男の独白 満ち足りぬ爪

京都駅で降りた女の爪は綺麗だった。

ただ、見るだけで満足すればよいのに、なぜ話しかけてしまったのだろうか。

もう少し、見たかっただけなのに。


あの爪は、母さんの爪に似ていた。

艶やマニキュアを除けば、ほぼ母さんの爪だった。


そうだ、母さんの爪を見よう。

母さんの爪は稲荷鬼王神社で貰ったお守りに入っているはずだ。


どこだ、お守りは。

無い。

爪を入れてから一度も離したことがないのに。

無い。


あの爪、どこに行った。


不安が忍び寄って来る。

母さんが死んだ時のように。

落ち着かぬ。

母さんが台車で火葬場に入って行く時のように。


火葬場から家に戻って来たときに見つけた爪。

あれがなければ、あれがなければ。


爪を切ろう。

今足りないのは爪だ。

でも、爪は今朝切ったばかりだ。

深爪してしまったから、これ以上切る余地がない。


それでも、切ろう。


パチン。


まだ、まだ切れる。


パチン。


もう少し。


パチン。


パチン。


痛い。


パチン。

パチン。

パチン。

パチン。

パチン。

パチン。


ああ、指が全部落ちた。


もう爪を切ることができない。

もう爪が生えてこない。












爪が欲しい。


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