1-8
自転車と敷島に挟まれての帰り道。月の光が降り注ぐ街角はいつもよりちょっと明るくて、いつもよりちょっと窮屈に感じられる。
「サッカー部の調子はどう?」
「ようやく戦術についての意思統一が出来てきたが、まだまだ道半ばだな」
「そっちも前と同じようにはいかないか」
「そりゃあな。誰だって他の誰かの代わりにはなれない」
あたしも敷島も目線は前に向けたまま、歩き、話す。時々は後ろを振り返りたくなってしまうけれど。
「――残った人間でやれることをやる他ないんだよね」
「ああ。こっちはまだゲームメイクを秀彦一人に押し付けてきたツケを払っているだけだが」
敷島は今はもういないエースストライカーの名前を呟くと、何かを振り切るように小さく息を吐き出した。それから「プレッシングの連携は悪くないんだ」「中盤でのタメの作り方がまずい」「攻撃のバリエーションを増やしたいが今はまだ難しいだろう」などと珍しく饒舌に部活のことを語った。
もしかしたらあたしに気を使ってのことかもしれない。残念ながら身内にも経験者がいるにも関わらずサッカー知識に乏しいあたしには半分も理解できなかったけれど、そういう敷島の横を歩くのも悪くはないと思った。
「何だかマネージャーというよりコーチみたいだね」
「二年生だからな。ボール磨きだけやってれば良いわけじゃない。そういう川原はどうなんだ」
「へ? あたし?」
「生徒会執行部だよ。忙しいってことだけは伝わってくるが、もう慣れたか」
「んー、まぁ仕事には慣れたかな。ただ、時々メンバーに圧倒される」
「圧倒される?」
「何と言うか、自分たちならできるってナチュラルに信じる強さを持っているんだよ。もちろん頭でっかちの自負じゃなくって、やるべきことやってのことだから文句の付けどころはないんだけど、本当にこの人たちについていけるんだろうかって不安にはなる」
「意外だな。川原はもっと自分に自信を持っているんだと思っていた」
「なわけないでしょ。あたしが胸を張って言えることただ一つのことは、自分に自信なんてないってことくらいのものだもん」
「言っても良いが、胸は張るなよ」
「うるさいな。ともかくあたしが言いたいのは、できる人間の近くで仕事するってのはそれだけでもなかなかしんどいってこと」
別に名取会長から無茶振りされることはないし、常日はこっそり面倒見が良いし、清乃がいてくれるのは心強いし、正木先輩が時々うざいことを除けば結構良い環境だとも思うけど――。
「あ、そうだ」
あたしはふと思い出して、立ち止まった。
「実は今日、生徒会室でちょっとおかしなことがあったんだ」
「おかしなこと?」
「うん」
軽くうなづき返してから、あたしは神託の一件と、その後の顛末について、敷島に話すことにした。
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