残っていることに気がついた。

 実際に頭の中でアバターを動かしてみると分かる。

 剣を振る。上手い。

 飯を食う。美味い。

 これは、いけそうだ。


 愛を囁く。


 えーっと。


 いいから愛を囁けよ。


 ご免、それは無理。


 なぜなら、言葉をVRMMORPGの中で再生するためには、どうしても本人が喋らないといけない。

 確か筒井康隆さんが『家族八景』でやっていたと思うのだが、思考をそのまま言語化すると会話にならないのだ。

「えー、今日はカレーに、うどんもあるな、そういえば昨日も麺で、でも今晩あたりカレーが、あ、カレーうどんあるじゃん!」

 こんな風に、主語述語の関係が本人にしか分からない省略された言葉になる。

 ここで、こう思う人がいるかもしれない。


「だったら実際に本人が喋ればよいのでは。で、マイクでそれを拾えばよいのでは」


 ほう。

 すると貴方は夜中に、

「デラックス・スーパー・マグナーム!!」

 とかいう必殺技発動の叫び声が、月三万円のワンルームマンション建屋内に轟いてもよいのだな。

 愛を囁く声が階下の親に聞こえても構わないのだな。


 前回も申し上げた通り、脳内の概念を直接検出するのは困難である。そして、身体行動までは推測できても、言語活動を推測するのは無理がある。

 思考を言語化する過程で、舌などの運動信号を検知して再生する手段は可能かもしれない。しかし、その信号を相殺する方法が思いつかない。

 言語を運動として処理する中枢神経は、脊髄以前、脳内のブローカ野に存在している。そんなところの信号を直接相殺する勇気は、私にはない。

 ついでに何か他のものまで消しそうだ。


 未だに解決策が思いつかない。

 VRMMO関係のアニメで会話を聞く度、

「これ、部屋から丸ごと聞こえてくるんだよな」

 と考える毎日である。

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