第五話 暗転の絵画
いとも簡単に潜入できるのに疑問は持たないことにして、どこに向かうかを決めることにする。見たとこ、というか聞いたとこ、先生方はこれに慣れてそうだしこういう時に一番大事なのって一網打尽にされないことだ。とにかく一人でも犠牲者を減らして一人でも多く逃す。殲滅戦とかなら別に突貫しても(良くないけど)まぁまぁなんだけど、奪取戦はそれじゃ通用しない。
普通に考えてこの3人の中で一番生き残りそうなのは織田だ。陰陽師の安倍は?と考えると、和弓は狭いところだと不利にもほどがあるし連発はできない。さっきの末裔くんが追いかけてきちゃうとUSBそっちのけで戦っちゃいそうだし…俺は追いかけられたら逃げ切る自信がない。
俺が探して安倍が囮、織田が逃げるっていうのが一番現実的だな。それでも現実味がしないのは、まだ本郷がいないだけマシと考えることによって打ち消すことができる。大概の場合ヤツがいないっていうだけでマシになるって思うと本当あいつぶっ飛んでんな。なんで関わったんだ…運命?
くだらないことをうだうだ考えてもしょうがないので、まずは数学を探すことにする。数学の教科主任である皇先生はITに強い先生だ。だから案外簡単にUSBは盗めても中身を見れない可能性の方が高いと織田が教えてくれた。
「ま、そんなものどうにかするがな」
てことはどうにかできるお友達が近くにいるんですね。
「関西校の方に菅原孝標女がいてな。彼奴、今生でもオタク根性を発揮しておってそういうのを覚えるのは適任だったのだ」
つまりなにかに熱中すると他に目が向かないタイプってことですね、今回はパソコンということですか。
俺個人的に心配なんだけど、今のご時世彼女の好きだった源氏物語に似た話やゲームなんてごまんとあるわけじゃん、特に薄桜何ちゃらとか似てんじゃん(偏見)?大丈夫?息できてる?むしろ作者とかになっちゃってないかな。あ、っていうかすごいブロガーになってそう。すごい向いてそう。
とにかく織田が適任っていうならそれなりの腕前なんだろう。なら一安心だ。てことは、USBを奪取することに専念することにしよう。
隣を走る織田が言うには(あと服に紛れてた本郷のメモ書きによれば)皇先生は世界史の先生と仲が良いらしくUSBの保管などは一任しているらしい。あれ、世界史の先生?ってことは?
「仲原かいっ!!!」
声が大きくなっちゃうのは仕方がないだろう!?仕方ないよね!!!??
第六天魔王にそんな顔されてもボクちゃん謝りません!無理!
何でここで仲原きちゃうのねぇ。ある意味で一番バレちゃいけない相手だし、そこそこ強かった木曽義仲の生まれ変わりだよ?一時は重宝されてた義仲軍勢の頭領だよ?そんなやつ相手にしにゃならんのかい。
まぁでも、直接対決になる前にさっさと引き上げればいいだけなんだけど、そうならないのが最早お約束。階段を上がり三階部分をぶち抜いて作られている職員室に足を向ければ、織田が「伏せろ」と頭を鷲掴みにしてきて強制的に低い体勢にさせられる。
一瞬何が起きたのかわからなかったがガキンと何かがぶつかり合う音がして、悟った。攻撃を受けた。それも恐ろしく速い攻撃だ。
「やっぱり来やがったか、クソガキども」
声で絶望する。
「おいハルアキ。術は使うなと言っただろう」
「しょぉがあらへん。死にたいんやったらいいんやけど」
振り返れば長方形の紙で刀を止めている安倍がいる。紙には見慣れない文字が羅列していて一眼で術符だとわかった。
初めて見るそれはこの国立公【歴史科】ならではのもの。【歴史科】に通う生徒は倒会議で戦うために生前に関した様々な能力が付与された物を与えられる。元陰陽師の安倍なら今やってるみたいなヤツとか。織田は知らん。でもきっと鉄砲隊とかそういうのだろう。
術とか二次元にもほどがあるって?それが何故かこの学校の敷地内なら使えちゃうんだよ、超常現象じみたそれらが。ちなみに俺は一般生徒扱いのため物、術媒をもらってない。
安倍は左手を陰陽師お決まりのあの形にして、横に薙ぎ払った。すると符はその動きに呼応して吹っ飛んだ。だが刀とその持ち主は少しよろめいただけで特に何もダメージを受けた様子はない。それどころか血拭いをして綺麗に刀を鞘に収めた。
靴音をさせつつ俺たちの方を見たのは予想を裏切らない仲原四郎だった。
「何だ、亜沙比、お前も成績がヤバいのかぁ?きちんと俺の授業を聞いてねぇからだな。ゲームしてる暇があんなら単語の一つでも覚えろよ」
「うるせぇ暴力教師!銃刀法違反だぞ!」
「今更だろうそのツッコミは」
思っても言わなかったことを!確かにそうだけど!
とか言い争う前にあんたはこのテスト盗みに来てることに対してツッコミはないんかい。そう思ったけどどうやらその辺は諦めているらしい。大体他の先生が強そうな先生に対してデータ預けてる時点でそうだよな。
仲原は大きなため息をついて指を三本立てた。何、3分待ってやろう的な?
「3人だ。今回はあんまりにもお前らが懲りないからこちらがお膳立てしてやった。毎度毎度校舎に傷がつくのは校長もお冠だ」
ちょっと待って。これ校長も知ってんの。知った上で3人だ、とかなんか条件一点のこいつ。
「俺と体育の姉川、日本史の浅賀見先生、この3人でお前たちを撃退する。俺たちがそれをできたならお前たちは一ヶ月間の停学処分及び今後一年間倒会議への参加資格剥奪を課す。逆ならお前たちは無事模試の問題を入手し、Aクラスに行けるって寸法だ」
「それ負けた方が辛くない?」
思わず言ってしまったが、もちろん仲原が参加辞退を許してくれるはずもなかった。何せ眼光がやばい。それに織田と安倍が今更やめると言い出すはずもなく、よって俺は仲原と先輩の板挟みで強制参加っていうわけだ。ブラックもいいとこじゃねぇか。これが会社なら労基に違反しまくってるから即刻起訴して賠償金ふんだくってるところだね。
しかしうだうだ言っても始まってしまったものはしょうがない。
後ろで職員室の引き戸が開く音がする。
安倍の後ろ、長い廊下の向こうから巨躯が迫ってくる。
織田は俺より前に出て仲原と対峙した。
「ここは大将同士対決するのが筋であろう」
「じゃあ次鋒の吾は浅賀見殿とやるとしようか。文句あらしまへんな?」
「てことは、俺姉川先生?」
ねぇねぇ織田先輩、あんた戦国武将でしょ?武将同士やりたいこととかないの?姉川先生あの真柄直隆だよ?朝倉さんちの真柄さんだよ?豪傑ぶりじゃあなを馳せてる人と今生で一戦どうよ。愛刀がゲーム的にはおんなじ本丸で仲良くしてるっぽいけど、あんたたちは別にそうじゃないっしょ?晴らしとかなきゃいけない恨みとかなぁい?
という俺の懇願にも近い提案は聞き入れられることはなかった。
というか無視された。どうにも今の織田は仲原とやりあいたいらしい。
それじゃあ安倍と代わってもらおうとそっちを見たけれど、そっちもそっちで京言葉で何かを言い合ってる。いい時計してますねのあの次元の会話。もう雰囲気からして会話に入りたくないので、てか入った瞬間いい時計してますねって言われそうだから最早助けは求められない。
まただよ、またこういう状況だよ!
何でみんなこうも血の気多いのさ!
俺!一般人!!!!
と叫んだところでもどうにもならないので、おとなしく豪傑に立ち向かうことにする。泣きそう。
俺のクラスメイトは全員教科書に載っている(たまにマイナー)(只今手直し中) 朔 伊織 @touma0813
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。俺のクラスメイトは全員教科書に載っている(たまにマイナー)(只今手直し中)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます