決戦

 重く低いスクリューの音が響き渡る。

 これから出撃だ。

 船で出発となると、男子がやりたくなることが一つある。

「船首に立って風を受けると気持ちいいよね 」

 船首に足を乗せ、腕を組んで調子に乗ってみる。

「マスター、そんな所に立ってると落ちますよ」

 サリナが心配してくれて呼びかけてくる。

「マスターかっこいいニャー!」

 それに反して、ユキは僕の行動を盛り上げてくる。

「これからモンスターを倒しに行くのに、お二人はまったく緊張感が無いですね。でも逆にそれが良いのかも知れませんが」

 相変わらず月は自己を主張するかのように、大きく光り輝いている。

 そして、その光に反応しているのか海が大きなその姿を映し出す。

 そこには、元々あったであろう綺麗な海が広がっている。

「マスター、最終確認ですが水中呼吸の魔法は長くは続けられないので、長引きそうなのであればすぐに戻ってきてください。当然ユキさんもですよ」

「逃げ足だけは早いから大丈夫だよ」

 心配してくれてるサリナに僕は笑って返事をした。

「そろそろ到着するはずです」

 到着の一言に今まで騒がしかった船が静寂に包まれた。


「どうやらここの真下のようです」

 サリナが魔法を使い、海中に潜むモンスターを見つけた。

「それじゃあ、飛び込むか」

「エル・フロール」

 サリナの魔法を受けたところで、海に飛び込む。

「マスター、聞こえますか?」

「聞こえるけど、これどうなってるの?」

 海に飛び込んで、水中呼吸だけでなく自由に動き回れることに気がついた。

 まるで重力が無くなったような感覚だ。

 おかげで、地上よりも楽に武器を取り扱うことが出来る。

「水中呼吸と水中移動です。これなら、楽に戦えるかと思いました」

 まったく、サリナのサポートは最高だな。

「マスター、そんなに褒められると照れますよ」

 だから、心を読むなって。

「一応、暗くても見えるように魔法をかけてあります。その真下に居ると思いますので気を付けてくださいね」

「サリナって、凄いんだニャー」

 まったく同感だ。

「あれかな?」

 深く潜っていると、大きな影が見えた。

「恐らくそれですね」

 その一言に更に緊張感が増す。

 近付くにつれて、その姿は大きさを増していく。

「さっさと、倒しますか」


 その姿を見て驚いた。

「おいおい、巨大なモンスターだけじゃないのかよ」

 巨大なモンスターの情報は正しかった。

「これは聞いていないぞ」

 モンスターの隣に、綺麗な女の子が眠っていた。

「完全に予定が外れた」

「どうかしましたかマスター?」

 僕は状況を細かに説明した。

 とりあえずモンスターを倒すことに変わりない。

「マスター、どうするニャ?」

「もちろん、倒すよ」

「どっちを倒すんだニャ?」

「そんなの、モンスター側に決まってるだろ」

 その女の子の招待が分からないので、とりあえず 当初の目的であるモンスターを倒す事にした。

「行くニャー!」

 ユキがお得意の弓(銛)でモンスターに攻撃を仕掛ける。

 この銛にはロープが付けられていて、逃げられないように船に括りつけている。

「僕も続くよ」

 短剣を振りかざし、その胴体が赤く滲む。

「驚くほど体が軽い」

 目を覚ましたモンスターは、こちらに向けて吠えた。

「なんだこれ、頭が割れそうだ!」

「マスター、頭が痛いニャー!」

 ただ、吠えているだけ。しかしその声が頭を割ろうとしている。

「コノヤロー!」

 頭が割るように痛いが、それでもモンスターに一撃入れてやった。

 すると、その声は止まった。

「くっそ、なんだよあれは」

「ユキもマスターに続くニャ!」

 弓に銛を構えて放つ。

 その銛はモンスターの目に一直線に飛んでいった。

 直撃を受けたモンスターは、もがき苦しむ様に泳ぎ回っている。

 ダメージは与えているようだな。

「マスター、危ないニャー!」

 注意された時にはもう遅かった。

 尾ひれが直撃し、海底に叩きつけられた。

 水中移動が災いして、ものすごく勢いで叩きつけられた。

「...ァァァ」

 声が出ない。

 霞む目に映るのは、更に追い討ちをかけてくるモンスターの尾ひれ。

 クソ!こんな所で死ぬのかよ!

 死にたくない!死にたくない!

 思いは強いが、体は動かない。

 目を閉じ、覚悟を決めた。

「させないニャー!」

「あれ?」

 目の前に迫っていた尾ひれが来ない。

 恐る恐る目を開くと、モンスターがのたうち回っている。

 ユキの放った攻撃が、モンスターの口から喉にかけて貫いていた。

「ナイスだユキ!」

「マスター、そろそろ魔法の限界です」

 ここで決めないと、チャンスはもう無い。

 渾身の一撃を脳天にくれてやるぜ!

 ユキは持てる限りの銛で雨を降らせる。

 モンスターの周りが赤く染まる。

「そろそろ沈めー!」

 渾身の一撃が命中して、僕はそこで意識を失った。


「着物の優人カッコイイわね」

「さすが俺の息子だな」

 以前に聞いた声、この光景。

 なんとか倒せたようだな。

 その安心感もつかの間、すぐに僕の記憶に集中する。

 なんだこれは?

 なんで僕は着物を着ているのか?

「ほらほら、遅れちゃうわよ。せっかくの七五三で家族写真を撮るんだから」

 父親らしき人も、母親らしき人も着物で素敵だ。

「これが、僕の家族なのか」

 不幸なんて全くない、仲が良いと評判の家族に見える。

「ほらほら、皆もっと寄ってよ」

「優人は主役だから真ん中な」

 カメラマンが合図する。

「ほら、優人もっと笑えよ」

 パシャ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そして僕は旅をすることになる 叛逆のまっさん @Konqtan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ