空を飛ぶ

林檎

空を飛ぶ

「もういくつ寝るとお正月〜」

はやと君は6才の男の子です。末っ子で少し甘えん坊です。お父さんに凧の作り方を教えてもらって、お正月に飛ばすのを楽しみにしています。


今日は、家族や親戚のおじさんおばさん達が集まって、餅つきをしています。

ホカホカのやわらかいお餅が出来上がりました。

みんなで囲んで、丸くしたり、あんころ餅を作ったりしています。





「出来上がったら、お母さんに見つからないように、あんころ餅をこっそり持って行こう」

はやと君は、末っ子なので、いつもお兄さんやお姉さんにたくさん取られてしまうので、先に取って隠しておこうとたくらんでいました。


大晦日の夜、ようやく凧は出来上がりました。こっそり持ってきたあんころ餅も、ナイロン袋に詰めました。

「よーし、明日はあんころ餅を食べながら凧上げをするぞ」


翌日、はやと君は一人で、予定通り公園に行き、凧上げをしていました。

「わーい、飛んだ飛んだ!」凧が、気持ちよさそうに空の上を飛んでいます。


その時です。急に強い風が吹いたかと思うと、はやと君の体も凧に引っ張られるように飛んで行きました。


はやと君は、凧に引っ張られながらも、ナイロン袋に入ったあんころ餅を落とさないようにしっかり握りました。


風が弱くなったかと思うと、ようやく地面に降りることが出来ました。

「いったいここはどこだろう?」

「えーん、えーん」

幼い子供の泣き声がします。見るとはやと君より小さな4才くらいの男の子です。

「どうしたの?」

「お兄ちゃんとお姉ちゃんはお年玉をもらえるのに、僕はまだ小さいからってお年玉をくれないの・・・」

「そうなの、じゃあこのあんころ餅をあげるよ、おいしいよ」

「ありがとう」

男の子は、うれしそうにあんころ餅を食べました。


その時です。また強い風が吹いたかと思うと、はやと君は凧に引っ張られるように空を飛びました。


今度降り立った所は、日本ではないようです。金髪の女の子が楽しそうに踊っていました。周りで見ている人々も楽しそうに手拍子をしています。新年を祝う踊りのようです。

女の子はとてもかわいくて、はやと君が、見つめていると、女の子はにっこり笑って、はやと君の頭に花輪をのせてくれました。赤や黄色のかわいい花輪です。

「ありがとう、これあげる」

はやと君は、女の子にあんころ餅をあげました。

言葉は、通じませんが、二人の気持ちは通じたようです。


その時です。また強い風にのって、凧は、はやと君を引っ張りました。

「さようなら〜」

はやと君は、飛びながら女の子に手を振りました。


次に降り立った所は、また知らない国でした。

痩せこけた子供達がたくさんいました。洋服を着ていない子や、着ていても粗末な洋服です。豊かな国ではなさそうです。


降りて来たはやと君を見て、みんな不思議そうな顔で見ています。

はやと君も、恥ずかしそうに笑ってみました。

すると、子供達も笑いました。それから言葉は分かりませんが、歌を歌い出しました。

はやと君が来たことを、歓迎してくれているようです。

言葉は通じませんが、気持ちは通じたようです。

はやと君の笑顔が、子供達に仲間だと認識させたようでした。


みんなで、楽しく歌ったり踊ったりしました。

はやと君は、お礼に残っていたあんころ餅を全部あげました。

みんな喜んで食べました。


その時、また強い風が吹きました。

「みんな、ありがとう!お元気で〜」

はやと君は、手を振りながら空高く飛んで行きました。


今度の強い風は、なかなかおさまりませんでした。

空の上で、必死で凧のひもにしがみつきました。

「バサッ」激しい音がしたかと思うと、はやと君と、凧は地面に落ちました。

凧が木の枝にぶつかって、やぶれてしまったのです。

「たいへんだあ、凧が壊れてしまった。家に帰れないよ」

はやと君が、困っていると、苦しそうな鳥の声が聞こえました。

足を骨折しているトンビでした。


はやと君は、自分が困っているのも忘れて、凧の竹で、トンビの骨折した足に添え木をして、手当てをしてあげました。


その夜、「もう家には戻れないかもしれない、お父さん、お母さんに会いたいよう。お兄ちゃん、お姉ちゃん達より、たくさんあんころ餅をもらおうなんて欲張ったから、ばちが当たったのかな・・・」

はやと君は考えていました。


翌日、目を覚ましたはやと君は、家族が恋しくて泣いていると、体が急に宙に浮きました。

足の痛みがひいたトンビが、はやと君をのせて空高く飛んでいました。

トンビは、はやと君を家まで運んでくれたのです。


家に着いたはやと君は、トンビにお礼を言いました。

「ありがとう、トンビさん。あっちょっと待ってて」

急いで家の中から、あんころ餅を持ってきました。


「よかったまだ残っていて、これ家の自慢のあんころ餅だよ、食べて」

トンビは嬉しそうに口にくわえて、空高く飛んで行きました。

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空を飛ぶ 林檎 @mint_green

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