男の独白 満ち足りぬ爪
京都駅で降りた女の爪は綺麗だった。
ただ、見るだけで満足すればよいのに、なぜ話しかけてしまったのだろうか。
もう少し、見たかっただけなのに。
あの爪は、母さんの爪に似ていた。
艶やマニキュアを除けば、ほぼ母さんの爪だった。
そうだ、母さんの爪を見よう。
母さんの爪は稲荷鬼王神社で貰ったお守りに入っているはずだ。
どこだ、お守りは。
無い。
爪を入れてから一度も離したことがないのに。
無い。
あの爪、どこに行った。
不安が忍び寄って来る。
母さんが死んだ時のように。
落ち着かぬ。
母さんが台車で火葬場に入って行く時のように。
火葬場から家に戻って来たときに見つけた爪。
あれがなければ、あれがなければ。
爪を切ろう。
今足りないのは爪だ。
でも、爪は今朝切ったばかりだ。
深爪してしまったから、これ以上切る余地がない。
それでも、切ろう。
パチン。
まだ、まだ切れる。
パチン。
もう少し。
パチン。
パチン。
痛い。
パチン。
パチン。
パチン。
パチン。
パチン。
パチン。
ああ、指が全部落ちた。
もう爪を切ることができない。
もう爪が生えてこない。
爪が欲しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます