4-5
2-Aに戻ると、巨大なおっぱいが押し寄せてきた。
「鮎、お帰りっ!」
「苦しいから窒息するから」
あたしは清乃を床におろすと、すぐ後ろに控えていたゆずと華子に「何かあったの?」と尋ねた。
「じゃじゃーん」
「ででででー」
二人はあたしの質問には答えず、てんでバラバラな効果音とともに、机の上に置いてあったものを胸元で広げた。ゆずが広げたのが黒い胴衣。華子が広げたのが鮮やかな緑色のエプロン。すぐにディアンドルだとわかった。
「ちょ、待ってよ。これをあたしに着ろって言うんじゃないでしょうね」
あたしに問いに、ゆずと華子は「言うよう」「言うけど?」と即答する。
「バックヤードの女子だけいつもの制服じゃ寂しいからって、二人で夜なべして作ったんだって」
清乃があたしを見上げて嬉しそうに笑った。
「すごいよね。全員分用意したんだって」
言われてみれば、教室のあちこちで女子たちが――配膳係以外の子も――ディアンドルを広げてきゃあきゃあと盛り上がっている。
「胴衣の飾りつけが終わったら、サプライズでお披露目しようって」
「約束してたんだぜ。おういえー」
疲れた素振りを見せず、ハイタッチするゆずと華子。いやいやいや、あんたたちこれはちょっと頑張りすぎでしょ。
「これはもう、着るしかないよね」
「わかった。わかりましたよ。ありがたく使わせてもらいます!」
自棄ぎみな声を清乃に返すと、あたしはゆずと華子から衣装を受け取った。
「早速衣装合わせしよしよ」
「ブラウスはそのままで良いからここで着ちゃえよ」
「はいはい」
あたしは言われるままにボディスを着て、その上からスカートを腰に巻き付けた。
「おお……」
呻くように言ったのは誰だったか。
いや、わかってはいたんだ。
襟ぐりのおとなしい学校指定のブラウスを着ていても胸の大平原と肩幅の広さが強調されてしまうボディスに、無駄に長くて無駄に頑丈そうな脚とはあまりにミスマッチなエプロン。そりゃあ自分には似合わないことはわかっていたけども――。
「似合わないにも程があるわ!」
思わず叫んでしまった。
「いやいやいや、これはこれでかっこいいんじゃないかなー! 良い意味で!」
「おうおう! クオリティ高いって! 良い意味で!」
「こう、何て言うのかな! 女装初心者だけど素質感じさせる男の娘のようにかわいらしい女の子って感じ! 良い意味で!」
「わかる! ならいっそ胸パットはナシの方向でいこうじゃねえか! 良い意味で!」
「よくねーよ!」
あたしのダブルラリアットがゆずと華子のあごを捕えた。
「「グギャー!」」
そうだ。清乃はどこにいった。と、思った矢先に、カシャリとシャッター音が響き渡る。
「私はアリだと思うね。鮎のディアンドル姿」
決め顔でしょうもないこと言うな。っていうか、高速フリックをやめい!
あたしは逃げようとする清乃を背後からコブラツイストで締め上げてスマートフォンを取り上げると、素早く写真のデータを削除したのだった。
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