第12話 大切な夢の忘れ方3
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「おい、それ本当に言ってるのか!?」
今日もインターンに行っていた。今週末は全部インターンで埋め尽くされている。
就職博覧会にも何度も行ったし、毎週のように就活課で面接の練習をさせてもらっている。いつもの餃子チェーンの飲み会で久々に息抜きした後、悲鳴を上げられたのにキョトンとした。
「だって、俺達もう就活するんだぞ? 現実見ろよ」
「見てるだろうが! だから暇な日を見て、解散バンドをしようって言っているのであって……」
「だからさあ……それが無駄だって言ってるんだって。内定取ったら、会社に研修に行かないといけないだろ? 卒業論文だってある、会社が今住んでるところから遠いなら、賃貸だって探さないと駄目だし。建設的じゃねえよ」
「お前……ギターに未練たらたらだっただろうが……!」
とうとう胸倉を掴まれ、にんにくたっぷりな口を近付けられて激昂される。何でそんな事言うんだろ、本当に。
俺は心底訳が分からなくなって、目を細めた。
「んな事言われてもさあ……」
「何だよ」
「既に、ギター売ったし」
「……はあ!?」
「だから売ったんだよ、就活の電車賃の足しに! ほら、インターンとは言えど何度も何度もバイト休んでるし、バイト代減ったら何かで削らないと電車賃出ないだろ!」
「~~~~! ああ、そうか! もういいよ!」
とうとう俺は胸倉を乱暴に離された。
何でそんなに熱いんだろう。俺には本気で分からず、折角美味かったはずのビールが不味くなるのを感じていた。
「ああ、マジでありえん。うちの男共無能でさあ……」
「必死だよね、もう後がないからって偉そうにふんぞり返っていびってさあ。サービス残業増えすぎて、いい加減転職考えるレベル。上は定時に帰るっつうのにさ。私ら替えの利く部品かよ」
ざらりとした言葉が飛び込んできたのに、自然とイラリとする気持ちを、ビールで落ち着ける。
大人にならないといけない。働かないと食っていけない。そんな事は分かっている。でも。
毎日毎日会社の悪口を言い、自分が働いている事をアピールし、愚痴ばかりを言う。
そんな大人は、本当になりたかったものなんだろうか?
小学校の卒業論文で書いた将来の夢。そこに何を書いたのか、今はもう覚えていない。
あの頃の俺に顔向けできるのかすら、今の俺には分からない。
苦いものが込み上げてくる中、「お疲れー」と言う声が聞こえてきた。
前にプロになりたいと酔狂な事を言っていた奴だった。
皆がリクルートスーツな中、奴だけは随分とカジュアルな格好をしている。
「あれ、空気悪い……喧嘩?」
「ああ、お疲れ」
「オーディションどうだった?」
「えへへ、じゃーん」
奴は通知を見せた。酔狂な奴は、一人就活戦線から離脱して、バンドオーディションに明け暮れていたのだ。そして見せてきた通知を見て、皆が目を見開いた。
俺でも知ってる有名なプロダクションのオーディションの合格通知だった。
「おまっ……! すげえじゃん!」
「ありがとう! でも最初はインディーズで知名度上げてからメジャー行きだから、先は長いかな」
皆が歓声を上げて、そいつをぐりぐりしたり、抱きついたりする。俺はそれが心底信じられなく思った。
ビールが、自然と不味くなる。
「おま……その間どうやって食べていくんだよ」
「そりゃバイトするよ」
「あのなあ……その間年金とか保険とか、どうすんだよ」
思わず嫌みっぽい事を言ったものの、奴はきょとんとした顔をした。
「そんなの、頑張るよ?」
「だからあ頑張る頑張らないでどうこうできるもんじゃ」
「だってさ、一番好きなものから逃げて後悔するんだったら、一番好きな事で後悔する方がマシじゃん」
「……っ!」
さも当然な事を言われて、俺は喉を詰まらせる。
夢が叶った人間なんて、世の中にどれだけいるんだよ。皆が皆野球選手になれる訳がない。皆が皆アイドルになれてたまるか。でも。
何でそれが悔しいって思うんだよ。何でだよ。
喉に引っかかったものがあっても、それを言葉にする事なんてできなかった。何を言いたいのか、言葉にしようとすれば拡散してしまって、ちっとも形にならないのだ。
なあ……本当に好きなものって、そんなに偉いもんなのか? もう俺には、分かんねえよ。
忘却魔法使いゆゆ 石田空 @soraisida
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