Detective Side

「随分話し込んでいましたね」


 警部補がパトカーの側まで戻ってくると、部下の大男が話しかけてきた。存在自体が威圧的なので、そこで待たせていたのだ。


「今の彼女、このアパートの住人でね。山辺さんとも面識があったそうなんだ」


「なるほど。そういうことでしたか」


「勤務先はフランク薬局だって。知ってる?」


「百歳商店街の薬局ですよ。内科のすぐ近くの」


「ああ、あそこね」


「ということは薬剤師さんですか」


「おそらく。最初は看護師かなと思ったけど違ったみたい」


「どうして看護師だと思ったんですか?」


「ほとんど化粧をしていなかったから。薬剤師は看護師よりももう少し甘いって話も聞くけど、同じ医療従事者だしね。臭いの強い乳液とか、派手なメイクは避けているんでしょう――もう、行った?」


「行ったって、彼女ですか?」


 警部補は無言でうなずいた。


「今、車に乗りました――大丈夫です」


 エンジン音を響かせて川原鮎の車がアパートから遠ざかっていくと、警部補は「戻ろう」とだけ言って、再びゴミ捨て場の前に向かった。


「何か気になることでも?」


「五十海市って、燃えるごみの日は週2回だったよね」


 歩きながら、警部補は部下の問いに答える。


「確かそうですが……それが何か?」


「さっきの彼女、私が急に呼びかけたものだから、驚いて自分が捨てたごみ袋を踏みつけたんだ」


 警部補は足を止めて、川原鮎が棄てたゴミ袋を指さす。


「このゴミ袋なんだけど、何か気づいたことはある?」


「カップラーメン、コンビニ弁当、デリバリーピザのボール紙……あまり自炊をしないタイプなんでしょうか」


「そこまでは同意するけど、他にもあるでしょう」


「ああ、生ゴミも入ってますね。みかんの皮に、お茶のティーパック……それから、あれは卵の殻ですか?」


「問題は量だよ。ざっと十個分はある」


「随分と卵好きなんですね」


 警部補は小さくため息をついた。


「戻りましょう。遺体と現場の検分が一段落したら、すぐにでも現場付近の聞き込みを始めなくては。今度こそ、首飾り売りの尻尾を掴んでやりましょう」


 意気込む部下を、警部補はどこか冷めた眼差しで見つめている……。

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